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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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六時十分の町

前書き


夜になると、


町は静かになる。


でも。


静かな町ほど、


音はよく聞こえる。


踏切。


風鈴。


犬の鳴き声。


自転車のブレーキ。


そして。


人の足音。


誰もいない道ほど、


足音は大きく響く。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第52話


六時十分の町


⸻


午後六時十一分。


⸻


海鳴町。


⸻


商店街。


⸻


街灯が消えた。


⸻


シン……


⸻


町が、


一瞬で音を失う。


⸻


「……。」


⸻


レイが小さく呟く。


⸻


「なんだよ。」


⸻


「これ。」


⸻


悠も息を飲む。


⸻


さっきまで聞こえていた、


テレビ。


⸻


夕飯の支度。


⸻


子どもの声。


⸻


全部、


消えていた。


⸻


まるで、


町全体が息を止めたようだった。


⸻


その時。


⸻


ガラッ。


⸻


一軒の引き戸が開く。


⸻


和菓子屋。


⸻


暖簾をくぐって出てきた老人。


⸻


福本源一郎(81)


⸻


毎日午後六時になると、


店先を掃除する。


⸻


それが四十年間、


変わらない日課。


⸻


しかし今日は、


箒を持ったまま、


空を見ていた。


⸻


「またや……。」


⸻


誰に言うでもなく呟く。


⸻


榊原が近付く。


⸻


「何がまたなんです?」


⸻


源一郎は、


静かに時計台を見る。


⸻


止まった時計。


⸻


「今年も。」


⸻


「止まった。」


⸻


その一言だけだった。


⸻


本屋


⸻


シャッ……


⸻


シャッターが半分だけ開いている。


⸻


店主。


⸻


三枝圭介(49)


⸻


眼鏡。


⸻


本好き。


⸻


口数は少ない。


⸻


棚へ本を戻している。


⸻


悠を見る。


⸻


「夜は。」


⸻


「推理小説より。」


⸻


「昔話の方が役に立つ。」


⸻


「え?」


⸻


「海鳴町は。」


⸻


「昔話を忘れた。」


⸻


それだけ言うと、


照明を消した。


⸻


⸻


郵便配達


⸻


バイクの音。


⸻


ブロロロ……


⸻


赤い郵便バイク。


⸻


佐山直人(33)


⸻


夜勤担当。


⸻


郵便受けへ手紙を入れながら、


悠たちを見る。


⸻


「旅行?」


⸻


「まぁ。」


⸻


「夜は歩かない方がいい。」


⸻


「配達してても。」


⸻


「誰もおらん道から。」


⸻


「足音だけ聞こえる。」


⸻


笑う。


⸻


でも。


⸻


目だけ笑っていなかった。


⸻


⸻


神社


⸻


石段。


⸻


灯籠。


⸻


古い鳥居。


⸻


そこを掃除していた女性。


⸻


神崎文江(74)


⸻


神社の世話役。


⸻


白い割烹着。


⸻


メアリーを見る。


⸻


何も驚かない。


⸻


ただ。


⸻


深く頭を下げる。


⸻


「今年も。」


⸻


「帰って来たんやね。」


⸻


メアリーも、


自然と頭を下げた。


⸻


「文江さん……。」


⸻


悠は違和感を覚える。


⸻


「みんな。」


⸻


「メアリーが見えてる。」


⸻


榊原も同じことを考えていた。


⸻


「いや。」


⸻


「見える人間だけが。」


⸻


「残っとる。」


⸻


⸻


午後六時二十分。


⸻


神社の境内。


⸻


風鈴が鳴る。


⸻


チリン……


⸻


チリン……


⸻


その音に混じって。


⸻


誰かが、


石段を上ってくる音。


⸻


コツ……


⸻


コツ……


⸻


コツ……


⸻


全員が振り向く。


⸻


一人の少女。


⸻


高校生くらい。


⸻


制服姿。


⸻


ヘッドホン。


⸻


自転車を押している。


⸻


雨宮しおり(17)


⸻


悠たちを見る。


⸻


「あ。」


⸻


少し驚いた顔。


⸻


「また来た。」


⸻


榊原が聞く。


⸻


「君。」


⸻


「また?」


⸻


しおりは首を傾げる。


⸻


「毎年。」


⸻


「この時期になると。」


⸻


「同じ人たち見る。」


⸻


静寂。


⸻


「え?」


⸻


悠が聞き返す。


⸻


しおりは、


不思議そうな顔をした。


⸻


「去年も。」


⸻


「一昨年も。」


⸻


「その前も。」


⸻


「お兄さん。」


⸻


「そこにいたよ?」


⸻


悠の背筋が凍る。


⸻


「俺?」


⸻


「うん。」


⸻


「同じ服じゃなかったけど。」


⸻


「毎年。」


⸻


「海見てた。」


⸻


レイが小さく呟く。


⸻


「……おい。」


⸻


「これ。」


⸻


「どういう意味だ。」


⸻


その瞬間。


⸻


監視者の青年が、


神社の石段の上に立っていた。


⸻


今度は逃げない。


⸻


ゆっくり、


ポケットから古い写真を取り出す。


⸻


そして。


⸻


悠へ向かって放る。


⸻


ヒラ……


⸻


一枚の写真。


⸻


悠が拾う。


⸻


そこには。


⸻


十二年前の祭り。


⸻


ではなかった。


⸻


写真の日付。


⸻


三年前。


⸻


そこに写っていたのは。


⸻


神社の前へ立つ、


悠だった。


⸻


「……。」


⸻


悠の顔から血の気が引く。


⸻


「俺。」


⸻


「三年前。」


⸻


「海鳴町なんか。」


⸻


「来てないぞ……。」


⸻


ページをめくるように、


写真の裏返しを見る。


⸻


そこには、


鉛筆で、


たった一文だけ。


⸻


「君はまだ思い出していない。」


⸻


風が吹く。


⸻


監視者を見る。


⸻


もう、


そこには誰もいなかった。


⸻


神社の鈴だけが、


静かに鳴り続けていた。


⸻


ゴォォン……。


⸻


― 第52話・終 ―



後書き


今回から、「海鳴町そのもの」を描くため、多くの超脇役を登場させました。


新キャラクター


* 福本源一郎(81)…和菓子屋。時計が止まることを毎年知っている。

* 三枝圭介(49)…本屋店主。「昔話を忘れた町」と語る。

* 佐山直人(33)…夜間配達員。夜道の異変を経験している。

* 神崎文江(74)…神社の世話役。メアリーの存在を自然に受け入れている。

* 雨宮しおり(17)…町の女子高生。「毎年、悠を見ている」と証言する少女。


ここからは、「町の人々が知っていること」と、「悠自身が忘れている記憶」が少しずつ結び付き始めます。


そして物語は、「メアリーの事件」だけではなく、「悠自身の過去」へと静かに踏み込んでいきます。

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