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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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52/90

夕暮れのサイレン

前書き


町には、


昼の顔と、


夜の顔がある。


昼は、


笑顔で挨拶を交わし、


夕方には買い物客が歩く。


でも。


夜になると、


町は急に静かになる。


まるで、


何かを待っているように。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第51話


夕暮れのサイレン


⸻


午後五時四十五分。


⸻


海鳴町商店街。


⸻


夕日が山へ沈み始める。


⸻


商店街には、


夕飯の支度をする匂いが漂っていた。


⸻


パン屋の佐伯は店じまいを始める。


⸻


「おーい。」


⸻


「クリームパン残ったぞ。」


⸻


「持ってけ。」


⸻


悠は苦笑する。


⸻


「毎日そんなに余るんですか?」


⸻


「違う。」


⸻


佐伯は笑った。


⸻


「今日は誰かと食え。」


⸻


その一言に、


メアリーが少しだけ微笑んだ。


⸻


⸻


魚屋の前。


⸻


威勢のいい声が響く。


⸻


「アジ安いよー!」


⸻


店主、


坂口源造(72)


⸻


日に焼けた顔。


⸻


元漁師。


⸻


豪快な笑い方をする老人だ。


⸻


「刑事さん!」


⸻


「魚食わんと頭回らんぞ!」


⸻


榊原は苦笑した。


⸻


「ダボ、営業うまいな。」


⸻


「商売や!」


⸻


源造は大笑いした。


⸻


その笑い声につられて、


近所の子どもたちも笑う。


⸻


事件なんて、


この町には存在しないような、


穏やかな夕方だった。


⸻


しかし。


⸻


午後六時。


⸻


町中のスピーカーから、


防災無線が流れる。


⸻


♪夕焼け小焼け……


⸻


子どもたちが家へ帰り始める。


⸻


店主たちも、


急に片付けを始めた。


⸻


ガラガラ……


⸻


シャッターが閉まる。


⸻


一軒。


⸻


また一軒。


⸻


さっきまで賑やかだった商店街が、


十分も経たないうちに静まり返る。


⸻


レイが首をかしげる。


⸻


「早くね?」


⸻


悠も違和感を覚える。


⸻


「まだ六時だぞ。」


⸻


パン屋の佐伯まで、


急いで店を閉めていた。


⸻


「佐伯さん。」


⸻


悠が呼び止める。


⸻


「何かあるんですか?」


⸻


佐伯の手が止まる。


⸻


数秒。


⸻


黙ったまま、


シャッターへ手を掛ける。


⸻


「……。」


⸻


「夜は。」


⸻


小さな声だった。


⸻


「出歩くな。」


⸻


それだけ言うと、


店の明かりが消えた。


⸻


⸻


花屋。


⸻


西園寺美和も、


花へ布を掛けている。


⸻


「美和さん。」


⸻


榊原が声を掛ける。


⸻


「町の人みんな、


急いどるけど。」


⸻


美和は少しだけ笑った。


⸻


「夏はね。」


⸻


「みんな早よ帰るんよ。」


⸻


「なんで?」


⸻


その笑顔が消えた。


⸻


「……知らん方がええ。」


⸻


⸻


その頃。


⸻


商店街の外れ。


⸻


古い喫茶店。


⸻


「珈琲 つばめ」


⸻


カラン……


⸻


ドアが開く。


⸻


中から、


初老の男性が出てきた。


⸻


白いワイシャツ。


⸻


黒いベスト。


⸻


穏やかな表情。


⸻


喫茶店のマスター。


⸻


柏木修一(61)


⸻


「旅行かい?」


⸻


悠へ優しく話しかける。


⸻


「まぁ。」


⸻


「そんなところです。」


⸻


柏木はメアリーを見る。


⸻


一瞬だけ。


⸻


驚いたような顔をした。


⸻


だが。


⸻


何も言わない。


⸻


代わりに、


ポケットから古いマッチ箱を差し出した。


⸻


「停電になることがある。」


⸻


「持っていきなさい。」


⸻


悠が受け取る。


⸻


「ありがとうございます。」


⸻


柏木は店へ戻ろうとして、


立ち止まる。


⸻


振り返らないまま、


静かに言った。


⸻


「……時計を信用するな。」


⸻


「え?」


⸻


返事はなかった。


⸻


店のドアが閉まる。


⸻


⸻


午後六時十分。


⸻


商店街。


⸻


誰もいない。


⸻


風だけが吹いている。


⸻


その時だった。


⸻


カラン……


⸻


どこかで、


自転車のベルが鳴った。


⸻


チリン。


⸻


チリン……


⸻


悠が振り向く。


⸻


一本道。


⸻


夕焼け。


⸻


誰もいない。


⸻


「聞こえた?」


⸻


レイも頷く。


⸻


「あぁ。」


⸻


「誰もいねぇのに。」


⸻


その瞬間。


⸻


商店街の時計台が、


午後六時十分を指したまま止まった。


⸻


カチ……


⸻


カチ……


⸻


動かない。


⸻


メアリーが時計を見上げる。


⸻


青ざめた顔で、


ゆっくり呟いた。


⸻


「……始まる。」


⸻


「何が?」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーは時計から目を離さない。


⸻


「六時十分。」


⸻


「祭りの日も。」


⸻


「時計、


止まった。」


⸻


その瞬間。


⸻


商店街の一番奥。


⸻


夕闇の中に、


黒いパーカー姿の青年が立っていた。


⸻


昼間の監視者だった。


⸻


だが今回は逃げない。


⸻


じっと、


悠たちを見つめている。


⸻


そして。


⸻


ゆっくり首を横に振った。


⸻


「来るな。」


⸻


そう口だけが動いた。


⸻


次の瞬間。


⸻


商店街の街灯が、


一斉に消えた。


⸻


町は、


夜へと沈んでいった。


⸻


― 第51話・続く ―


後書き


今回は「海鳴町の日常」と「夕方六時十分」という新たな異変を描きました。


新たに登場した人物は、


* 坂口源造(72)…元漁師で魚屋の店主。豪快だが、夜の町を恐れている。

* 柏木修一(61)…喫茶店「つばめ」のマスター。何かを知っているが、多くは語らない。


そして重要なのは、監視者が初めて「逃げる」のではなく、「警告する」側に回ったことです。


読者のみなさんはここで初めて、


「監視者は敵なのか、それとも悠たちを守ろうとしているのか」


という新たな疑問を抱くことになります。

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