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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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もう一人の記録者

前書き


人は、


真実を知りたいと思う。


でも。


真実は、


一つとは限らない。


誰かの真実は、


誰かの嘘になる。


だから事件は、


簡単には終わらない。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第49話


もう一人の記録者


⸻


午後五時十分。


⸻


中村写真館。


⸻


店内。


⸻


シーン……


⸻


誰も喋らなかった。


⸻


受話器だけが、


床に転がっている。


⸻


ツー……


⸻


ツー……


⸻


ツー……


⸻


老人は腰を抜かしていた。


⸻


「大丈夫ですか!」


⸻


悠が肩を支える。


⸻


老人は震えながら頷いた。


⸻


「……声や。」


⸻


掠れた声。


⸻


「あの子の声やった。」


⸻


榊原が静かに聞く。


⸻


「誰の声や。」


⸻


老人はゆっくり答えた。


⸻


「写真を撮っとった子。」


⸻


静寂。


⸻


つまり。


⸻


監視者の青年。


⸻


「あの子。」


⸻


「まだ生きとる。」


⸻


部屋の空気が変わる。


⸻


「何て言うた?」


⸻


榊原が聞く。


⸻


老人は目を閉じる。


⸻


「写真は……」


⸻


小さく震える。


⸻


「まだ全部あるか。」


⸻


それだけ。


⸻


電話は切れた。


⸻


榊原はゆっくり写真を見る。


⸻


「全部あるか……」


⸻


「つまり。」


⸻


「まだ他にも写真がある。」


⸻


⸻


老人はゆっくり立ち上がる。


⸻


「ある。」


⸻


全員が振り向く。


⸻


「見せたくなかった。」


⸻


「でも。」


⸻


「もう隠せん。」


⸻


店の奥。


⸻


現像室。


⸻


赤いランプ。


⸻


暗室。


⸻


誰も足を踏み入れたことがない場所。


⸻


老人は棚を開ける。


⸻


古いフィルムケース。


⸻


一本。


⸻


二本。


⸻


十本。


⸻


数え切れない。


⸻


そして。


⸻


一番奥。


⸻


白い封筒。


⸻


表には、


たった一言。


⸻


『渡せ』


⸻


「誰に?」


⸻


悠が聞く。


⸻


老人は静かに答えた。


⸻


「ワシにも分からん。」


⸻


「十二年前。」


⸻


「店の前へ置かれとった。」


⸻


誰も言葉を失う。


⸻


封筒を開く。


⸻


中には、


大量の写真。


⸻


一枚目。


⸻


祭り。


⸻


屋台。


⸻


メアリー。


⸻


春人。


⸻


優斗。


⸻


普通の写真。


⸻


二枚目。


⸻


桟橋。


⸻


帽子の男。


⸻


三枚目。


⸻


帽子の男を、


遠くから撮る監視者。


⸻


四枚目。


⸻


さらにその後ろ。


⸻


誰かが、


監視者を撮っている。


⸻


「……え?」


⸻


レイが固まる。


⸻


「監視者も。」


⸻


「撮られてる。」


⸻


悠が写真をめくる。


⸻


五枚目。


⸻


監視者。


⸻


帽子の男。


⸻


そして。


⸻


木陰。


⸻


さらに別の人物。


⸻


カメラを構えている。


⸻


「なんだこれ。」


⸻


榊原が低く呟く。


⸻


「撮る人間が。」


⸻


「増えとる。」


⸻


六枚目。


⸻


七枚目。


⸻


八枚目。


⸻


写真が進むたびに、


一人ずつ増えていく。


⸻


まるで。


⸻


誰かが誰かを監視し、


その監視者をまた誰かが監視している。


⸻


異様な光景だった。


⸻


宮本が静かに言う。


⸻


「刑事さん。」


⸻


「これ。」


⸻


「事件やなくて。」


⸻


「監視の連鎖です。」


⸻


榊原は頷かなかった。


⸻


ただ。


⸻


最後の写真を見た瞬間、


表情が変わる。


⸻


そこには。


⸻


写真を撮る監視者。


⸻


帽子の男。


⸻


木陰の人物。


⸻


そして。


⸻


一番手前。


⸻


笑顔でカメラを構える、


中村写真館の老人が写っていた。


⸻


部屋が凍り付く。


⸻


「……。」


⸻


老人自身も写真を見る。


⸻


震える。


⸻


「そんな……。」


⸻


「ワシは……」


⸻


「撮っとらん。」


⸻


悠が写真を見る。


⸻


確かに。


⸻


老人本人が、


カメラを持って立っている。


⸻


でも。


⸻


その写真を、


誰が撮ったのか分からない。


⸻


その瞬間。


⸻


写真が一枚、


床へ落ちた。


⸻


裏返る。


⸻


全員が拾い上げる。


⸻


裏には、


赤いインクで、


たった一行だけ。


⸻


「最後に残るのは、記録した者だ。」


⸻


誰が書いたのかは、


どこにも書かれていなかった。


⸻


榊原は写真を見つめたまま、


ゆっくり呟く。


⸻


「この事件……。」


⸻


「犯人を探しとるんやない。」


⸻


静かな声。


⸻


「“記録者”を探しとる。」


⸻


その瞬間。


⸻


写真館の外で、


カシャッ。


⸻


シャッター音。


⸻


全員が飛び出す。


⸻


夕暮れ。


⸻


商店街。


⸻


誰もいない。


⸻


ただ。


⸻


写真館の向かい側。


⸻


電柱の陰に、


新しいインスタント写真が一枚だけ、


風に揺れていた。


⸻


そこに写っていたのは――


今この瞬間、写真館から飛び出してきた悠たち全員の姿だった。


⸻


撮影日時。


⸻


午後五時十八分。


⸻


しかし、


写真を見つけた時刻は、


午後五時十七分。


⸻


まだ撮られていないはずの写真だった。


⸻


――第49話・続く。


⸻


後書き


今回は「監視者」を単なる謎の男から、「事件を記録していた人物かもしれない存在」へと位置づけ直しました。


また、「誰かを撮る者が、さらに誰かに撮られている」という構図を入れたことで、事件全体が一段深い謎へと変わります。


そして最後の「未来の時刻が印字された写真」は、超常現象なのか、人間のトリックなのか、まだ判断できません。


ここから第2章は、「監視」と「記録」の意味が物語の核心へとつながっていきます。

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