古い写真館
前書き
人は、
忘れた記憶を探そうとする。
でも。
記憶のほうが、
人を探していることもある。
逃げても。
隠れても。
十二年前の夏は、
少しずつ、
こちらへ歩いてくる。
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Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第47話
古い写真館
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午後三時十五分。
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海鳴町。
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住宅街。
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「……逃がしたか。」
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榊原が息を整えながら呟いた。
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森の入口。
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足跡はそこで途切れていた。
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一本道。
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脇道はない。
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隠れる場所もない。
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それなのに。
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青年は、
煙のように消えていた。
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宮本が周囲を見渡す。
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「地元の人間でも、ここまで逃げ切るのは難しいですね。」
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榊原は黙ったまま森を見つめる。
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「誰かが逃がした。」
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静かな声だった。
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「一人ではない。」
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悠はその言葉が引っ掛かった。
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「共犯者……ですか?」
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「まだ分からん。」
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榊原は首を振る。
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「せやけど。」
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「アイツは逃げる場所を知っとった。」
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「つまり。」
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「昔からこの町におる人間や。」
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風が吹く。
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木々がざわめいた。
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午後四時。
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海鳴町商店街。
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昔ながらのアーケード。
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シャッターの閉まった店も多い。
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「ここも変わったな。」
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悠が呟く。
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高校時代。
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もっと賑やかだった。
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ゲームセンター。
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駄菓子屋。
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本屋。
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全部なくなっていた。
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「写真。」
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突然、
メアリーが立ち止まる。
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「……?」
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指差した先。
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古びた写真館。
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木製の看板。
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色褪せた文字。
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『中村写真館』
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ショーウインドーには、
昔の七五三や成人式の写真が飾られている。
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「ここ。」
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メアリーが小さく呟く。
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「祭りの日。」
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「写真撮った。」
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悠が思い出す。
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「そうや。」
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「集合写真。」
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「ここで現像してもらった。」
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榊原が目を細めた。
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「入るで。」
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店内
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カラン……
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古いベルが鳴る。
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「すみませーん。」
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返事はない。
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静かだった。
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写真の匂い。
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薬品の匂い。
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壁一面に、
何十年分ものアルバム。
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奥から、
ゆっくり老人が現れた。
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八十代くらい。
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白髪。
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丸眼鏡。
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「……珍しいねぇ。」
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穏やかな声だった。
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「刑事さんかい。」
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榊原は警察手帳を見せる。
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「ちょっと昔の写真を探しとる。」
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老人は頷いた。
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「祭りの写真だろ。」
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誰も、
まだ祭りとは言っていない。
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部屋の空気が変わる。
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「……なんで分かった。」
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榊原が低く聞く。
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老人は少し笑う。
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「その顔をする人は。」
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「みんな祭りのことを聞きに来る。」
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「十二年に一度くらいな。」
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悠たちは顔を見合わせた。
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老人は奥の棚から、
大きなアルバムを持ってくる。
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表紙には、
手書きで書かれていた。
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『海鳴町 夏祭り』
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年度ごとに並んでいる。
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そして。
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十二年前。
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その年だけ。
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アルバムが異様に厚かった。
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「……。」
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老人はゆっくり開く。
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屋台。
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神輿。
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花火。
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笑顔。
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どの写真も平和だった。
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だが。
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一枚だけ。
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榊原の手が止まる。
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海辺で撮られた写真。
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遠くの桟橋。
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そこに。
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メアリー。
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春人。
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優斗。
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そして。
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カメラを構える、
若い青年。
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悠は息を呑んだ。
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「この人……!」
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さっき森で逃げた男だった。
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「同じ顔や……。」
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レイも青ざめる。
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「でも、おかしい。」
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写真の日付。
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十二年前。
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青年は、
今と同じくらいの年齢に見える。
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二十代前半。
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もし同一人物なら。
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十二年間、
まったく歳を取っていない。
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店内が静まり返る。
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老人が小さく呟く。
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「その子を知っとるんか。」
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榊原がゆっくり写真を見つめる。
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「……いや。」
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「今、会うた。」
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老人の笑顔が消えた。
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「そうか。」
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「また現れたんやな。」
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その一言に、
全員の背筋が凍った。
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後書き
第47話でした。
今回は「怪異」ではなく、「写真」という現実的な証拠で恐怖を積み重ねました。
ポイントは、
* 森で逃げた青年が、十二年前の写真にも写っていた。
* 見た目がほとんど変わっていない。
* 写真館の老人は、その青年の存在を知っている。
* 「また現れた」という意味深な言葉。




