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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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48/90

古い写真館

前書き


人は、


忘れた記憶を探そうとする。


でも。


記憶のほうが、


人を探していることもある。


逃げても。


隠れても。


十二年前の夏は、


少しずつ、


こちらへ歩いてくる。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第47話


古い写真館


⸻


午後三時十五分。


⸻


海鳴町。


⸻


住宅街。


⸻


「……逃がしたか。」


⸻


榊原が息を整えながら呟いた。


⸻


森の入口。


⸻


足跡はそこで途切れていた。


⸻


一本道。


⸻


脇道はない。


⸻


隠れる場所もない。


⸻


それなのに。


⸻


青年は、


煙のように消えていた。


⸻


宮本が周囲を見渡す。


⸻


「地元の人間でも、ここまで逃げ切るのは難しいですね。」


⸻


榊原は黙ったまま森を見つめる。


⸻


「誰かが逃がした。」


⸻


静かな声だった。


⸻


「一人ではない。」


⸻


悠はその言葉が引っ掛かった。


⸻


「共犯者……ですか?」


⸻


「まだ分からん。」


⸻


榊原は首を振る。


⸻


「せやけど。」


⸻


「アイツは逃げる場所を知っとった。」


⸻


「つまり。」


⸻


「昔からこの町におる人間や。」


⸻


風が吹く。


⸻


木々がざわめいた。


⸻


午後四時。


⸻


海鳴町商店街。


⸻


昔ながらのアーケード。


⸻


シャッターの閉まった店も多い。


⸻


「ここも変わったな。」


⸻


悠が呟く。


⸻


高校時代。


⸻


もっと賑やかだった。


⸻


ゲームセンター。


⸻


駄菓子屋。


⸻


本屋。


⸻


全部なくなっていた。


⸻


「写真。」


⸻


突然、


メアリーが立ち止まる。


⸻


「……?」


⸻


指差した先。


⸻


古びた写真館。


⸻


木製の看板。


⸻


色褪せた文字。


⸻


『中村写真館』


⸻


ショーウインドーには、


昔の七五三や成人式の写真が飾られている。


⸻


「ここ。」


⸻


メアリーが小さく呟く。


⸻


「祭りの日。」


⸻


「写真撮った。」


⸻


悠が思い出す。


⸻


「そうや。」


⸻


「集合写真。」


⸻


「ここで現像してもらった。」


⸻


榊原が目を細めた。


⸻


「入るで。」


⸻


店内


⸻


カラン……


⸻


古いベルが鳴る。


⸻


「すみませーん。」


⸻


返事はない。


⸻


静かだった。


⸻


写真の匂い。


⸻


薬品の匂い。


⸻


壁一面に、


何十年分ものアルバム。


⸻


奥から、


ゆっくり老人が現れた。


⸻


八十代くらい。


⸻


白髪。


⸻


丸眼鏡。


⸻


「……珍しいねぇ。」


⸻


穏やかな声だった。


⸻


「刑事さんかい。」


⸻


榊原は警察手帳を見せる。


⸻


「ちょっと昔の写真を探しとる。」


⸻


老人は頷いた。


⸻


「祭りの写真だろ。」


⸻


誰も、


まだ祭りとは言っていない。


⸻


部屋の空気が変わる。


⸻


「……なんで分かった。」


⸻


榊原が低く聞く。


⸻


老人は少し笑う。


⸻


「その顔をする人は。」


⸻


「みんな祭りのことを聞きに来る。」


⸻


「十二年に一度くらいな。」


⸻


悠たちは顔を見合わせた。


⸻


老人は奥の棚から、


大きなアルバムを持ってくる。


⸻


表紙には、


手書きで書かれていた。


⸻


『海鳴町 夏祭り』


⸻


年度ごとに並んでいる。


⸻


そして。


⸻


十二年前。


⸻


その年だけ。


⸻


アルバムが異様に厚かった。


⸻


「……。」


⸻


老人はゆっくり開く。


⸻


屋台。


⸻


神輿。


⸻


花火。


⸻


笑顔。


⸻


どの写真も平和だった。


⸻


だが。


⸻


一枚だけ。


⸻


榊原の手が止まる。


⸻


海辺で撮られた写真。


⸻


遠くの桟橋。


⸻


そこに。


⸻


メアリー。


⸻


春人。


⸻


優斗。


⸻


そして。


⸻


カメラを構える、


若い青年。


⸻


悠は息を呑んだ。


⸻


「この人……!」


⸻


さっき森で逃げた男だった。


⸻


「同じ顔や……。」


⸻


レイも青ざめる。


⸻


「でも、おかしい。」


⸻


写真の日付。


⸻


十二年前。


⸻


青年は、


今と同じくらいの年齢に見える。


⸻


二十代前半。


⸻


もし同一人物なら。


⸻


十二年間、


まったく歳を取っていない。


⸻


店内が静まり返る。


⸻


老人が小さく呟く。


⸻


「その子を知っとるんか。」


⸻


榊原がゆっくり写真を見つめる。


⸻


「……いや。」


⸻


「今、会うた。」


⸻


老人の笑顔が消えた。


⸻


「そうか。」


⸻


「また現れたんやな。」


⸻


その一言に、


全員の背筋が凍った。


⸻


後書き


第47話でした。


今回は「怪異」ではなく、「写真」という現実的な証拠で恐怖を積み重ねました。


ポイントは、


* 森で逃げた青年が、十二年前の写真にも写っていた。

* 見た目がほとんど変わっていない。

* 写真館の老人は、その青年の存在を知っている。

* 「また現れた」という意味深な言葉。


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