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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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46/90

監視者

前書き


人は、


「見ている」と思うから怖い。


でも、本当に恐ろしいのは、


「ずっと見られていた」


と気づく瞬間だ。


監視とは、


檻のない牢獄なのかもしれない。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第46話


監視者


⸻


午後二時三十分。


⸻


海鳴町。


⸻


桟橋。


⸻


潮風が吹く。


⸻


鑑識班が春人の学生手帳を証拠袋へ入れていた。


⸻


「指紋は?」


⸻


榊原が尋ねる。


⸻


「海水でほとんど流されています。」


⸻


「期待はできません。」


⸻


榊原は小さく舌打ちした。


⸻


「ちっ……。」


⸻


悠は海を見つめていた。


⸻


「春人先輩……。」


⸻


失踪。


⸻


手帳。


⸻


“信じるな”


⸻


頭の中が整理できない。


⸻


その時。


⸻


メアリーが静かに歩き始めた。


⸻


「メアリー?」


⸻


返事はない。


⸻


桟橋を離れ、


海沿いの遊歩道へ。


⸻


まるで。


⸻


何かに呼ばれているようだった。


⸻


悠は後を追う。


⸻


レイも続く。


⸻


榊原は一瞬迷ったが、


宮本へ目配せした。


⸻


「鑑識は続けとけ。」


⸻


「私はあっち行く。」


⸻


⸻


遊歩道。


⸻


古い街灯。


⸻


錆びたベンチ。


⸻


夏草が風に揺れる。


⸻


メアリーは一つのベンチの前で止まった。


⸻


「……ここ。」


⸻


涙ぐむ。


⸻


「ここで。」


⸻


「春人先輩と。」


⸻


静かな笑顔。


⸻


「アイス食べた。」


⸻


悠も少し笑った。


⸻


「そんなこともあったな。」


⸻


「チョコミント。」


⸻


「嫌いやった。」


⸻


メアリーが笑う。


⸻


「悠ちゃんが食べた。」


⸻


「もったいないから。」


⸻


「そうやった。」


⸻


ほんの数秒。


⸻


事件を忘れるくらい、


穏やかな時間だった。


⸻


その時。


⸻


カシャ。


⸻


全員が振り向く。


⸻


小さな音。


⸻


カメラのシャッター。


⸻


「誰だ!」


⸻


榊原が走る。


⸻


遊歩道の先。


⸻


黒いパーカー。


⸻


帽子。


⸻


一眼レフカメラ。


⸻


男が走り出す。


⸻


「止まれ!!」


⸻


榊原が追う。


⸻


宮本も走る。


⸻


悠も反射的に走った。


⸻


レイだけが、


メアリーのそばへ残る。


⸻


⸻


住宅街。


⸻


細い路地。


⸻


男は迷わない。


⸻


地元を知っている。


⸻


角を曲がる。


⸻


フェンスを飛び越える。


⸻


榊原も追う。


⸻


「待たんかダボォ!!」


⸻


播磨弁が路地へ響く。


⸻


男は振り返らない。


⸻


公園。


⸻


滑り台。


⸻


砂場。


⸻


そのまま森の中へ。


⸻


「くっ!」


⸻


榊原が木を避ける。


⸻


あと少し。


⸻


あと数メートル。


⸻


その時。


⸻


男は突然立ち止まった。


⸻


ゆっくり振り返る。


⸻


初めて。


⸻


顔が見える。


⸻


二十代前半。


⸻


色白。


⸻


痩せた青年。


⸻


無表情。


⸻


悠と目が合う。


⸻


次の瞬間。


⸻


男は笑った。


⸻


ほんの少しだけ。


⸻


そして。


⸻


森の奥へ消えた。


⸻


榊原たちが追いつく。


⸻


だが。


⸻


誰もいない。


⸻


一本道。


⸻


隠れる場所もない。


⸻


「……消えた。」


⸻


宮本が呟く。


⸻


「ありえへん。」


⸻


榊原も息を切らしている。


⸻


悠だけが立ち尽くしていた。


⸻


「……。」


⸻


「あの顔。」


⸻


「どこかで見た。」


⸻


レイが追いつく。


⸻


「逃げられた?」


⸻


悠は頷いた。


⸻


「でも。」


⸻


「思い出せそうで思い出せない。」


⸻


その頃。


⸻


遊歩道。


⸻


一人残ったメアリー。


⸻


ベンチへ座っていた。


⸻


風が吹く。


⸻


静かだった。


⸻


すると。


⸻


誰かが隣へ座る気配。


⸻


「……。」


⸻


メアリーはゆっくり横を見る。


⸻


誰もいない。


⸻


でも。


⸻


ベンチは少しだけ沈んでいた。


⸻


誰かが座っているように。


⸻


「……。」


⸻


その時。


⸻


耳元で。


⸻


本当に小さく。


⸻


優しい男の声が聞こえた。


⸻


「まだ思い出さなくていい。」


⸻


メアリーの瞳が大きく開く。


⸻


その声は。


⸻


春人だった。


⸻


振り返る。


⸻


誰もいない。


⸻


ただ。


⸻


ベンチの上には、


溶けかけたチョコミントアイスが、


一本だけ置かれていた。


⸻


「……春人先輩?」


⸻


涙が一粒、


静かに落ちた。


⸻


― 続く ―


⸻



後書き


第46話でした。


ここでは、「監視者」は実在する人間として描きつつ、メアリーの周囲では説明のつかない現象が続いています。


特に最後のシーンは、「本当に春人の霊だったのか」「メアリーの記憶が見せたものなのか」を、あえて断定していません。


また、監視者の青年が悠を見て笑ったことも重要です。


これは、「監視している」のではなく、悠のことを知っている可能性を示す新たな伏線になります。


ここから第2章は、監視者の正体と春人失踪の真相が少しずつ交差していきます。

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