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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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43/90

封じられた部屋

前書き


古い建物には、


人が住まなくなっても、


時間だけは残る。


笑い声。


足音。


泣き声。


怒鳴り声。


壁は全部覚えている。


ただ。


誰にも話せないだけだ。



⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第43話


封じられた部屋


⸻


午後零時四十七分。


⸻


旅館「松風荘」。


⸻


二階。


⸻


突き当たりの廊下。


⸻


「ここや。」


⸻


榊原美咲が壁を軽く叩く。


⸻


コン。


⸻


コン。


⸻


コン……


⸻


明らかに音が違う。


⸻


「空洞や。」


⸻


宮本が頷く。


⸻


「壁の向こうに部屋があります。」


⸻


旅館の女将は震えていた。


⸻


「そんな……。」


⸻


「もう二十年以上……。」


⸻


「誰も入っとらん。」


⸻


「工具。」


⸻


榊原の一言で、


若い警察官がバールを持ってくる。


⸻


ギィ……


⸻


金属が壁へ食い込む。


⸻


バキッ!!


⸻


乾いた音。


⸻


古い石膏ボードが崩れる。


⸻


ホコリが舞う。


⸻


誰も咳をしない。


⸻


全員、


息を止めていた。


⸻


バキッ!!


⸻


ドン!!


⸻


穴が開く。


⸻


真っ暗。


⸻


冷たい空気が流れ出す。


⸻


まるで、


長い眠りから目覚めた部屋みたいだった。


⸻


「ライト。」


⸻


宮本が懐中電灯を差し込む。


⸻


光が、


ゆっくり部屋を照らしていく。


⸻


畳。


⸻


古い座卓。


⸻


茶碗。


⸻


カレンダー。


⸻


時間が止まっていた。


⸻


「……。」


⸻


悠は鳥肌が立つ。


⸻


誰かが、


昨日まで使っていたようにも見える。


⸻


でも。


⸻


全部、


十二年以上前のものだった。


⸻


「入るぞ。」


⸻


榊原が先頭に立つ。


⸻


宮本。


⸻


悠。


⸻


レイ。


⸻


メアリー。


⸻


順番に中へ入る。


⸻


部屋の空気は冷たかった。


⸻


夏なのに。


⸻


吐く息が少し白い。


⸻


「寒っ……。」


⸻


レイが腕をさする。


⸻


「なんだここ。」


⸻


誰も答えない。


⸻


⸻


部屋の隅。


⸻


古いブラウン管テレビ。


⸻


ラジカセ。


⸻


本棚。


⸻


学生雑誌。


⸻


高校のアルバム。


⸻


そして。


⸻


机の上。


⸻


小さなカセットレコーダー。


⸻


「……。」


⸻


榊原が近づく。


⸻


ホコリを払う。


⸻


メーカー名。


⸻


平成初期。


⸻


録音ボタンが、


押されたままだった。


⸻


「壊れとるやろ。」


⸻


レイが言う。


⸻


榊原は乾電池を確認する。


⸻


「電池ない。」


⸻


その瞬間。


⸻


カチッ。


⸻


全員が固まる。


⸻


レコーダーの赤いランプが点いた。


⸻


「……。」


⸻


誰も触っていない。


⸻


ザー……


⸻


ノイズ。


⸻


ガサ……


⸻


風の音。


⸻


そして。


⸻


笑い声。


⸻


『早よ行こう!』


⸻


若い女の子。


⸻


『花火始まるよ!』


⸻


祭りの日。


⸻


録音だ。


⸻


全員、


息を呑む。


⸻


ザー……


⸻


屋台。


⸻


太鼓。


⸻


子どもの声。


⸻


全部聞こえる。


⸻


そして。


⸻


『メアリー!』


⸻


メアリーが震える。


⸻


「……私。」


⸻


高校生の、


自分の声。


⸻


録音されていた。


⸻


『ちょっと待ってー!』


⸻


笑っている。


⸻


楽しそうだった。


⸻


今とは違う。


⸻


生きていた頃の声。


⸻


メアリーは涙を流していた。


⸻


「……。」


⸻


悠も言葉が出ない。


⸻


ザー……


⸻


録音は続く。


⸻


笑い声。


⸻


足音。


⸻


祭り。


⸻


そして。


⸻


急に。


⸻


静かになる。


⸻


『……帰る?』


⸻


誰かが聞く。


⸻


男の声。


⸻


若い。


⸻


落ち着いている。


⸻


「春人か?」


⸻


榊原が小さく呟く。


⸻


だが。


⸻


断定できない。


⸻


録音が悪い。


⸻


その時だった。


⸻


『待って!!』


⸻


メアリーの悲鳴。


⸻


部屋の空気が変わる。


⸻


ザーッ!!


⸻


ノイズ。


⸻


走る音。


⸻


荒い息。


⸻


『逃げろ!!』


⸻


別の男。


⸻


聞き覚えがある。


⸻


優斗……?


⸻


いや。


⸻


違う。


⸻


判別できない。


⸻


そして。


⸻


最後。


⸻


録音機が、


何かを拾った。


⸻


低い男の声。


⸻


たった一言。


⸻


『見つかった。』


⸻


ブツッ。


⸻


録音終了。


⸻


静寂。


⸻


誰も動けない。


⸻


その時。


⸻


メアリーが、


部屋の押し入れを見つめた。


⸻


「……。」


⸻


「どうした?」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーの顔色が、


真っ白になる。


⸻


「悠ちゃん。」


⸻


「ん?」


⸻


震える指が、


押し入れを指した。


⸻


「……あそこ。」


⸻


静かな声。


⸻


「祭りの日。」


⸻


「誰か。」


⸻


涙が落ちる。


⸻


「ずっと。」


⸻


「中に隠れとった。」


⸻


部屋の空気が、


一気に凍りついた。


⸻


榊原はゆっくり拳銃に手を添える。


⸻


宮本が懐中電灯を構える。


⸻


悠はメアリーを庇うように前へ出る。


⸻


レイが小さく息を呑む。


⸻


押し入れは、


ほんの数センチだけ開いていた。


⸻


暗闇の奥から。


⸻


カタン。


⸻


何かが、


動いた音がした。


⸻


――続く。


⸻





後書き



第43話でした。


今回は「壁の向こうの部屋」が、事件当日の時間を閉じ込めたような空間として描かれました。


ポイントは、


* 封鎖された部屋には人はいなかった。

* しかし祭り当日の録音が残されていた。

* 録音にはメアリーの声と、複数の人物の声が入っていた。

* 最後に「見つかった」という謎の一言。

* そしてメアリーは、「押し入れに誰かが隠れていた」という記憶を思い出します。


ここからは、押し入れの中に何があるのか、そして「隠れていた人物」が事件を見ていたのかどうかが、第2章最大の焦点になっていきます。

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