六人目
前書き
人は、
暗闇が怖いんじゃない。
「誰かがいるかもしれない」
そう思うから怖い。
そして。
一番怖いのは、
隣にいた人が、
気づいたらいなくなっていることだ。
⸻
Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第42話
六人目
⸻
午前十一時四十分。
⸻
旅館「松風荘」。
⸻
ロビー。
⸻
誰も喋らない。
⸻
固定電話。
⸻
『鏡を見ちゃだめ……』
⸻
その言葉だけが、
全員の頭から離れなかった。
⸻
榊原美咲は腕を組む。
⸻
「……宮本。」
⸻
「はい。」
⸻
「旅館から誰も出すな。」
⸻
「了解。」
⸻
宮本は無線へ手を伸ばす。
⸻
富山県警。
⸻
パトカー。
⸻
鑑識。
⸻
静かだった旅館が、
一気に慌ただしくなる。
⸻
だが。
⸻
榊原だけは動かなかった。
⸻
ひび割れた鏡を見ている。
⸻
「……。」
⸻
悠が近づく。
⸻
「何か見えますか?」
⸻
榊原は小さく頷いた。
⸻
「見えた。」
⸻
静かな声。
⸻
「六人おった。」
⸻
部屋にいるのは五人。
⸻
悠。
⸻
レイ。
⸻
メアリー。
⸻
榊原。
⸻
宮本。
⸻
五人だけ。
⸻
「もう一人。」
⸻
「誰や。」
⸻
誰も答えられない。
⸻
⸻
午後零時十分。
⸻
警察は旅館中を調べ始めた。
⸻
倉庫。
⸻
屋根裏。
⸻
床下。
⸻
非常階段。
⸻
異常なし。
⸻
「……。」
⸻
レイは廊下の窓から外を見る。
⸻
「なんか。」
⸻
「落ち着かねぇ。」
⸻
悠も同じだった。
⸻
誰かに見られている。
⸻
ずっと。
⸻
そんな感覚が消えない。
⸻
その時だった。
⸻
「黒瀬さん。」
⸻
宮本が呼ぶ。
⸻
「優斗さんの荷物を確認したいので。」
⸻
「少し手伝ってもらえますか。」
⸻
「分かりました。」
⸻
悠は宮本について行く。
⸻
レイはロビー。
⸻
榊原は女将へ聞き込み。
⸻
メアリーだけが、
静かに廊下へ残った。
⸻
⸻
廊下。
⸻
誰もいない。
⸻
古い柱時計。
⸻
チク……
⸻
タク……
⸻
チク……
⸻
タク……
⸻
メアリーは、
ゆっくり歩き始める。
⸻
「……。」
⸻
何かに呼ばれるように。
⸻
旅館の一番奥。
⸻
普段使われていない客室。
⸻
札には、
「使用禁止」
⸻
と書かれていた。
⸻
「ここ……。」
⸻
震える。
⸻
胸が苦しい。
⸻
扉の前へ立つ。
⸻
コン……
⸻
中から音。
⸻
小さく。
⸻
誰かがノックした。
⸻
「……。」
⸻
メアリーは息を呑む。
⸻
「誰?」
⸻
返事はない。
⸻
コン……
⸻
もう一度。
⸻
「優斗君?」
⸻
静寂。
⸻
ゆっくり。
⸻
障子へ手を伸ばす。
⸻
あと少し。
⸻
あと数センチ。
⸻
その瞬間。
⸻
「メアリー!!」
⸻
悠の声。
⸻
ハッと振り向く。
⸻
悠が廊下を走ってくる。
⸻
「何してる!」
⸻
「え……?」
⸻
メアリーが振り返る。
⸻
使用禁止の部屋。
⸻
そこには。
⸻
扉すらなかった。
⸻
「……。」
⸻
壁。
⸻
古い壁紙。
⸻
それだけ。
⸻
「え?」
⸻
メアリーが固まる。
⸻
「部屋……。」
⸻
「ここに。」
⸻
「あった。」
⸻
悠も壁を見る。
⸻
完全な壁だった。
⸻
「そんなはず……。」
⸻
レイも駆けつける。
⸻
「何騒いで……。」
⸻
三人とも、
言葉を失う。
⸻
その壁だけ。
⸻
新しかった。
⸻
周りは古い木造。
⸻
なのに。
⸻
そこだけ。
⸻
後から塞いだような、
白いクロス。
⸻
榊原も来る。
⸻
壁を叩く。
⸻
コン……
⸻
コン……
⸻
音が違う。
⸻
「……空洞や。」
⸻
宮本も頷く。
⸻
「中があります。」
⸻
旅館の女将が青ざめた。
⸻
「そんな……。」
⸻
「そこは昔……。」
⸻
言葉が止まる。
⸻
「昔?」
⸻
榊原が聞く。
⸻
女将は震える声で答えた。
⸻
「十二年前まで。」
⸻
「客室やった。」
⸻
全員が息を呑む。
⸻
「祭りのあと。」
⸻
「急に閉鎖した。」
⸻
「理由は?」
⸻
女将は目を伏せた。
⸻
「……女の子が。」
⸻
「一人。」
⸻
「いなくなったから。」
⸻
部屋の空気が凍りつく。
⸻
メアリーは壁を見つめたまま、
小さく呟く。
⸻
「……私。」
⸻
その瞬間。
⸻
壁の向こうから。
⸻
ドンッ!!
⸻
何かが、
思い切り叩いた音が響いた。
⸻
全員が飛び退く。
⸻
榊原が叫ぶ。
⸻
「壁壊せ!!」
⸻
宮本が工具を取りに走る。
⸻
悠はメアリーを抱き寄せる。
⸻
そして。
⸻
壁の向こうから。
⸻
かすかに。
⸻
男の声が聞こえた。
⸻
「……助けて。」
⸻
悠と榊原の目が合う。
⸻
その声は。
⸻
田島優斗だった。
⸻
― 続く ―
⸻
ここで次回へ。
ここからは完全に
* ホラー
* クローズドサークル
* 刑事サスペンス
が融合します。
そして次回は、第43話「封じられた部屋」。
壁を壊した先に、本当に優斗はいるのか。
それとも、十二年前から封じられていた別の真実なのか。
ここから一気に物語を加速させていきます。




