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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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着信履歴

前書き


人は、


消えた人間のことを、


時間が解決してくれると思っている。


でも。


本当に消えた人間は、


時間の中に取り残される。


昨日までいた。


笑っていた。


話していた。


それなのに。


今日はいない。


それが一番怖い。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第40話


着信履歴


⸻


午前九時三十分。


⸻


海鳴町。


⸻


旅館「松風荘」。


⸻


停電は終わった。


⸻


割れた鏡だけが、


あの出来事が現実だったことを証明していた。


⸻


「……。」


⸻


誰も喋らない。


⸻


女将が小さく言う。


⸻


「こんなこと……初めてや。」


⸻


悠は鏡を見る。


⸻


一本だけ入った亀裂。


⸻


まるで。


⸻


誰かが。


⸻


中から押したような。


⸻


そんな割れ方だった。


⸻


「気味悪ぃ……。」


⸻


レイが珍しく弱音を吐く。


⸻


「俺もう帰りたい。」


⸻


「帰る?」


⸻


悠が聞く。


⸻


レイは苦笑した。


⸻


「帰れたら苦労しねぇ。」


⸻


「優斗探さないと。」


⸻


その言葉で、


空気がまた重くなる。


⸻


午前十時。


⸻


旅館のロビー。


⸻


テーブルの上。


⸻


優斗のスマートフォン。


⸻


財布。


⸻


車の鍵。


⸻


全部揃っている。


⸻


「警察に届ける?」


⸻


女将が聞く。


⸻


悠は首を横に振る。


⸻


「もう少しだけ。」


⸻


「中を見てもいいですか。」


⸻


女将は迷った。


⸻


だが頷いた。


⸻


「……頼む。」


⸻


「田島君を見つけて。」


⸻


悠はスマホを手に取る。


⸻


画面はロックされていない。


⸻


「え?」


⸻


レイが驚く。


⸻


「不用心すぎだろ。」


⸻


ホーム画面。


⸻


写真。


⸻


メモ。


⸻


電話。


⸻


悠は履歴を開く。


⸻


一番新しい着信。


⸻


午前三時十一分。


⸻


発信者名。


⸻


そこには。


⸻


『春人』


⸻


静寂。


⸻


「……。」


⸻


レイが固まる。


⸻


「おい。」


⸻


「嘘だろ。」


⸻


悠の手が震える。


⸻


神崎春人。


⸻


十二年前。


⸻


失踪。


⸻


死亡説まで流れた男。


⸻


その名前が。


⸻


昨日。


⸻


優斗へ電話をかけている。


⸻


「……ありえねぇ。」


⸻


悠は履歴を開く。


⸻


着信時間。


⸻


三分二十八秒。


⸻


「通話してる。」


⸻


レイが息を呑む。


⸻


イタズラじゃない。


⸻


三分以上。


⸻


話している。


⸻


「録音……。」


⸻


悠が呟く。


⸻


通話録音。


⸻


ON。


⸻


「頼む……。」


⸻


再生ボタンを押す。


⸻


ザー……


⸻


ノイズ。


⸻


雨音。


⸻


風。


⸻


そして。


⸻


優斗の声。


⸻


『もしもし。』


⸻


沈黙。


⸻


数秒。


⸻


そして。


⸻


男の声。


⸻


『優斗か。』


⸻


悠たちが顔を見合わせる。


⸻


若い。


⸻


落ち着いた声。


⸻


三十代前半くらい。


⸻


『……春人?』


⸻


優斗の声が震える。


⸻


『生きとったんか……?』


⸻


ノイズ。


⸻


ザー……


⸻


男は静かに答える。


⸻


『会って話したい。』


⸻


『全部話す。』


⸻


『一人で来てくれ。』


⸻


そこで録音が乱れる。


⸻


ザーッ!!


⸻


突然。


⸻


別の音が混ざる。


⸻


コツ……


⸻


コツ……


⸻


足音。


⸻


ゆっくり。


⸻


近づく。


⸻


そして。


⸻


もう一つ。


⸻


女の子の声。


⸻


小さく。


⸻


かすれるように。


⸻


『逃げて……』


⸻


「!!」


⸻


メアリーが立ち上がる。


⸻


真っ青だった。


⸻


「この声!」


⸻


涙が溢れる。


⸻


「私や。」


⸻


部屋が静まり返る。


⸻


「……。」


⸻


悠が録音を止めようとした。


⸻


その瞬間。


⸻


録音の最後。


⸻


男が、


小さく呟いた。


⸻


『……もう見つかったか。』


⸻


ブツッ。


⸻


録音終了。


⸻


誰も動けなかった。


⸻


「今の……。」


⸻


レイの声が震える。


⸻


「俺らに言った?」


⸻


悠も答えられない。


⸻


その時だった。


⸻


旅館の外。


⸻


急ブレーキの音。


⸻


キィィィィッ!!


⸻


全員が窓へ走る。


⸻


駐車場。


⸻


黒いワゴン車。


⸻


急停止。


⸻


運転席から、


スーツ姿の男が飛び降りる。


⸻


助手席から、


ショートカットの女性。


⸻


鋭い目。


⸻


革靴。


⸻


手帳を取り出しながら、


旅館へ向かって走ってくる。


⸻


玄関が勢いよく開く。


⸻


女性は部屋を見回し、


播磨弁で怒鳴った。


⸻


「田島優斗はどこや!!」


⸻


悠たちが固まる。


⸻


女性は警察手帳を見せた。


「榊原美咲や」


⸻


その後ろから、

灰色のスーツを着た眼鏡の男が入ってくる。


⸻


男も警察手帳を開いた。


「宮本です」


「富山県警です」


⸻


悠が二人を見比べる。


「……警察?」


⸻


「そうや」


榊原が部屋を見回す。


「田島優斗から話を聞く予定やった」


「そいつ、どこ行った?」


⸻


「……いなくなった」


「は?」


⸻


宮本の表情が変わる。


「いつからです?」


「三時間くらい前」


「車は?」


「駐車場」


「スマホも財布も置いたまま」


⸻


榊原が舌打ちする。


「……ダボ」


「一歩遅かったか」

⸻


そこで彼女の視線は、


机の上のスマートフォン、


割れた鏡、


そしてメアリーが立っていた場所へ向く。


⸻


一瞬だけ、


榊原の表情が変わった。


⸻


まるで。


⸻


“そこに誰かが見えている”


ように。


⸻


― 第40話・終 ―



⸻


後書き


ついに第2章の新キャラクターが登場しました。


今回は一気に物語が動きました。


* 優斗のスマホに「春人」からの着信。

* 通話録音には「逃げて」というメアリー自身の声。

* 謎の「もう見つかったか」という言葉。

* そして、播磨弁の刑事・榊原美咲。


ただし、まだ榊原が味方とは限りません。


ここからはホラーに加えて、本格的な捜査と心理戦が始まります。

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