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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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38/90

足跡

前書き


恐怖には、


「見える恐怖」と、


「確認できる恐怖」がある。


見間違いなら忘れられる。


夢なら笑い話になる。


でも。


証拠が残ったら。


それは現実になる。



⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第38話


足跡


⸻


午前七時二十分。


⸻


富山県 海鳴町。


⸻


旅館「松風荘」。


⸻


朝。


⸻


雨は止んでいた。


⸻


どんよりとした曇り空。


⸻


潮の匂い。


⸻


カモメの鳴き声。


⸻


だが。


⸻


旅館の中だけは。


⸻


異様な静けさに包まれていた。


⸻


「……優斗さん?」


⸻


悠は旅館の玄関から外を見渡した。


⸻


駐車場。


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軽自動車。


⸻


優斗の車。


⸻


昨夜のまま。


⸻


運転席には鍵。


⸻


助手席にはリュック。


⸻


スマートフォン。


⸻


財布。


⸻


全部残っている。


⸻


なのに。


⸻


本人だけがいない。


⸻


「こんなん……」


⸻


レイが呟く。


⸻


「完全に事件じゃん。」


⸻


悠も否定できなかった。


⸻


「夜中に歩いて帰った……」


⸻


そんな状況ではない。


⸻


財布もない。


⸻


スマホもない。


⸻


車もある。


⸻


逃げる理由がない。


⸻


「おばちゃん。」


⸻


旅館の女将が顔を出した。


⸻


七十歳くらい。


⸻


優しい笑顔。


⸻


だが。


⸻


今日は青ざめている。


⸻


「田島君……」


⸻


「昨日、誰か迎えに来たん?」


⸻


悠が聞く。


⸻


女将は少し考えた。


⸻


「迎えというか……」


⸻


「夜中に玄関で話しとった。」


⸻


三人が顔を上げる。


⸻


「誰とです?」


⸻


女将は首を傾げる。


⸻


「黒いコート着た男の人。」


⸻


静寂。


⸻


「顔は?」


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「よう見えんかった。」


⸻


「でも……」


⸻


女将の表情が曇る。


⸻


「知り合いみたいに話しとったよ。」


⸻


レイの背筋に冷たいものが走る。


⸻


「……監視カメラ。」


⸻


悠が呟く。


⸻


「あります?」


⸻


女将は頷いた。


⸻


「あるよ。」


⸻


⸻


午前八時。


⸻


フロント。


⸻


古いパソコン。


⸻


小さな液晶モニター。


⸻


女将が映像を再生する。


⸻


午後十一時五十八分。


⸻


優斗が玄関へ出てくる。


⸻


そのまま外へ。


⸻


映像は続く。


⸻


優斗は。


⸻


誰かと話しているように見える。


⸻


何度も頷き。


⸻


笑い。


⸻


そして。


⸻


一緒に歩き始める。


⸻


だが。


⸻


映像には。


⸻


優斗しか映っていない。


⸻


「……は?」


⸻


レイが思わず声を漏らす。


⸻


「誰もおらん。」


⸻


悠も画面に近づく。


⸻


確かに。


⸻


優斗は。


⸻


誰かの隣を歩いている。


⸻


肩を向け。


⸻


何かを話し。


⸻


笑っている。


⸻


なのに。


⸻


映像には。


⸻


優斗しか存在しない。


⸻


部屋の空気が凍った。


⸻


「止めてください。」


⸻


悠が言う。


⸻


映像が止まる。


⸻


その瞬間だった。


⸻


「……おい。」


⸻


レイの声。


⸻


震えている。


⸻


「これ。」


⸻


指差した先。


⸻


玄関のガラス。


⸻


監視カメラではなく。


⸻


玄関扉のガラスへの映り込み。


⸻


そこだけ。


⸻


黒いコート姿の男が映っていた。


⸻


「っ!!」


⸻


悠が息を呑む。


⸻


画面を拡大する。


⸻


映像は荒い。


⸻


顔までは分からない。


⸻


だが。


⸻


間違いない。


⸻


優斗の横。


⸻


ガラスへの反射にだけ。


⸻


男が立っている。


⸻


「なんだよ……これ。」


⸻


レイの額に汗が滲む。


⸻


その時だった。


⸻


コン……


⸻


誰も動かなかった。


⸻


旅館の廊下。


⸻


小さな音。


⸻


コン……


⸻


鏡を叩くような。


⸻


乾いた音。


⸻


「……聞こえた?」


⸻


女将が青ざめる。


⸻


「この音……」


⸻


悠が立ち上がる。


⸻


廊下へ出る。


⸻


誰もいない。


⸻


だが。


⸻


洗面所の鏡だけが。


⸻


小さく揺れていた。


⸻


コン……


⸻


コン……


⸻


まるで。


⸻


誰かが。


⸻


鏡の向こうから。


⸻


ノックしているように。


⸻


悠はゆっくり鏡へ近づく。


⸻


自分の顔。


⸻


レイ。


⸻


女将。


⸻


そして。


⸻


一瞬だけ。


⸻


悠の肩越しに。


⸻


濡れた黒いコート姿が映った。


⸻


「!!」


⸻


振り返る。


⸻


誰もいない。


⸻


再び鏡を見る。


⸻


もう。


⸻


何も映っていなかった。


⸻


だが。


⸻


鏡の表面に。


⸻


指でなぞったような水滴が浮かび上がる。


⸻


ゆっくりと。


⸻


文字になっていく。


⸻


『まだ終わっていない』


⸻


その場にいた全員の呼吸が止まった。


⸻



後書き


第38話でした。


今回は、事件が「過去の謎」から「現在進行形」へ完全に変わる回です。


* 優斗は何者かと話していた。

* しかし監視カメラには優斗しか映っていない。

* ガラスへの反射にだけ黒いコートの男が映る。

* そして旅館の鏡には「まだ終わっていない」というメッセージが現れる。


次回、第39話 「鏡の向こう」では、この鏡の怪異をさらに掘り下げながら、優斗失踪の手がかりが少しずつ見えてきます。


ここからは「幽霊だけでは説明できない何か」と、「人間の悪意」が交錯する展開へ入っていきます。

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