消えた目撃者
前書き
人は、
本当に怖い時ほど走る。
そして。
本当に追い詰められた時ほど、
立ち止まる。
今回は、
誰かが動き始める話だ。
十二年間止まっていた事件が。
静かに。
確実に。
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Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第37話
消えた目撃者
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午前三時四十分。
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海鳴町。
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海沿い。
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雨。
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風。
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そして。
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田島優斗。
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十二年ぶりに現れた男。
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神崎春人の親友。
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祭りの夜を知る人間。
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「……」
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悠も。
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レイも。
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メアリーも。
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言葉を失っていた。
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「優斗君……」
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メアリーが呟く。
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優斗は苦しそうに笑った。
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「久しぶりだな」
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その言葉が。
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妙に切なかった。
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十二年。
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長すぎる時間だった。
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「春人じゃない」
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優斗が言う。
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「絶対に」
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雨音。
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海。
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風。
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全部が静かだった。
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「なんで言い切れる」
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悠が聞く。
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優斗は少し黙る。
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そして。
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震える声で言った。
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「俺が会ったからだ」
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静寂。
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「え?」
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「事件のあと」
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「春人に」
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レイが顔を上げる。
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「会った?」
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「一回だけ」
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優斗は海を見る。
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遠く。
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真っ暗な水平線。
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「でも」
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「それが最後だった」
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十二年前
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祭りの翌日
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雨
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海鳴町駅
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ホーム
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神崎春人
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制服
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濡れた髪
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真っ青な顔
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そして。
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怯えていた。
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『優斗』
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『逃げろ』
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現在
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悠の背筋が凍る。
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「逃げろ?」
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「そう言った」
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優斗が拳を握る。
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「何からかは言わなかった」
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「でも」
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「春人は本気で怯えてた」
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雨が強くなる。
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「それから?」
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レイが聞く。
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「消えた」
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静かな声。
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「そのまま」
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「二度と会ってない」
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メアリーが震える。
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「じゃあ」
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「春人先輩も……」
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優斗は頷かなかった。
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首も振らない。
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ただ。
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海を見ていた。
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「分からん」
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それだけだった。
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午前四時三十分。
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旅館。
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三人と優斗。
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和室。
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畳。
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急須。
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冷めたお茶。
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誰も眠れない。
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当然だった。
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「なぁ」
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レイが言う。
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「警察は?」
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優斗が苦笑する。
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「動いたよ」
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「昔な」
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「でも」
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ため息。
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「事故扱い」
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静寂。
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メアリーが俯く。
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「……」
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優斗は続けた。
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「海へ落ちた」
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「春人は失踪」
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「証拠なし」
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「終わり」
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雨音だけが聞こえる。
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その時だった。
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ガタン。
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全員が振り向く。
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廊下。
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何かが倒れた音。
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「……」
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空気が変わる。
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優斗が立ち上がる。
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「誰かいる」
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悠も立つ。
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レイも。
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だが。
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メアリーだけが青ざめていた。
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「やめて」
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小さな声。
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「え?」
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「行ったらダメ」
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優斗が止まる。
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「なんで」
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メアリーは震えていた。
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今までで一番。
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「嫌な感じする」
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ガタン。
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また音。
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今度は近い。
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すぐ外。
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和室の前。
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「……」
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優斗が襖を開ける。
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廊下。
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誰もいない。
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だが。
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濡れていた。
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床が。
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まるで。
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雨の中を歩いてきた誰かがいたみたいに。
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「おい……」
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レイの声が掠れる。
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足跡。
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濡れた足跡。
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旅館の奥へ続いている。
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一つ。
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二つ。
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三つ。
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そして。
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途中で消えていた。
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「は?」
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悠が呟く。
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あり得ない。
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人間なら。
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消えるわけがない。
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その瞬間。
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優斗のスマホが鳴る。
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全員がビクッとする。
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優斗が画面を見る。
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顔色が変わる。
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真っ青だった。
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「どうした」
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悠が聞く。
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優斗は答えない。
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ただ。
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画面を見ている。
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震えながら。
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「……嘘だろ」
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小さく呟く。
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「優斗?」
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すると。
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優斗は立ち上がった。
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急に。
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「悪い」
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「は?」
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「ちょっと行ってくる」
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「どこへ」
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「すぐ戻る」
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異様だった。
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完全に。
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様子がおかしい。
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「おい待て!」
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悠が呼ぶ。
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だが。
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優斗は振り返らない。
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そのまま。
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旅館を飛び出した。
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雨の中へ。
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静寂。
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レイが呟く。
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「絶対やばいだろ」
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「……あぁ」
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悠も同意した。
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メアリーは窓の外を見ていた。
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真っ青な顔で。
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そして。
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小さく。
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本当に小さく言った。
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「遅かった……」
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午前七時。
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翌朝。
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海鳴町。
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旅館駐車場。
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雨は止んでいた。
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優斗は戻らなかった。
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そして。
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駐車場には。
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優斗の車だけが残されていた。
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鍵も。
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スマホも。
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財布も。
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全部。
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そのまま。
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本人だけが。
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消えていた。
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後書き
第37話でした。
ここから第2章は一気に加速します。
今回は
* 優斗が春人と最後に会っていた
* 春人も怯えていた
* 旅館に何者かが来た
* 優斗失踪
まで進みました。
つまり。
十二年前の事件は、
メアリーだけでは終わっていない。
そして今。
誰かが再び動き始めています。
次回
第38話「足跡」
優斗を探す三人。
そして旅館の監視カメラに映っていた”あり得ないもの”が姿を現します。




