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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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35/90

名前

前書き


人は、


裏切られた瞬間よりも、


「裏切られていたと気づいた瞬間」


のほうが傷つく。


信じていた。


好きだった。


大切だった。


だから。


認めたくない。


認めたら全部壊れてしまうから。


今回は。


十二年間閉じられていた扉が開く。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第35話


名前


⸻


午前零時三十分。


⸻


海鳴町。


⸻


旅館。


⸻


雨。


⸻


窓。


⸻


海。


⸻


静かな夜。


⸻


「……」


⸻


誰も喋らなかった。


⸻


メアリーは俯いている。


⸻


ずっと。


⸻


犯人の名前を。


⸻


思い出しかけている。


⸻


でも。


⸻


言えない。


⸻


言いたくない。


⸻


そんな顔だった。


⸻


「……寝るか」


⸻


レイが言う。


⸻


珍しく優しい声。


⸻


「今日はもう無理だろ」


⸻


悠も頷く。


⸻


これ以上は。


⸻


メアリーが壊れる。


⸻


そんな気がした。


⸻


⸻


深夜二時。


⸻


悠は目を覚ました。


⸻


「……」


⸻


雨音。


⸻


エアコン。


⸻


暗い部屋。


⸻


そして。


⸻


嫌な予感。


⸻


「……メアリー?」


⸻


返事がない。


⸻


身体を起こす。


⸻


布団。


⸻


窓際。


⸻


誰もいない。


⸻


「っ!」


⸻


悠は飛び起きる。


⸻


まただ。


⸻


消えた。


⸻


⸻


廊下へ飛び出す。


⸻


旅館。


⸻


静か。


⸻


誰もいない。


⸻


階段。


⸻


玄関。


⸻


雨。


⸻


夜。


⸻


「メアリー!!」


⸻


返事はない。


⸻


⸻


その時だった。


⸻


外。


⸻


海の方。


⸻


白い影。


⸻


「……!」


⸻


走る。


⸻


雨の中を。


⸻


⸻


十分後。


⸻


海沿い。


⸻


祭りの日。


⸻


メアリーが最後にいた場所。


⸻


あの入り江。


⸻


あの海。


⸻


そして。


⸻


メアリーはいた。


⸻


一人で。


⸻


海を見ていた。


⸻


「何やってんだよ!!」


⸻


息を切らしながら叫ぶ。


⸻


メアリーは振り返る。


⸻


泣いていた。


⸻


今までで一番。


⸻


静かに。


⸻


泣いていた。


⸻


「……ごめん」


⸻


「謝んな」


⸻


「でも」


⸻


メアリーは海を見る。


⸻


「思い出した」


⸻


風が止む。


⸻


波の音だけ。


⸻


⸻


「全部じゃない」


⸻


「でも」


⸻


「名前だけ」


⸻


悠の心臓が鳴る。


⸻


ついに。


⸻


ここまで来た。


⸻


十二年。


⸻


長かった。


⸻


あまりにも。


⸻


長かった。


⸻


「……誰なんだ」


⸻


雨。


⸻


海。


⸻


夜。


⸻


メアリーは目を閉じる。


⸻


震える唇。


⸻


そして。


⸻


ゆっくり言った。


⸻


「……」


⸻


言葉が出ない。


⸻


首を振る。


⸻


涙。


⸻


「言いたくない」


⸻


「メアリー」


⸻


「嫌や」


⸻


初めてだった。


⸻


ここまで感情を出したのは。


⸻


「だって」


⸻


涙が溢れる。


⸻


「だって」


⸻


「好きやったもん」


⸻


⸻


静寂。


⸻


⸻


悠の呼吸が止まる。


⸻


⸻


好きだった。


⸻


⸻


つまり。


⸻


犯人は。


⸻


ただの知り合いじゃない。


⸻


⸻


恋だった。


⸻


⸻


高校時代。


⸻


メアリーが好きだった誰か。


⸻


信じていた誰か。


⸻


憧れていた誰か。


⸻


その人物が。


⸻


⸻


「そんなはずない」


⸻


メアリーが首を振る。


⸻


「違う」


⸻


「違うはずや」


⸻


まるで。


⸻


自分自身へ言い聞かせるみたいに。


⸻


⸻


その瞬間だった。


⸻


パァァァン!!


⸻


雷。


⸻


空が白く染まる。


⸻


そして。


⸻


メアリーの瞳が見開かれる。


⸻


完全に。


⸻


何かを思い出した顔。


⸻


「――っ!!」


⸻


頭を押さえる。


⸻


叫ぶ。


⸻


「メアリー!!」


⸻


悠が支える。


⸻


震える。


⸻


涙。


⸻


呼吸。


⸻


全部ぐちゃぐちゃだった。


⸻


そして。


⸻


絞り出すように。


⸻


その名前を言った。


⸻


「……春人」


⸻


⸻


静寂。


⸻


⸻


雨だけが降っている。


⸻


⸻


「春人……?」


⸻


悠が呟く。


⸻


聞き覚えがあった。


⸻


ある。


⸻


確かに。


⸻


高校時代。


⸻


海鳴町。


⸻


一つ上の先輩。


⸻


サッカー部。


⸻


成績優秀。


⸻


優しい。


⸻


町でも評判だった。


⸻


あの。


⸻


神崎春人。


⸻


⸻


「嘘や……」


⸻


メアリーが泣く。


⸻


「なんで」


⸻


「なんで春人先輩なん……」


⸻


⸻


その時だった。


⸻


後ろから声。


⸻


「それは違う」


⸻


⸻


悠が振り返る。


⸻


海。


⸻


雨。


⸻


そして。


⸻


防波堤の向こう。


⸻


黒いコート姿。


⸻


写真の人物。


⸻


十二年間。


⸻


ずっと現れていた影。


⸻


その人物が。


⸻


初めて口を開いた。


⸻


「神崎春人は」


⸻


風が吹く。


⸻


雨が揺れる。


⸻


そして。


⸻


その人物は言った。


⸻


⸻


「犯人じゃない」


⸻


⸻


第1章、終了。


⸻


後書き


第35話でした。


ここで第1章完結です。


しかし。


真相はまだ終わっていません。


メアリーが思い出した名前。


神崎春人。


だが。


最後に現れた黒い影は、


「春人は犯人じゃない」


と言った。


つまり。


* メアリーの記憶

* 写真の人物

* 十二年前の事件


まだ決定的なズレがある。


第2章では、


ついに黒い影の正体、


そして播磨弁の女刑事が登場し、


青春ホラーは本格サスペンスへ変わっていきます。

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