名前
前書き
人は、
裏切られた瞬間よりも、
「裏切られていたと気づいた瞬間」
のほうが傷つく。
信じていた。
好きだった。
大切だった。
だから。
認めたくない。
認めたら全部壊れてしまうから。
今回は。
十二年間閉じられていた扉が開く。
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Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第35話
名前
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午前零時三十分。
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海鳴町。
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旅館。
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雨。
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窓。
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海。
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静かな夜。
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「……」
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誰も喋らなかった。
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メアリーは俯いている。
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ずっと。
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犯人の名前を。
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思い出しかけている。
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でも。
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言えない。
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言いたくない。
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そんな顔だった。
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「……寝るか」
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レイが言う。
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珍しく優しい声。
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「今日はもう無理だろ」
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悠も頷く。
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これ以上は。
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メアリーが壊れる。
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そんな気がした。
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深夜二時。
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悠は目を覚ました。
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「……」
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雨音。
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エアコン。
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暗い部屋。
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そして。
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嫌な予感。
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「……メアリー?」
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返事がない。
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身体を起こす。
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布団。
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窓際。
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誰もいない。
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「っ!」
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悠は飛び起きる。
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まただ。
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消えた。
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廊下へ飛び出す。
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旅館。
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静か。
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誰もいない。
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階段。
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玄関。
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雨。
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夜。
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「メアリー!!」
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返事はない。
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その時だった。
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外。
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海の方。
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白い影。
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「……!」
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走る。
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雨の中を。
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十分後。
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海沿い。
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祭りの日。
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メアリーが最後にいた場所。
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あの入り江。
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あの海。
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そして。
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メアリーはいた。
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一人で。
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海を見ていた。
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「何やってんだよ!!」
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息を切らしながら叫ぶ。
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メアリーは振り返る。
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泣いていた。
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今までで一番。
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静かに。
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泣いていた。
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「……ごめん」
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「謝んな」
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「でも」
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メアリーは海を見る。
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「思い出した」
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風が止む。
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波の音だけ。
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「全部じゃない」
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「でも」
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「名前だけ」
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悠の心臓が鳴る。
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ついに。
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ここまで来た。
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十二年。
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長かった。
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あまりにも。
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長かった。
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「……誰なんだ」
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雨。
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海。
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夜。
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メアリーは目を閉じる。
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震える唇。
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そして。
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ゆっくり言った。
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「……」
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言葉が出ない。
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首を振る。
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涙。
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「言いたくない」
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「メアリー」
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「嫌や」
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初めてだった。
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ここまで感情を出したのは。
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「だって」
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涙が溢れる。
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「だって」
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「好きやったもん」
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静寂。
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悠の呼吸が止まる。
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好きだった。
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つまり。
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犯人は。
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ただの知り合いじゃない。
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恋だった。
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高校時代。
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メアリーが好きだった誰か。
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信じていた誰か。
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憧れていた誰か。
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その人物が。
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「そんなはずない」
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メアリーが首を振る。
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「違う」
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「違うはずや」
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まるで。
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自分自身へ言い聞かせるみたいに。
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その瞬間だった。
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パァァァン!!
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雷。
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空が白く染まる。
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そして。
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メアリーの瞳が見開かれる。
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完全に。
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何かを思い出した顔。
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「――っ!!」
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頭を押さえる。
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叫ぶ。
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「メアリー!!」
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悠が支える。
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震える。
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涙。
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呼吸。
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全部ぐちゃぐちゃだった。
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そして。
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絞り出すように。
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その名前を言った。
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「……春人」
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静寂。
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雨だけが降っている。
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「春人……?」
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悠が呟く。
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聞き覚えがあった。
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ある。
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確かに。
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高校時代。
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海鳴町。
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一つ上の先輩。
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サッカー部。
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成績優秀。
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優しい。
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町でも評判だった。
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あの。
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神崎春人。
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「嘘や……」
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メアリーが泣く。
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「なんで」
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「なんで春人先輩なん……」
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その時だった。
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後ろから声。
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「それは違う」
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悠が振り返る。
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海。
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雨。
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そして。
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防波堤の向こう。
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黒いコート姿。
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写真の人物。
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十二年間。
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ずっと現れていた影。
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その人物が。
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初めて口を開いた。
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「神崎春人は」
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風が吹く。
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雨が揺れる。
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そして。
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その人物は言った。
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「犯人じゃない」
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第1章、終了。
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後書き
第35話でした。
ここで第1章完結です。
しかし。
真相はまだ終わっていません。
メアリーが思い出した名前。
神崎春人。
だが。
最後に現れた黒い影は、
「春人は犯人じゃない」
と言った。
つまり。
* メアリーの記憶
* 写真の人物
* 十二年前の事件
まだ決定的なズレがある。
第2章では、
ついに黒い影の正体、
そして播磨弁の女刑事が登場し、
青春ホラーは本格サスペンスへ変わっていきます。




