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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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33/90

二人目

前書き


真実には、


順番がある。


いきなり全部を思い出したら、

人は壊れてしまう。


だから記憶は少しずつ戻る。


優しい順に。


耐えられる順に。


そして最後に。


一番見たくなかったものが残る。


今回は、


その一歩手前の話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第33話


二人目


⸻


午後六時十二分。


⸻


海鳴町。


⸻


海沿い。


⸻


雨。


⸻


雷。


⸻


波。


⸻


誰も動かなかった。


⸻


⸻


『もう一人おった』


⸻


⸻


メアリーの言葉。


⸻


それだけで。


⸻


世界が変わった。


⸻


「……どういう意味だ」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーは震えている。


⸻


「分からん」


⸻


首を振る。


⸻


「でも」


⸻


「追いかけてきた人とは違う」


⸻


雨が強くなる。


⸻


レイも黙っていた。


⸻


頭を整理している。


⸻


珍しく。


⸻


本当に珍しく。


⸻


冗談を言わない。


⸻


⸻


「つまり」


⸻


レイが呟く。


⸻


「祭りの夜」


⸻


「ここには二人いた」


⸻


「たぶん」


⸻


メアリーが頷く。


⸻


「一人は犯人」


⸻


「もう一人は?」


⸻


「……分からん」


⸻


だが。


⸻


メアリーの表情を見る限り。


⸻


怖がってはいなかった。


⸻


むしろ。


⸻


困惑している。


⸻


そんな顔だった。


⸻


⸻


ゴロォォォン……


⸻


雷。


⸻


空が光る。


⸻


その瞬間だった。


⸻


メアリーが海を見たまま固まる。


⸻


「……あ」


⸻


「どうした」


⸻


返事がない。


⸻


視線だけが動いている。


⸻


沖。


⸻


波。


⸻


灰色の海。


⸻


誰もいない。


⸻


はずなのに。


⸻


「……見えた」


⸻


小さな声。


⸻


「何が」


⸻


「私」


⸻


静寂。


⸻


「え?」


⸻


メアリーは震えていた。


⸻


「海の中に」


⸻


悠の血の気が引く。


⸻


「私がおった」


⸻


⸻


十二年前


⸻


雨。


⸻


海。


⸻


冷たい水。


⸻


沈む。


⸻


暗い。


⸻


苦しい。


⸻


息ができない。


⸻


上を見る。


⸻


雨。


⸻


雷。


⸻


そして。


⸻


海面。


⸻


そこに。


⸻


誰か立っていた。


⸻


⸻


現在


⸻


「……っ!!」


⸻


メアリーが頭を押さえる。


⸻


膝をつく。


⸻


「メアリー!」


⸻


悠が支える。


⸻


「見えた……」


⸻


「誰が」


⸻


「……」


⸻


涙が落ちる。


⸻


「顔が見えん」


⸻


悔しそうだった。


⸻


「そこだけ見えん」


⸻


⸻


雨はさらに強くなる。


⸻


レイが空を見る。


⸻


「撤収しよう」


⸻


珍しく正しい判断だった。


⸻


「暗くなる」


⸻


「足場悪い」


⸻


「これ以上は危ねぇ」


⸻


悠も頷く。


⸻


今のメアリーは限界だった。


⸻


⸻


午後七時十分。


⸻


海鳴町商店街。


⸻


小さな旅館。


⸻


「うわ懐かし」


⸻


レイが言う。


⸻


木造。


⸻


古い看板。


⸻


昭和の空気。


⸻


「まだ潰れてなかったんだな」


⸻


「失礼やろ」


⸻


受付のおばちゃんが笑う。


⸻


七十代くらい。


⸻


だが元気だった。


⸻


「観光?」


⸻


「まぁそんな感じ」


⸻


悠が答える。


⸻


おばちゃんは少し首を傾げる。


⸻


「地元の子やろ?」


⸻


静寂。


⸻


悠が固まる。


⸻


「……覚えてるんですか」


⸻


「そりゃ覚えとる」


⸻


笑う。


⸻


「黒瀬さんとこの坊ややん」


⸻


その瞬間。


⸻


十二年という時間が少しだけ縮まった。


⸻


⸻


夜。


⸻


旅館の部屋。


⸻


畳。


⸻


座卓。


⸻


古いテレビ。


⸻


窓の向こうは海。


⸻


雨。


⸻


「……」


⸻


メアリーは窓際に座っていた。


⸻


静かだった。


⸻


悠は缶茶を開ける。


⸻


レイは布団へ転がる。


⸻


「腰終わった」


⸻


「まだ言うか」


⸻


「重要事項」


⸻


少し笑う。


⸻


久しぶりに。


⸻


ほんの少しだけ。


⸻


空気が軽かった。


⸻


その時だった。


⸻


コン。


⸻


誰も喋らなくなる。


⸻


旅館の部屋。


⸻


夜。


⸻


コン。


⸻


また音。


⸻


ドアだった。


⸻


「……誰だ」


⸻


悠が立つ。


⸻


時間を見る。


⸻


午後十時四十七分。


⸻


こんな時間に?


⸻


ゆっくりドアを開ける。


⸻


廊下。


⸻


誰もいない。


⸻


だが。


⸻


床に一枚の紙。


⸻


「……」


⸻


拾う。


⸻


折り畳まれている。


⸻


開く。


⸻


そこには。


⸻


青いボールペン。


⸻


たった一行。


⸻


⸻


『まだ間に合う』


⸻


⸻


悠の顔色が変わる。


⸻


裏返す。


⸻


さらに文字。


⸻


⸻


『二人目を探せ』


⸻


⸻


遠くで雷が落ちた。


⸻


メアリーが立ち上がる。


⸻


レイも起き上がる。


⸻


誰も喋らない。


⸻


だが。


⸻


三人とも同じことを思っていた。


⸻


事件は。


⸻


まだ終わっていない。


⸻


むしろ。


⸻


今から始まるのかもしれない。


⸻


後書き


第33話でした。


今回は


「二人目」


の存在を確定させる回です。


ここで重要なのは、


* 犯人とは別の人物がいた

* その人物は海辺にいた

* 何かを見ていた可能性がある

* そして現在も誰かが三人を見ている


ということ。


次回、


第34話「祭りの夜」


メアリーの記憶がさらに戻ります。


第1章クライマックス直前です。

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