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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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32/90

名前

前書き


名前には力がある。


知らなければ、

ただの恐怖で済む。


でも。


名前を知った瞬間、


それは現実になる。


今回は、


ずっと避けていた場所へ辿り着く話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第32話


名前


⸻


午後五時三十七分。


⸻


海鳴町。


⸻


海。


⸻


雨。


⸻


雷。


⸻


そして。


⸻


メアリーは震えていた。


⸻


「私……」


⸻


涙。


⸻


雨。


⸻


海風。


⸻


全部が混ざる。


⸻


「突き落とされた」


⸻


悠も。


⸻


レイも。


⸻


何も言えなかった。


⸻


十二年間。


⸻


行方不明。


⸻


事故。


⸻


転落。


⸻


そう思われていた。


⸻


でも違った。


⸻


事故じゃない。


⸻


殺された。


⸻


メアリー自身が。


⸻


今。


⸻


思い出した。


⸻


⸻


ゴロォォン……


⸻


雷鳴。


⸻


空が光る。


⸻


海面が白くなる。


⸻


その瞬間だった。


⸻


メアリーが膝をつく。


⸻


「っ……!」


⸻


「メアリー!」


⸻


悠が支える。


⸻


身体が震えている。


⸻


今までで一番激しく。


⸻


「見える……」


⸻


「何が」


⸻


「思い出す……」


⸻


呼吸が乱れる。


⸻


瞳だけが遠くを見ている。


⸻


⸻


十二年前


⸻


祭りの夜


⸻


海。


⸻


雨。


⸻


防波ブロック。


⸻


高校生のメアリー。


⸻


後ずさる。


⸻


目の前。


⸻


一人の人間。


⸻


知っている顔。


⸻


信じていた人。


⸻


だから。


⸻


理解できなかった。


⸻


⸻


『なんで……?』


⸻


⸻


声が震える。


⸻


雨音で聞こえない。


⸻


相手は何か言っている。


⸻


でも思い出せない。


⸻


その部分だけ。


⸻


まるで切り取られている。


⸻


⸻


現在


⸻


「……」


⸻


メアリーが顔を上げる。


⸻


青い顔。


⸻


涙。


⸻


恐怖。


⸻


そして。


⸻


絶望。


⸻


「悠ちゃん」


⸻


「ん」


⸻


「知っとる人や」


⸻


「……」


⸻


「やっぱり」


⸻


風が吹く。


⸻


海が荒れる。


⸻


レイも黙っていた。


⸻


もう。


⸻


冗談を言う空気じゃなかった。


⸻


⸻


「誰なんだ」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーは答えない。


⸻


答えられない。


⸻


いや。


⸻


答えたくない。


⸻


そんな顔だった。


⸻


「メアリー」


⸻


「……」


⸻


「誰だ」


⸻


静寂。


⸻


雨。


⸻


雷。


⸻


そして。


⸻


メアリーは。


⸻


ゆっくり首を振った。


⸻


「まだ」


⸻


「言えん」


⸻


「なんで」


⸻


涙が溢れる。


⸻


「言ったら」


⸻


震える声。


⸻


「全部終わる気がする」


⸻


悠の胸が痛む。


⸻


それは。


⸻


犯人の名前じゃない。


⸻


もっと別の意味だ。


⸻


メアリー自身が。


⸻


その名前を認めたくない。


⸻


⸻


その時だった。


⸻


レイが突然振り返る。


⸻


「……おい」


⸻


「どうした」


⸻


「今」


⸻


顔色が悪い。


⸻


「後ろ」


⸻


悠も振り向く。


⸻


防波堤。


⸻


雨。


⸻


誰もいない。


⸻


はずだった。


⸻


だが。


⸻


一瞬。


⸻


本当に一瞬だけ。


⸻


黒いコート姿の人影が立っていた。


⸻


写真の男。


⸻


倉庫の影。


⸻


窓の外。


⸻


あの人影。


⸻


⸻


「っ!!」


⸻


悠が走る。


⸻


だが。


⸻


誰もいない。


⸻


消えている。


⸻


雨だけ。


⸻


海だけ。


⸻


⸻


「なんなんだよ!!」


⸻


初めて怒鳴った。


⸻


海へ向かって。


⸻


誰もいない闇へ向かって。


⸻


「出てこいよ!!」


⸻


返事はない。


⸻


波の音だけ。


⸻


⸻


その時。


⸻


メアリーが呟く。


⸻


「違う」


⸻


「え?」


⸻


「今の」


⸻


悠が振り向く。


⸻


メアリーは震えていた。


⸻


でも。


⸻


恐怖だけじゃなかった。


⸻


困惑。


⸻


混乱。


⸻


そんな顔。


⸻


「犯人じゃない」


⸻


空気が止まる。


⸻


「……は?」


⸻


レイも固まる。


⸻


「今の人」


⸻


メアリーは海を見る。


⸻


雨の向こう。


⸻


暗い水平線。


⸻


「私を追いかけてきた人じゃない」


⸻


静寂。


⸻


悠の心臓が跳ねる。


⸻


「じゃあ誰だ」


⸻


メアリーは首を振る。


⸻


「分からん」


⸻


「でも」


⸻


唇が震える。


⸻


「もう一人おった」


⸻


⸻


ゴロォォォン……


⸻


雷鳴。


⸻


空が裂ける。


⸻


誰も喋らない。


⸻


つまり。


⸻


この事件には。


⸻


最初から。


⸻


二人いた。


⸻


⸻


後書き


第32話でした。


ここで物語は大きくひっくり返ります。


読者も登場人物も、


「写真の黒い影=犯人」


と思っていました。


しかし違った。


メアリーが見たのは、


別の人物。


つまり、


祭りの夜に海へいた人間は

一人ではなかった。


そしてメアリーは、


犯人の名前を思い出しかけています。


でも。


まだ言えない。


認めたくないから。


次回、


第33話「二人目」


第1章クライマックス。


海鳴町の夜に隠された真実が、

さらに姿を現します。

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