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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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31/90

海

前書き


人は、


記憶を失うんじゃない。


心が耐えられなくなって、

蓋をするだけだ。


だから。


本当に辛かった記憶ほど、

最後まで残る。


今回は、


メアリーが最後まで見ないようにしていた場所へ向かう。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第31話


海


⸻


午後四時二十分。


⸻


海鳴町。


⸻


立入禁止区域。


⸻


古い倉庫群。


⸻


潮風。


⸻


曇り空。


⸻


夏の終わりの海。


⸻


「……」


⸻


誰も喋らなかった。


⸻


メアリーはまだ震えていた。


⸻


⸻


『知り合いやった』


⸻


⸻


その言葉だけが。


⸻


三人の間に残っていた。


⸻


「……帰るか」


⸻


レイが珍しく言う。


⸻


声が低い。


⸻


冗談もない。


⸻


「今日はもう」


⸻


「無理だろ」


⸻


悠も同意しかけた。


⸻


だが。


⸻


メアリーは首を振る。


⸻


「……海」


⸻


小さく呟く。


⸻


「え?」


⸻


「海行かな」


⸻


震える声。


⸻


「そこまで行かんと」


⸻


「終わらん」


⸻


⸻


午後五時十分。


⸻


倉庫群を抜ける。


⸻


海沿いの細い道。


⸻


崩れかけたガードレール。


⸻


雑草。


⸻


波の音。


⸻


昔はよく遊んだ場所だった。


⸻


釣り。


⸻


肝試し。


⸻


秘密基地。


⸻


そんな場所。


⸻


だが今は。


⸻


誰も来ない。


⸻


町の人間ですら近寄らない。


⸻


「……」


⸻


レイも黙っていた。


⸻


妙だった。


⸻


海が。


⸻


静かすぎる。


⸻


⸻


十分後。


⸻


そこへ着く。


⸻


小さな入り江。


⸻


岩場。


⸻


防波ブロック。


⸻


そして。


⸻


海へ続く細いコンクリート。


⸻


メアリーが止まる。


⸻


「……ここ」


⸻


顔色が真っ白だった。


⸻


「間違いない」


⸻


悠の鼓動が速くなる。


⸻


「祭りの日か」


⸻


「うん」


⸻


風が吹く。


⸻


空が暗くなる。


⸻


遠くで雷が鳴る。


⸻


まるで。


⸻


十二年前と同じみたいに。


⸻


⸻


メアリーが歩く。


⸻


ゆっくり。


⸻


記憶を辿るように。


⸻


「……」


⸻


そして。


⸻


海際で止まる。


⸻


「私」


⸻


「ここまで逃げた」


⸻


静かな声。


⸻


「後ろから」


⸻


「ずっと足音聞こえとった」


⸻


悠もレイも動かない。


⸻


ただ聞く。


⸻


「怖くて」


⸻


「助けてほしくて」


⸻


涙が落ちる。


⸻


「でも誰もおらんかった」


⸻


波が砕ける。


⸻


海鳥が鳴く。


⸻


そして。


⸻


メアリーは震えながら振り返る。


⸻


誰もいない場所へ。


⸻


「そこで」


⸻


「その人がおった」


⸻


⸻


十二年前


⸻


祭りの夜


⸻


雨が降り始める。


⸻


海。


⸻


風。


⸻


暗闇。


⸻


高校生のメアリー。


⸻


涙。


⸻


恐怖。


⸻


振り返る。


⸻


そこにいた。


⸻


黒い影。


⸻


だが。


⸻


もう顔は見えている。


⸻


知っている人。


⸻


見覚えのある顔。


⸻


だからこそ。


⸻


怖かった。


⸻


⸻


現在


⸻


「……」


⸻


メアリーが頭を押さえる。


⸻


苦しそうだった。


⸻


「思い出せ」


⸻


悠が言う。


⸻


「無理にじゃなくていい」


⸻


「でも」


⸻


「逃げんな」


⸻


メアリーが顔を上げる。


⸻


涙で濡れた瞳。


⸻


「……うん」


⸻


小さく頷く。


⸻


そして。


⸻


その瞬間だった。


⸻


ゴロォォン……


⸻


雷。


⸻


空が光る。


⸻


一瞬だけ。


⸻


海が白く照らされる。


⸻


そして。


⸻


レイの顔色が変わる。


⸻


「……おい」


⸻


「どうした」


⸻


レイは海の先を見る。


⸻


沖。


⸻


波の向こう。


⸻


「今」


⸻


喉が鳴る。


⸻


「誰か立ってなかったか」


⸻


静寂。


⸻


悠の背筋が凍る。


⸻


「は?」


⸻


「いや」


⸻


「人影」


⸻


「海の上」


⸻


あり得ない。


⸻


そんなはずがない。


⸻


だが。


⸻


レイは本気だった。


⸻


冗談じゃない。


⸻


そして。


⸻


メアリーも見ていた。


⸻


青ざめる。


⸻


震える。


⸻


「……おる」


⸻


小さな声。


⸻


「今おる」


⸻


風が強くなる。


⸻


波が荒れる。


⸻


空が暗くなる。


⸻


その時。


⸻


悠のスマホが震えた。


⸻


ピロン。


⸻


知らない番号。


⸻


最後のメッセージ。


⸻


悠は画面を見る。


⸻


そして。


⸻


初めて。


⸻


全身の血が凍った。


⸻


そこには。


⸻


たった一行。


⸻


⸻


『その場所で死んだ』


⸻


⸻


メアリーの顔から血の気が引く。


⸻


雷が落ちる。


⸻


白い光。


⸻


轟音。


⸻


そして。


⸻


メアリーの瞳が見開かれる。


⸻


「――あ」


⸻


その声は。


⸻


思い出した人間の声だった。


⸻


「私……」


⸻


涙が零れる。


⸻


「突き落とされた」


⸻


⸻


海風が吹き抜けた。


⸻


誰も動けなかった。


⸻


第1章の終わりが。


⸻


ついに姿を現した。


⸻


後書き


第31話でした。


ここでついに、


メアリーは


「自分が海で突き落とされた」


ことを思い出しました。


ただし、


まだ犯人の名前は出ません。


なぜなら。


本当に恐ろしいのは、


「誰がやったか」


ではなく、


「なぜやったか」


だからです。


次回、


第32話「名前」


第1章クライマックスへ入ります。

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