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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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30/90

倉庫

前書き


人は、


真実を知りたいと言う。


でも本当は違う。


知りたいのは、


自分が耐えられる真実だけだ。


耐えられない真実は、


誰だって見たくない。


今回は、


その扉を開ける話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第30話


倉庫


⸻


午後三時四十分。


⸻


海鳴町。


⸻


海沿い。


⸻


立入禁止区域。


⸻


錆びたフェンス。


⸻


古い倉庫群。


⸻


潮風。


⸻


曇り空。


⸻


夏の終わりの海は、

妙に静かだった。


⸻


「……」


⸻


誰も喋らない。


⸻


さっきの言葉が。


⸻


頭から離れなかった。


⸻


⸻


『殺した人に会った』


⸻


⸻


メアリーが言った。


⸻


つまり。


⸻


祭りの夜。


⸻


ここで。


⸻


何かがあった。


⸻


「帰るか?」


⸻


悠が聞く。


⸻


初めてだった。


⸻


本気で。


⸻


引き返した方がいいと思った。


⸻


だが。


⸻


メアリーは首を振る。


⸻


「……行く」


⸻


小さな声。


⸻


でも。


⸻


はっきりしていた。


⸻


「怖いけど」


⸻


「行かなあかん」


⸻


風が吹く。


⸻


フェンスが軋む。


⸻


⸻


「はぁ……」


⸻


レイが頭を掻く。


⸻


「完全に不法侵入なんだが」


⸻


「帰る?」


⸻


「今さら?」


⸻


即答だった。


⸻


「ここまで来て帰ったら後悔する」


⸻


「だろうな」


⸻


悠も頷く。


⸻


⸻


フェンスの脇。


⸻


昔からある穴。


⸻


子供の頃。


⸻


何度も侵入した。


⸻


秘密基地。


⸻


肝試し。


⸻


冒険。


⸻


そんな感覚だった。


⸻


あの頃は。


⸻


⸻


三人は中へ入る。


⸻


草。


⸻


コンクリート。


⸻


錆びたコンテナ。


⸻


崩れた壁。


⸻


誰もいない。


⸻


はずだった。


⸻


「……」


⸻


だが。


⸻


妙だった。


⸻


静かすぎる。


⸻


鳥もいない。


⸻


虫もいない。


⸻


海の音だけ。


⸻


遠くで聞こえる。


⸻


「嫌な感じする」


⸻


レイが呟く。


⸻


珍しく。


⸻


冗談じゃなかった。


⸻


⸻


倉庫A棟。


⸻


シャッター半開き。


⸻


暗い。


⸻


中は見えない。


⸻


メアリーが止まる。


⸻


「……ここ」


⸻


震えていた。


⸻


「覚えとる」


⸻


悠の鼓動が速くなる。


⸻


「中か?」


⸻


「うん」


⸻


⸻


ギィ……


⸻


シャッターを押し上げる。


⸻


暗闇。


⸻


埃。


⸻


潮の匂い。


⸻


古い木箱。


⸻


錆びた工具。


⸻


何十年も放置された空間。


⸻


そして。


⸻


壁。


⸻


そこに。


⸻


かすかに残っていた。


⸻


⸻


『MARY』


⸻


⸻


英語。


⸻


スプレー。


⸻


落書き。


⸻


「……」


⸻


メアリーが固まる。


⸻


「私や」


⸻


「え?」


⸻


「私が書いた」


⸻


静寂。


⸻


「なんで」


⸻


「知らん……」


⸻


「でも書いた」


⸻


ゆっくり近づく。


⸻


指でなぞる。


⸻


涙が落ちる。


⸻


⸻


そして。


⸻


その瞬間だった。


⸻


パァン!!


⸻


⸻


どこかで大きな音。


⸻


金属音。


⸻


三人が振り返る。


⸻


倉庫の奥。


⸻


暗闇。


⸻


誰もいない。


⸻


はずなのに。


⸻


「……」


⸻


レイが顔をしかめる。


⸻


「なぁ」


⸻


「ん」


⸻


「今」


⸻


唾を飲む。


⸻


「誰か走ったよな」


⸻


悠も見た。


⸻


気がした。


⸻


黒い影。


⸻


一瞬だけ。


⸻


奥へ消えた。


⸻


⸻


「追うな」


⸻


悠が言う。


⸻


即座に。


⸻


「追わねぇよ」


⸻


レイも同意した。


⸻


当たり前だ。


⸻


ホラー映画なら死ぬやつだ。


⸻


⸻


その時。


⸻


メアリーが倉庫の隅を見る。


⸻


そこには。


⸻


古い折り畳み椅子。


⸻


錆びた机。


⸻


そして。


⸻


一冊のノート。


⸻


「……」


⸻


「なんだこれ」


⸻


悠が拾う。


⸻


表紙はボロボロ。


⸻


だが。


⸻


中は読める。


⸻


⸻


200X年8月15日


⸻


⸻


十二年前。


⸻


祭りの日。


⸻


悠の背筋が凍る。


⸻


「おい……」


⸻


レイも覗き込む。


⸻


ページをめくる。


⸻


そこには。


⸻


何人もの名前。


⸻


落書き。


⸻


日記。


⸻


そして。


⸻


最後のページ。


⸻


そこだけ。


⸻


筆圧が異常に強かった。


⸻


⸻


『逃げろ』


⸻


⸻


三人が固まる。


⸻


その下。


⸻


さらに文字。


⸻


⸻


『あいつはまだいる』


⸻


⸻


空気が凍る。


⸻


メアリーの顔色が変わる。


⸻


「……あ」


⸻


「メアリー!」


⸻


頭を押さえる。


⸻


呼吸が乱れる。


⸻


涙。


⸻


震え。


⸻


そして。


⸻


今までで一番鮮明な記憶。


⸻


⸻


祭りの夜。


⸻


倉庫。


⸻


暗闇。


⸻


誰かの声。


⸻


『待って』


⸻


振り返る。


⸻


黒い影。


⸻


逃げる。


⸻


走る。


⸻


海へ。


⸻


そして。


⸻


その直前。


⸻


メアリーは。


⸻


初めて顔を見た。


⸻


「……っ!!」


⸻


叫ぶ。


⸻


悠が支える。


⸻


「見えたのか!?」


⸻


メアリーは震える。


⸻


涙を流しながら。


⸻


ゆっくり頷いた。


⸻


「……知っとる人や」


⸻


静寂。


⸻


誰も動けない。


⸻


「誰だ」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーは唇を震わせる。


⸻


そして。


⸻


絞り出すように言った。


⸻


「……嘘や」


⸻


青ざめる。


⸻


信じられないという顔。


⸻


「そんなはずない」


⸻


「だって」


⸻


メアリーの声が震える。


⸻


「その人……」


⸻


⸻


「知り合いやった」


⸻


⸻


後書き


第30話でした。


ここで第1章は大きく動きます。


今回のポイントは、


* 倉庫でメアリーの痕跡を発見

* 「逃げろ」という警告

* 犯人は見知らぬ人物ではない

* メアリーは顔を思い出した


という点です。


ただし。


まだ名前は出しません。


ここで名前を出すと早すぎる。


次回、第31話「海」。


メアリーが逃げた場所、

そして第1章最大の衝撃へ向かいます。

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