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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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29/90

防波堤

前書き


懐かしい場所ほど、


人は油断する。


知っている景色。


知っている道。


知っている匂い。


だから気づかない。


その場所にも、

ちゃんと時間が流れていたことに。


今回は、


写真の場所へ行く話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第29話


防波堤


⸻


午前十時四十五分。


⸻


海鳴町。


⸻


海沿い。


⸻


潮風が強い。


⸻


夏も終わりに近いはずなのに、

日差しはまだ容赦なかった。


⸻


「暑っ……」


⸻


レイが文句を言う。


⸻


「富山涼しいんじゃなかったのかよ」


⸻


「誰が言った」


⸻


「勝手なイメージ」


⸻


「観光パンフレットか」


⸻


レイが笑う。


⸻


少しだけ。


⸻


本当に少しだけ。


⸻


昔みたいだった。


⸻


三人で歩く。


⸻


海沿いの道。


⸻


防波堤へ続く坂。


⸻


高校時代。


⸻


何度も通った道。


⸻


「……」


⸻


悠は立ち止まる。


⸻


目の前。


⸻


海。


⸻


青い空。


⸻


波。


⸻


そして。


⸻


写真の場所。


⸻


「ここや」


⸻


メアリーが小さく呟く。


⸻


「間違いない」


⸻


風が吹く。


⸻


髪が揺れる。


⸻


メアリーは防波堤を見つめていた。


⸻


まるで。


⸻


遠い記憶を探すように。


⸻


⸻


三人は防波堤へ座る。


⸻


波の音。


⸻


カモメ。


⸻


漁船のエンジン音。


⸻


平和だった。


⸻


あまりにも。


⸻


「……なぁ」


⸻


レイが海を見る。


⸻


「ここさ」


⸻


「ん?」


⸻


「なんか覚えてる」


⸻


悠が顔を上げる。


⸻


「祭りの日」


⸻


「来た気がする」


⸻


「来てたぞ」


⸻


「やっぱりか」


⸻


レイが少し笑う。


⸻


「最近さ」


⸻


「変な夢見るんだよ」


⸻


風が吹く。


⸻


「どんな」


⸻


「分かんね」


⸻


「でも」


⸻


少し考える。


⸻


「誰か探してる」


⸻


悠の胸がざわつく。


⸻


⸻


その時だった。


⸻


メアリーが立ち上がる。


⸻


「……」


⸻


何も言わない。


⸻


ただ。


⸻


海沿いを歩き始める。


⸻


「おい」


⸻


「メアリー」


⸻


聞こえていないみたいだった。


⸻


ゆっくり。


⸻


ゆっくり。


⸻


防波堤の先へ向かう。


⸻


⸻


そこには。


⸻


古いフェンスがあった。


⸻


錆びている。


⸻


立入禁止。


⸻


黄色い看板。


⸻


その向こう。


⸻


古い倉庫群。


⸻


写真の奥に写っていた場所。


⸻


「……」


⸻


メアリーが止まる。


⸻


肩が震えていた。


⸻


「ここ」


⸻


小さな声。


⸻


「思い出した」


⸻


悠の心臓が跳ねる。


⸻


「何を」


⸻


返事はない。


⸻


代わりに。


⸻


涙が落ちた。


⸻


「メアリー?」


⸻


「私」


⸻


呼吸が浅い。


⸻


苦しそうだった。


⸻


「ここへ逃げた」


⸻


風が止まる。


⸻


海も。


⸻


空も。


⸻


音が消えたみたいだった。


⸻


「祭りの日」


⸻


「怖くて」


⸻


「走って」


⸻


「ここ来た」


⸻


悠もレイも動けない。


⸻


「それで」


⸻


メアリーはフェンスの向こうを見る。


⸻


古い倉庫。


⸻


誰もいない。


⸻


なのに。


⸻


「誰かおった」


⸻


震える声。


⸻


「誰か」


⸻


「待っとった」


⸻


その瞬間。


⸻


ガンッ!!


⸻


大きな音。


⸻


三人が振り向く。


⸻


倉庫群の奥。


⸻


何かが倒れた音。


⸻


「……っ」


⸻


レイの顔が強張る。


⸻


「今の聞いたよな」


⸻


「……あぁ」


⸻


悠も聞いた。


⸻


確かに。


⸻


誰かいる。


⸻


そんな音だった。


⸻


⸻


そして。


⸻


メアリーが青ざめる。


⸻


今までで一番。


⸻


血の気が引いていた。


⸻


「……いや」


⸻


「メアリー?」


⸻


「いや」


⸻


後ずさる。


⸻


震える。


⸻


涙が溢れる。


⸻


「思い出したくない」


⸻


その声が。


⸻


今までで一番怖かった。


⸻


「思い出したらダメ」


⸻


「なんで」


⸻


悠が聞く。


⸻


すると。


⸻


メアリーは泣きながら言った。


⸻


「私」


⸻


呼吸が震える。


⸻


「このあと」


⸻


「会った」


⸻


静寂。


⸻


海風。


⸻


波の音。


⸻


遠くの船。


⸻


そして。


⸻


メアリーは。


⸻


初めて。


⸻


その言葉を口にした。


⸻


「殺した人に」


⸻


⸻


空気が凍った。


⸻


後書き


第29話でした。


ここで第1章はいよいよ核心へ入ります。


重要なのは、


メアリーが初めて


「殺された」ではなく

「殺した人に会った」


と言ったこと。


つまり記憶は、


被害者視点から加害者視点へ近づき始めています。


次回、


第30話「倉庫」


三人は立入禁止区域へ足を踏み入れます。


そして第1章最大の真実が、

少しずつ姿を現し始めます。

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