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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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夜行バス

前書き


旅って不思議だ。


出発するまでは面倒なのに。


いざ動き出すと、


少しだけ人生が変わる気がする。


ましてそれが、


十二年帰っていない故郷ならなおさらだ。


今回は、


海鳴町への旅立ち。


そして。


第1章最後の平和な夜だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第27話


夜行バス


⸻


金曜日。


⸻


午後九時二十分。


⸻


横浜駅東口。


⸻


夜。


⸻


高速バスターミナル。


⸻


人が多い。


⸻


旅行客。


⸻


学生。


⸻


サラリーマン。


⸻


帰省客。


⸻


様々な人間が行き交う。


⸻


黒瀬悠はリュックを背負っていた。


⸻


「……」


⸻


なんだろう。


⸻


変な気分だった。


⸻


海鳴町へ帰る。


⸻


たったそれだけなのに。


⸻


胃が重い。


⸻


「うわ」


⸻


聞き慣れた声。


⸻


レイだった。


⸻


キャリーケース。


⸻


黒パーカー。


⸻


スニーカー。


⸻


スカジャンはバッグに突っ込んでいるらしい。


⸻


「旅行かよ」


⸻


「帰省だろ」


⸻


「まぁそうか」


⸻


レイは周囲を見る。


⸻


「横浜から富山とか何年ぶり?」


⸻


「十二年」


⸻


「長ぇな」


⸻


「だな」


⸻


二人とも少し笑う。


⸻


その横で。


⸻


メアリーが静かに立っていた。


⸻


ターミナルの光を見上げている。


⸻


どこか不思議そうに。


⸻


「バス久しぶりや」


⸻


「乗ったことあったっけ」


⸻


「修学旅行」


⸻


「あー」


⸻


思い出す。


⸻


中学の頃。


⸻


京都。


⸻


奈良。


⸻


その帰り。


⸻


メアリーはずっと寝ていた。


⸻


「覚えとらん」


⸻


「だろうな」


⸻


少し笑う。


⸻


だが。


⸻


その笑顔も長くは続かなかった。


⸻


メアリーの視線が止まる。


⸻


「……」


⸻


「どうした」


⸻


「……おる」


⸻


悠の胸がざわつく。


⸻


「どこ」


⸻


メアリーは遠くを指差す。


⸻


バスターミナルの端。


⸻


自販機の横。


⸻


黒いコート姿。


⸻


背の高い人影。


⸻


「……」


⸻


悠も見る。


⸻


だが。


⸻


人混みの中に紛れて分からない。


⸻


「またか」


⸻


「うん」


⸻


メアリーは青い顔をしていた。


⸻


「近い」


⸻


その言葉が妙に怖かった。


⸻


⸻


午後十時十分。


⸻


乗車開始。


⸻


富山行き夜行バス。


⸻


古いタイプ。


⸻


二列二列。


⸻


深夜便。


⸻


「うわ狭っ」


⸻


レイが文句を言う。


⸻


「文句言うな」


⸻


「腰死ぬ」


⸻


「まだ乗ってねぇだろ」


⸻


「気配で分かる」


⸻


相変わらずだった。


⸻


悠は少しだけ安心する。


⸻


こんな時でも。


⸻


レイはレイだ。


⸻


変わらない。


⸻


だから救われる。


⸻


⸻


出発。


⸻


午後十時三十分。


⸻


横浜の夜景が流れていく。


⸻


高層ビル。


⸻


首都高。


⸻


ネオン。


⸻


窓の外。


⸻


十二年間暮らした街。


⸻


「……」


⸻


悠はぼんやり眺める。


⸻


「寂しい?」


⸻


メアリーが聞く。


⸻


「別に」


⸻


「嘘や」


⸻


「うるせ」


⸻


メアリーが少し笑う。


⸻


その顔を見て。


⸻


悠も少し笑う。


⸻


本当に。


⸻


こういう時間が続けばいいのに。


⸻


そう思った。


⸻


⸻


深夜一時。


⸻


サービスエリア。


⸻


休憩。


⸻


バスを降りる。


⸻


冷たい空気。


⸻


自販機。


⸻


トラック。


⸻


深夜の独特な静けさ。


⸻


「うわ寒」


⸻


レイが肩をすくめる。


⸻


「富山もっと寒いぞ」


⸻


「帰りたくなくなった」


⸻


「今さらか」


⸻


三人は自販機の前に立つ。


⸻


その時だった。


⸻


メアリーの顔色が変わる。


⸻


「……」


⸻


「メアリー?」


⸻


返事がない。


⸻


視線だけが動いている。


⸻


サービスエリアの奥。


⸻


暗い駐車場。


⸻


大型トラックの並ぶエリア。


⸻


そこを見ていた。


⸻


「……おった」


⸻


小さな声。


⸻


「誰」


⸻


「写真の人」


⸻


空気が止まる。


⸻


悠が振り向く。


⸻


だが。


⸻


誰もいない。


⸻


暗闇。


⸻


街灯。


⸻


大型車。


⸻


それだけ。


⸻


「……気のせいだ」


⸻


そう言った瞬間だった。


⸻


ピロン。


⸻


スマホ。


⸻


通知。


⸻


悠の顔色が変わる。


⸻


知らない番号。


⸻


まただ。


⸻


新しいメッセージ。


⸻


『引き返せ』


⸻


短い。


⸻


だが。


⸻


今までで一番はっきりしていた。


⸻


『海は待っている』


⸻


「……は?」


⸻


メアリーも画面を見る。


⸻


青ざめる。


⸻


「海……」


⸻


小さく呟く。


⸻


そして。


⸻


頭を押さえた。


⸻


「メアリー!」


⸻


「……思い出した」


⸻


静寂。


⸻


深夜のサービスエリア。


⸻


風。


⸻


トラックのエンジン音。


⸻


「何を」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーは震える声で答えた。


⸻


「私」


⸻


「海へ逃げた」


⸻


その瞬間。


⸻


遠くで雷が光った。


⸻


第1章の終わりが。


⸻


すぐそこまで来ていた。


⸻


後書き


第27話でした。


ついに始まった


海鳴町帰還編。


まだ真相は出しません。


まだ事件も出しません。


ですが、


* 写真の人物

* 海

* 夏祭り

* 追跡

* 逃走


が一本に繋がり始めています。


そしてメアリーはついに、


「海へ逃げた」


ことを思い出しました。


次回、

第28話「朝の海鳴町」


十二年ぶりの故郷へ到着します。

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