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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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帰る場所

前書き


帰る場所って、


必ずしも家じゃない。


故郷だったり。


昔の仲間だったり。


忘れられない夏だったりする。


そして時々。


帰りたくない場所ほど、

帰らなきゃいけないこともある。


今回は、

その始まりだ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第26話


帰る場所


⸻


午前二時三十七分。


⸻


東神奈川。


⸻


雨。


⸻


黒瀬悠のアパート。


⸻


スマホ画面。


⸻


『もう遅い』


⸻


知らない番号。


⸻


短い文章。


⸻


それだけだった。


⸻


「……」


⸻


部屋が静かになる。


⸻


エアコン。


⸻


雨音。


⸻


遠くの踏切。


⸻


誰も喋らない。


⸻


メアリーも。


⸻


画面を見ていた。


⸻


「……怖い?」


⸻


悠が聞く。


⸻


メアリーは少し考える。


⸻


「うん」


⸻


正直だった。


⸻


「でも」


⸻


顔を上げる。


⸻


「行かなあかん気もする」


⸻


悠は頷く。


⸻


自分も同じだった。


⸻


怖い。


⸻


正直めちゃくちゃ怖い。


⸻


でも。


⸻


ここまで来て。


⸻


知らないままでは終われない。


⸻


「……海鳴町か」


⸻


久しぶりに口にした。


⸻


故郷の名前。


⸻


十二年。


⸻


帰っていない。


⸻


帰る理由もなかった。


⸻


⸻


翌日。


⸻


午後一時。


⸻


駅前。


⸻


レイがいた。


⸻


缶コーヒー。


⸻


スカジャン。


⸻


相変わらず眠そう。


⸻


「で?」


⸻


第一声。


⸻


「なんだ急に」


⸻


「電話で”相談ある”とか」


⸻


「珍しすぎて事故かと思った」


⸻


「失礼だな」


⸻


「事実だろ」


⸻


レイが笑う。


⸻


だが。


⸻


悠の顔を見る。


⸻


すぐに真顔になった。


⸻


「……マジなやつか」


⸻


「まぁ」


⸻


「借金?」


⸻


「違う」


⸻


「病気?」


⸻


「違う」


⸻


「結婚?」


⸻


「絶対違う」


⸻


「だろうな」


⸻


レイが吹き出す。


⸻


少しだけ空気が軽くなる。


⸻


そのあと。


⸻


悠は言った。


⸻


「富山行こうと思う」


⸻


静寂。


⸻


レイの動きが止まる。


⸻


「……は?」


⸻


「海鳴町」


⸻


風が吹く。


⸻


駅前の雑踏。


⸻


人の声。


⸻


なのに。


⸻


そこだけ静かだった。


⸻


「なんで」


⸻


「分からん」


⸻


本当は理由がある。


⸻


でも説明できない。


⸻


「ただ」


⸻


「行かなきゃいけない気がする」


⸻


レイはしばらく黙る。


⸻


そして。


⸻


小さく言った。


⸻


「私も行く」


⸻


「は?」


⸻


「いやだから」


⸻


缶コーヒーを飲む。


⸻


「私も行く」


⸻


「なんで」


⸻


「知らん」


⸻


即答だった。


⸻


「でも」


⸻


少しだけ視線を落とす。


⸻


「最近変なんだよ」


⸻


「……」


⸻


「夢見る」


⸻


悠の胸がざわつく。


⸻


「どんな」


⸻


「海」


⸻


「祭り」


⸻


「花火」


⸻


レイが眉をひそめる。


⸻


「あと」


⸻


そこで言葉が止まる。


⸻


「……金髪」


⸻


悠は何も言えなかった。


⸻


⸻


その夜。


⸻


アパート。


⸻


メアリーは窓の外を見ていた。


⸻


珍しく静かだった。


⸻


「なぁ」


⸻


悠が言う。


⸻


「ん?」


⸻


「海鳴町戻ったら」


⸻


少し考える。


⸻


「どこ行きたい」


⸻


メアリーが笑う。


⸻


久しぶりだった。


⸻


少しだけ。


⸻


昔みたいな笑顔。


⸻


「商店街」


⸻


「まだあるかな」


⸻


「さぁ」


⸻


「あと海」


⸻


「防波堤」


⸻


「ゲーム屋」


⸻


「潰れてるだろ」


⸻


「やよね」


⸻


二人が少し笑う。


⸻


でも。


⸻


その笑顔は長く続かなかった。


⸻


メアリーが突然固まる。


⸻


「……」


⸻


「どうした」


⸻


返事がない。


⸻


窓の外。


⸻


向かいのアパート。


⸻


三階。


⸻


非常階段。


⸻


メアリーはそこを見ていた。


⸻


「……おる」


⸻


悠の背筋が凍る。


⸻


「誰」


⸻


「分からん」


⸻


震える声。


⸻


「でも」


⸻


「写真の人」


⸻


静寂。


⸻


悠は窓へ近づく。


⸻


外を見る。


⸻


誰もいない。


⸻


非常階段。


⸻


雨。


⸻


蛍光灯。


⸻


空っぽ。


⸻


だが。


⸻


その時。


⸻


メアリーが小さく呟いた。


⸻


「笑っとった」


⸻


空気が冷たくなる。


⸻


「……」


⸻


「悠ちゃん」


⸻


「ん」


⸻


メアリーは震えていた。


⸻


今までで一番。


⸻


「早く行こう」


⸻


「海鳴町」


⸻


「もう時間ない」


⸻


風が吹く。


⸻


カーテンが揺れる。


⸻


そして。


⸻


机の上の写真。


⸻


三人の後ろにいる黒い人影が。


⸻


気のせいか。


⸻


ほんの少しだけ。


⸻


笑っているように見えた。


⸻


後書き


第26話でした。


ここで物語は


東神奈川編 → 海鳴町編


へ移行します。


まだ女刑事も事件も出ません。


今は、


* 帰郷

* 思い出

* 怪異

* 記憶


を中心に進みます。


そして今回の重要ポイントは、


レイも海鳴町へ行くことを決めた


こと。


第1章ラストへ向けて、


三人が再び同じ場所へ集まり始めています。


次回

第27話「夜行バス」


海鳴町への旅が始まります。

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