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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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26/90

思い出したくない

前書き


人は、


思い出したい記憶と、


思い出したくない記憶を、


同じ場所へしまってしまうことがある。


だから怖い。


扉を開けたら、


両方出てきてしまうから。


今回は、


メアリーの話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第25話


思い出したくない


⸻


午前一時。


⸻


東神奈川。


⸻


公園。


⸻


ブランコ。


⸻


雨上がり。


⸻


街灯。


⸻


静かな夜だった。


⸻


レイは帰った。


⸻


「じゃあな」


⸻


それだけ言って。


⸻


いつもみたいに。


⸻


だが。


⸻


去る直前。


⸻


レイは振り返った。


⸻


「……なぁ悠」


⸻


「ん」


⸻


「その子」


⸻


悠の呼吸が止まる。


⸻


「……」


⸻


「なんか知らんけど」


⸻


レイは頭を掻く。


⸻


「泣かせんなよ」


⸻


それだけ言って。


⸻


バイクで走り去った。


⸻


赤いテールランプ。


⸻


闇の中へ消えていく。


⸻


「……」


⸻


悠は何も言えなかった。


⸻


あいつ。


⸻


本当に少しずつ。


⸻


気づき始めている。


⸻


⸻


アパート。


⸻


午前二時。


⸻


部屋へ戻る。


⸻


静かだった。


⸻


だが。


⸻


今日は違った。


⸻


「……」


⸻


ベッドの端。


⸻


白いパーカー。


⸻


金髪。


⸻


メアリーがいた。


⸻


「……おかえり」


⸻


小さな声。


⸻


今までで一番弱々しかった。


⸻


悠は何も言わず。


⸻


隣へ座る。


⸻


「……」


⸻


「……」


⸻


しばらく誰も喋らない。


⸻


雨音だけ。


⸻


遠くの電車。


⸻


エアコンの音。


⸻


いつもの部屋。


⸻


なのに。


⸻


どこか遠い。


⸻


「ごめん」


⸻


メアリーが言った。


⸻


「謝んな」


⸻


「でも」


⸻


「消えた」


⸻


「知ってる」


⸻


「怖かった」


⸻


悠は少し黙る。


⸻


そして。


⸻


初めて聞いた。


⸻


「どこ行ってた」


⸻


メアリーは俯く。


⸻


「……海」


⸻


空気が止まる。


⸻


「海鳴町」


⸻


「……」


⸻


「気づいたらおった」


⸻


震える声。


⸻


「夜で」


⸻


「雨降っとって」


⸻


「誰もおらんくて」


⸻


呼吸が浅くなる。


⸻


「メアリー」


⸻


「ごめん」


⸻


「思い出したくない」


⸻


涙が落ちる。


⸻


初めてだった。


⸻


メアリーが泣いたのは。


⸻


⸻


十二年前


⸻


海鳴町


⸻


夏祭りの夜


⸻


花火が終わる。


⸻


人が帰る。


⸻


提灯が消える。


⸻


夜になる。


⸻


高校生のメアリー。


⸻


一人で歩いている。


⸻


浴衣。


⸻


下駄。


⸻


海沿いの道。


⸻


「……」


⸻


誰かと喧嘩した。


⸻


気がする。


⸻


思い出せない。


⸻


でも。


⸻


悲しかった。


⸻


だから。


⸻


一人で歩いていた。


⸻


海の方へ。


⸻


倉庫の方へ。


⸻


立入禁止区域。


⸻


誰もいない場所。


⸻


「……」


⸻


波の音。


⸻


風。


⸻


遠くの祭りの残響。


⸻


そして。


⸻


足音。


⸻


後ろ。


⸻


誰かいる。


⸻


メアリーが振り返る。


⸻


見えない。


⸻


暗い。


⸻


でも。


⸻


誰かいた。


⸻


⸻


現在


⸻


「……っ」


⸻


メアリーが頭を押さえる。


⸻


呼吸が乱れる。


⸻


「メアリー!」


⸻


「ごめん」


⸻


「ごめん」


⸻


「思い出せん」


⸻


涙が止まらない。


⸻


「でも」


⸻


「怖かった」


⸻


「すごく」


⸻


悠は何も言わない。


⸻


言えない。


⸻


ただ。


⸻


隣に座る。


⸻


それだけ。


⸻


「……悠ちゃん」


⸻


「ん」


⸻


「私さ」


⸻


涙を拭く。


⸻


「思い出したら」


⸻


静かな声。


⸻


「消えるんかな」


⸻


悠の胸が締め付けられる。


⸻


「……知らねぇ」


⸻


「そっか」


⸻


メアリーは少し笑う。


⸻


でも。


⸻


その笑顔は寂しかった。


⸻


「私」


⸻


「まだおりたい」


⸻


風が吹く。


⸻


カーテンが揺れる。


⸻


「もっと」


⸻


「ゲームしたい」


⸻


「コンビニも行きたい」


⸻


「レイちゃんとも会いたい」


⸻


涙声だった。


⸻


「まだ」


⸻


「終わりたくない」


⸻


悠は俯く。


⸻


そして。


⸻


小さく言った。


⸻


「じゃあ終わらせねぇ」


⸻


メアリーが顔を上げる。


⸻


「え?」


⸻


「思い出すなら」


⸻


「最後までやる」


⸻


静かな声。


⸻


でも。


⸻


今までで一番本気だった。


⸻


「海鳴町行こう」


⸻


部屋が静かになる。


⸻


雨音。


⸻


夜。


⸻


そして。


⸻


メアリーの瞳。


⸻


「……うん」


⸻


小さく頷く。


⸻


その瞬間だった。


⸻


ピロン。


⸻


スマホ。


⸻


知らない番号。


⸻


新着メッセージ。


⸻


悠が画面を見る。


⸻


そして。


⸻


初めて顔色が変わった。


⸻


そこに書かれていたのは。


⸻


『海鳴町へ来るな』


⸻


ではなかった。


⸻


『もう遅い』


⸻


だった。


⸻


後書き


第25話でした。


ここで第1章の核心が見え始めます。


* メアリーは海鳴町へ引っ張られている

* 夏祭りの夜に何かがあった

* 誰かに追われていた

* 本人は思い出したくない


そして悠は初めて、


「真相を知る」


ことを決意します。


次回、


第26話「帰る場所」


海鳴町編への入口です。


そしてここから、

青春ホラーは少しずつ

本格ミステリーへ変わっていきます。

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