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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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消える日

前書き


人は、


失うことよりも、


「いなくなること」


のほうが怖いのかもしれない。


喧嘩したわけでもない。


別れたわけでもない。


ただ、


そこにいたはずの誰かが、

突然いなくなる。


それだけで世界は少し変わる。


今回は、

その話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第24話


消える日


⸻


翌朝。


⸻


午前十時四十五分。


⸻


東神奈川。


⸻


黒瀬悠のアパート。


⸻


目が覚める。


⸻


暑い。


⸻


エアコンが切れている。


⸻


「……」


⸻


最悪だった。


⸻


昨日は結局。


⸻


三時過ぎまで眠れなかった。


⸻


写真。


⸻


黒い人影。


⸻


メアリーの記憶。


⸻


全部が頭を離れなかった。


⸻


「……」


⸻


身体を起こす。


⸻


机。


⸻


コンビニ袋。


⸻


ゲーム機。


⸻


写真。


⸻


全部ある。


⸻


いつも通り。


⸻


だが。


⸻


「……あれ」


⸻


部屋を見回す。


⸻


静かだった。


⸻


妙に。


⸻


静かすぎる。


⸻


「メアリー?」


⸻


返事がない。


⸻


「おーい」


⸻


いつもなら。


⸻


「起きるの遅い!」


⸻


とか。


⸻


「昼やよ!」


⸻


とか。


⸻


何かしら言う。


⸻


だが。


⸻


返事がない。


⸻


「……」


⸻


悠は立ち上がる。


⸻


トイレ。


⸻


浴室。


⸻


ベランダ。


⸻


当然誰もいない。


⸻


「……」


⸻


胸がざわつく。


⸻


嫌な予感。


⸻


「……メアリー?」


⸻


もう一度呼ぶ。


⸻


返事はない。


⸻


⸻


午後一時。


⸻


コンビニ。


⸻


駅前。


⸻


公園。


⸻


探している自分に気づく。


⸻


「何やってんだ俺」


⸻


小さく呟く。


⸻


幽霊だぞ。


⸻


いるわけない。


⸻


そう思う。


⸻


でも。


⸻


足は止まらない。


⸻


⸻


「うわ」


⸻


聞き慣れた声。


⸻


レイだった。


⸻


缶コーヒー片手。


⸻


スカジャン。


⸻


昼間なのに眠そうな顔。


⸻


「お前どうした」


⸻


「……別に」


⸻


「別にじゃねぇ顔」


⸻


レイが眉をひそめる。


⸻


「なんかあった?」


⸻


「……」


⸻


言えない。


⸻


言えるわけがない。


⸻


“幽霊が消えた”


なんて。


⸻


「なんもねぇ」


⸻


「嘘つけ」


⸻


即答だった。


⸻


「お前今日変」


⸻


「昨日からだけど」


⸻


「今日特に変」


⸻


レイは缶コーヒーを飲む。


⸻


そして。


⸻


少しだけ黙る。


⸻


「……なぁ」


⸻


「ん」


⸻


「変なこと言うぞ」


⸻


「言うな」


⸻


「だからまだ言ってねぇ」


⸻


少し笑う。


⸻


だが。


⸻


レイの顔は真面目だった。


⸻


「今日さ」


⸻


「なんか足りない気する」


⸻


悠の呼吸が止まる。


⸻


「……は?」


⸻


「分からん」


⸻


「でも」


⸻


周囲を見る。


⸻


公園。


⸻


ベンチ。


⸻


自販機。


⸻


ブランコ。


⸻


「なんか一人いない感じ」


⸻


静寂。


⸻


悠は何も言えなかった。


⸻


レイは覚えていない。


⸻


見えてもいない。


⸻


なのに。


⸻


何かだけは感じている。


⸻


⸻


夕方。


⸻


雨が降り始める。


⸻


小雨。


⸻


夏の終わりの雨。


⸻


悠はアパートへ戻った。


⸻


誰もいない部屋。


⸻


静かだった。


⸻


昨日まで。


⸻


ここにいた。


⸻


笑っていた。


⸻


ゲームしていた。


⸻


怒っていた。


⸻


確かに。


⸻


いた。


⸻


「……」


⸻


机を見る。


⸻


写真。


⸻


その横。


⸻


見覚えのないものがあった。


⸻


「……?」


⸻


小さな紙。


⸻


折り畳まれている。


⸻


昨日はなかった。


⸻


確実に。


⸻


なかった。


⸻


ゆっくり開く。


⸻


そこには。


⸻


少し癖のある字。


⸻


青いボールペン。


⸻


『ごめん』


⸻


悠の呼吸が止まる。


⸻


『なんか遠い』


⸻


『今日は行けん』


⸻


『また会えるよね?』


⸻


メアリーの字だった。


⸻


間違いない。


⸻


高校時代。


⸻


ノートの端に書いていた字。


⸻


見覚えがある。


⸻


ありすぎる。


⸻


『悠ちゃん』


⸻


『忘れんでね』


⸻


そこで文章は終わっていた。


⸻


「……」


⸻


雨音だけが聞こえる。


⸻


悠は椅子へ座る。


⸻


何も言えない。


⸻


何も考えられない。


⸻


ただ。


⸻


胸の奥だけが痛かった。


⸻


⸻


その夜。


⸻


午後十一時。


⸻


レイから電話。


⸻


『出ろ』


⸻


「なんだよ」


⸻


『公園』


⸻


「は?」


⸻


『今』


⸻


切れた。


⸻


相変わらずだった。


⸻


⸻


十分後。


⸻


公園。


⸻


雨上がり。


⸻


濡れたブランコ。


⸻


街灯。


⸻


誰もいない。


⸻


レイだけがいた。


⸻


「なんだよ」


⸻


「これ」


⸻


レイが指差す。


⸻


ブランコの下。


⸻


小さなもの。


⸻


悠が拾う。


⸻


鈴だった。


⸻


古い。


⸻


銀色。


⸻


どこかで見た気がする。


⸻


そして。


⸻


レイが小さく言う。


⸻


「なぁ」


⸻


「ん」


⸻


「俺さ」


⸻


「夢見た」


⸻


風が吹く。


⸻


「どんな」


⸻


レイは少し困った顔をした。


⸻


「金髪の女の子」


⸻


悠の心臓が止まる。


⸻


「泣いてた」


⸻


静寂。


⸻


雨の匂い。


⸻


夜の公園。


⸻


そして。


⸻


遠く。


⸻


街灯の向こう。


⸻


ほんの一瞬だけ。


⸻


白いパーカー姿の誰かが立っていた気がした。


⸻


後書き


第24話でした。


ここは第1章終盤の重要回です。


メアリーは初めて

「消えた」。


しかし完全消滅ではありません。


むしろ逆。


何かに引っ張られ始めています。


そしてレイもまた、

夢という形でメアリーへ近づき始めています。


次回、


第25話「思い出したくない」


第1章最大の感情回へ入ります。

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