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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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24/90

写真

前書き


写真って不思議だ。


写した瞬間はただの記録なのに、


何年も経ってから見ると、

そこにいた人間の気持ちまで

閉じ込められている気がする。


笑顔。


景色。


空気。


そして時々、


写ってはいけないものまで。


今回は、

その写真の話だ。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第23話


写真


⸻


午前一時二十分。


⸻


雨。


⸻


東神奈川。


⸻


黒瀬悠の部屋。


⸻


エアコンの音。


⸻


窓を叩く雨。


⸻


机の上には、

例の写真が置かれていた。


⸻


海鳴町。


⸻


夏祭りの日。


⸻


悠。


レイ。


メアリー。


⸻


そして。


⸻


写真の端にいる黒い人影。


⸻


「……」


⸻


悠は写真を見つめていた。


⸻


何度見ても。


⸻


違和感がある。


⸻


昨日。


⸻


確かにもっと遠かった。


⸻


気がする。


⸻


「気のせいやろ?」


⸻


メアリーが言う。


⸻


だが声に自信がない。


⸻


本人も分かっている。


⸻


気のせいじゃないかもしれない。


⸻


「……」


⸻


悠はスマホを取り出した。


⸻


写真を撮る。


⸻


保存。


⸻


拡大。


⸻


人影部分。


⸻


荒い。


⸻


昔の写真だから当然だ。


⸻


顔は分からない。


⸻


でも。


⸻


確かに。


⸻


こちらを見ている。


⸻


気がした。


⸻


「やめて」


⸻


メアリーが小さく言う。


⸻


「ん?」


⸻


「なんか嫌」


⸻


「見られとる」


⸻


その言葉に。


⸻


悠も同意した。


⸻


見ているのに。


⸻


見られている。


⸻


そんな感覚だった。


⸻


その時だった。


⸻


ピロン。


⸻


スマホ。


⸻


通知。


⸻


悠の肩が跳ねる。


⸻


知らない番号。


⸻


まただ。


⸻


『写真を捨てろ』


⸻


短い文章。


⸻


『最後の警告だ』


⸻


悠は舌打ちした。


⸻


「うぜぇな」


⸻


「誰なん」


⸻


「知らねぇ」


⸻


本当に知らない。


⸻


でも。


⸻


段々分かってきている。


⸻


この相手は。


⸻


メアリーを知っている。


⸻


海鳴町を知っている。


⸻


そして。


⸻


あの日を知っている。


⸻


⸻


翌日


⸻


午後三時。


⸻


曇り。


⸻


悠は珍しく休みだった。


⸻


レイから連絡が来る。


⸻


『暇』


⸻


『出ろ』


⸻


『拒否権なし』


⸻


「なんなんだよ」


⸻


「レイちゃんや」


⸻


「分かる」


⸻


十分後。


⸻


駅前。


⸻


レイが待っていた。


⸻


スカジャン。


⸻


缶コーヒー。


⸻


いつもの顔。


⸻


「お前顔やば」


⸻


第一声がそれだった。


⸻


「知ってる」


⸻


「寝てないだろ」


⸻


「まぁ」


⸻


「アホ」


⸻


レイは缶コーヒーを投げる。


⸻


悠が受け取る。


⸻


「サンキュ」


⸻


「で?」


⸻


「何があった」


⸻


悠は少し迷う。


⸻


だが。


⸻


写真を見せた。


⸻


レイは眉をひそめる。


⸻


「なにこれ」


⸻


「高校ん時」


⸻


「懐かし」


⸻


レイが笑う。


⸻


「うわ」


⸻


「メアリーじゃん」


⸻


その名前が出た瞬間。


⸻


悠は少し驚く。


⸻


レイ自身は。


⸻


まだメアリーがいることを知らない。


⸻


だが。


⸻


最近。


⸻


やたら名前を口にするようになった。


⸻


まるで。


⸻


忘れていた記憶が

戻り始めているみたいに。


⸻


「……なぁ」


⸻


レイが写真を見る。


⸻


「ん?」


⸻


「この人誰?」


⸻


悠の心臓が止まる。


⸻


指差した先。


⸻


黒い人影。


⸻


「知らん」


⸻


「……」


⸻


レイの顔が曇る。


⸻


「なんか」


⸻


「嫌な感じする」


⸻


風が吹く。


⸻


駅前の雑踏。


⸻


人の声。


⸻


車の音。


⸻


なのに。


⸻


その瞬間だけ。


⸻


妙に静かだった。


⸻


「会ったことある気がする」


⸻


レイが呟く。


⸻


「え?」


⸻


「分からんけど」


⸻


「知ってる気がする」


⸻


悠の背筋に冷たいものが走る。


⸻


その時だった。


⸻


「――あ」


⸻


メアリー。


⸻


駅前のベンチで固まっていた。


⸻


顔色が真っ青だった。


⸻


「メアリー!」


⸻


悠が駆け寄る。


⸻


「……写真」


⸻


「え?」


⸻


「写真撮った」


⸻


呼吸が乱れている。


⸻


「誰が」


⸻


「分からん」


⸻


「でも」


⸻


頭を押さえる。


⸻


「花火」


⸻


「祭り」


⸻


「海」


⸻


「写真」


⸻


そして。


⸻


「逃げた」


⸻


静寂。


⸻


初めてだった。


⸻


今までで一番。


⸻


具体的な記憶。


⸻


「誰から逃げた」


⸻


悠が聞く。


⸻


だが。


⸻


メアリーは首を振る。


⸻


「……思い出せん」


⸻


涙が浮かんでいる。


⸻


「ごめん」


⸻


「もう少しやのに」


⸻


その瞬間。


⸻


悠は初めて思った。


⸻


メアリーは。


⸻


思い出したいんじゃない。


⸻


本当は。


⸻


思い出したくないんだ。


⸻


でも。


⸻


忘れたままではいられない。


⸻


それが一番辛いんだ。


⸻


夕暮れ。


⸻


駅前の空は暗くなり始めていた。


⸻


そして。


⸻


遠くの歩道橋の上。


⸻


黒いコート姿の誰かが。


⸻


こちらを見ていた。


⸻


ほんの一瞬。


⸻


瞬きをした時には。


⸻


もう消えていた。


⸻


後書き


第23話でした。


今回は


「写真」


がテーマです。


そして大事なのは、


メアリーが初めて


「逃げた」


ことを思い出した点。


まだ犯人も事件も出てきません。


でも、


* 花火

* 写真

* 海

* 逃走


というピースが揃い始めています。


次回、

第24話「消える日」。


第1章後半の大きな転機になります。

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