君に会いたくなったら
前書き
深夜のコンビニで、
「今日はもういいか」と思いながら缶チューハイを買ったことがある人へ。
この物語は、
そんな夜の続きにある話です。
今回は第2話。
まだ事件は始まりません。
まだ犯人もいません。
ただ、
“死んだはずの誰か”が、
隣にいるだけです。
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Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第2話
君に会いたくなったら
目が覚めた時、部屋は昼前の薄い光に包まれていた。
カーテンの隙間から入り込む白い日差しが、散らかった床を照らしている。
コンビニ袋。
脱ぎっぱなしのパーカー。
飲みかけの氷結。
ゲーム機。
狭いワンルームの空気は、酒と湿気の匂いが混ざっていた。
黒瀬 悠は、しばらく天井を見つめていた。
頭が重い。
酒のせいか、寝不足か。
たぶん両方だ。
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「……夢」
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ぼそっと呟く。
昨夜のことを思い出す。
公園。
メアリー。
金髪。
笑い声。
ありえない。
だってメアリーは――
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「おはよ」
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声がした。
悠の身体が跳ねる。
勢いよく起き上がる。
ベッドの横。
そこにメアリーが座っていた。
白いパーカー。
裸足。
少し眠そうな顔。
昔と変わらない。
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「……は?」
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「なにその顔」
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メアリーは笑った。
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「幽霊見たみたい」
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悠の喉が詰まる。
いや、実際そうだった。
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「……なんでいんの」
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「わからん」
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あっさり言う。
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「気づいたらおった」
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「いや意味わかんねぇって……」
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「悠ちゃん大きくなったねぇ」
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メアリーは不思議そうに悠を見る。
悠は黙った。
心臓が落ち着かない。
夢じゃない。
少なくとも、感覚は妙にリアルだった。
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「今日仕事?」
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「……夜勤」
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「行くん?」
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悠はスマホを見る。
時刻は十一時四十分。
出勤まではまだ時間がある。
だが身体が鉛みたいに重かった。
頭も回らない。
それに。
今はそれどころじゃない。
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「……休む」
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「ズル休み?」
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「うるせぇ」
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悠はベッドから降りる。
会社へ電話をかけた。
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「……熱あって」
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『あー……今日人いないんだけど』
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「……すいません」
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『まぁいいけど』
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切れる。
罪悪感は少なかった。
最近ずっとこんな感じだ。
限界まで働いて、
限界まで疲れて、
なんとなく生きてる。
それだけ。
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「ズル休みや」
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「黙れ」
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メアリーは楽しそうに笑った。
その笑い方が昔のままで、悠は逆に困った。
死んだ人間の笑い方じゃない。
本当に。
普通だった。
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「腹減った」
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「……は?」
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「なんか食べたい」
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「いや知らねぇよ」
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「コンビニ行こ」
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悠は顔を覆った。
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「……なんなんだよマジで」
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外は蒸し暑かった。
東神奈川の昼。
高架下を電車が走り抜けていく。
昼間の街は、夜とは違う顔をしていた。
主婦。
営業マン。
工事音。
洗濯物。
夜勤帰りの悠には、昼の街は少し眩しすぎた。
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「あっつ……」
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メアリーが顔をしかめる。
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「神奈川こんな暑かったっけ」
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「知らね」
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「富山もっと涼しかったやん」
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悠は少しだけ目を細めた。
富山。
海鳴町。
夏の海。
防波堤。
蝉の声。
自然と思い出してしまう。
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「……なんか久しぶりな気する」
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メアリーがぽつりと言った。
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「なにが」
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「悠ちゃんとおるの」
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悠は返事をしなかった。
できなかった。
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コンビニに入る。
自動ドアが開く。
だがその瞬間。
悠は少しだけ違和感を覚えた。
メアリーが入る時、
センサーが反応していない。
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「……」
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悠は何も言わなかった。
気のせいだと思いたかった。
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「おー」
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メアリーは店内を見回している。
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「広くなっとる」
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「普通だろ」
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「えー絶対前より広いちゃ」
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悠は氷結を手に取る。
いつもの癖だった。
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「また飲むん?」
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「……別に」
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「身体壊すぞー」
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「誰目線だよ」
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レジへ向かう。
店員の西島ミナが欠伸をしながら顔を上げた。
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「うわ、また氷結?」
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「……うるせ」
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「絶対身体終わるって」
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悠は会計を済ませる。
メアリーは横でお菓子を見ていた。
だが。
ミナはメアリーを見ていない。
一度も。
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「……行くぞ」
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「えー待って」
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「いいから」
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店を出る。
悠は歩きながら、背中に嫌な汗を感じていた。
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「ねぇ」
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メアリーが隣を歩く。
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「なんであの人、私のこと見んかったが?」
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悠の足が止まる。
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「……」
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「ねぇ悠ちゃん」
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「……知らねぇよ」
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少し強く言ってしまった。
メアリーは黙る。
風が吹く。
遠くで電車の音がした。
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「……怒った?」
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「怒ってねぇ」
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「そっか」
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少しだけ寂しそうに笑う。
その顔が、
悠には苦しかった。
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夕方。
レイから着信が来た。
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『お前今日仕事じゃねーの?』
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「休んだ」
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『は?珍し』
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バイク音が向こうで鳴っている。
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『つーか生きてる?』
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「……まぁ」
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『今からそっち行くわ』
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「来んな」
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『コンビニ寄るからなんかいる?』
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「……氷結」
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『またかよダル』
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通話が切れる。
悠はスマホを見下ろした。
その横で。
メアリーが小さく笑う。
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「レイちゃん変わってないね」
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悠は黙った。
変わってない。
変わってしまったのは、
たぶん自分だけだった。
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夜。
ベランダ。
街の光。
遠くの工場夜景。
メアリーは空を見上げていた。
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「……今日って何日?」
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「八月十三」
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「……そっか」
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メアリーは少し考え込む。
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「お盆や」
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「……あぁ」
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「だから会いに来れたんかな」
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悠の呼吸が止まる。
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「……何言ってんだ」
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メアリーは首を傾げた。
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「わからん」
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「でも」
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「なんか、悠ちゃんに会いたくなった」
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その言葉が、
妙に胸に刺さった。
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後書き
第2話でした。
今回は、
“死んだ少女と普通の時間を過ごしてしまう”
ことを意識しています。
まだホラーではありません。
むしろ、
少し懐かしくて、
少し変な夏休みの延長みたいな空気です。
ただ、
少しずつ違和感は始まっています。
次回から、
レイや街の人間たちも本格的に動き始めます。
ではまた次回。




