海鳴町
前書き
思い出って不思議だ。
楽しかったことほど、
細かい部分は忘れていく。
でも。
本当に怖かったことは、
忘れたつもりでも消えてくれない。
匂い。
音。
景色。
心のどこかで、
ずっと残り続ける。
今回は、
少しだけ昔へ戻る話です。
⸻
Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第21話
海鳴町
⸻
夜。
⸻
雨。
⸻
窓ガラスを叩く音。
⸻
悠は机の前に座っていた。
⸻
写真。
⸻
海。
防波堤。
メアリー。
レイ。
高校時代。
⸻
そして。
⸻
写真の端。
⸻
黒い人影。
⸻
「……」
⸻
部屋は静かだった。
⸻
レイは帰った。
⸻
メアリーも珍しく黙っている。
⸻
写真を見てからずっとだ。
⸻
「……思い出せそうか?」
⸻
悠が聞く。
⸻
メアリーは写真を見つめる。
⸻
「ちょっとだけ」
⸻
小さく答える。
⸻
「でも」
⸻
「飛び飛びなん」
⸻
「夢みたい」
⸻
窓の外で雷が光った。
⸻
その瞬間。
⸻
海の匂いがした。
⸻
気がした。
⸻
「……海鳴町」
⸻
メアリーが呟く。
⸻
「夏やった」
⸻
「うん」
⸻
「高校二年」
⸻
「たぶん」
⸻
悠も覚えている。
⸻
あの頃。
⸻
毎日のように集まっていた。
⸻
海沿い。
⸻
ゲームセンター。
⸻
防波堤。
⸻
コンビニ。
⸻
どこにでもいる高校生だった。
⸻
未来があると思っていた。
⸻
⸻
富山県
海鳴町
十二年前
⸻
夕方。
⸻
海風。
⸻
防波堤。
⸻
高校生の悠が座っている。
⸻
まだ痩せていた。
⸻
髪も少し長い。
⸻
「おーい!!」
⸻
聞き慣れた声。
⸻
振り返る。
⸻
メアリーだった。
⸻
制服。
⸻
金髪。
⸻
リュック。
⸻
全力疾走。
⸻
「遅い!!」
⸻
「お前が早すぎるんだろ」
⸻
「違うもん」
⸻
「悠ちゃんが遅い」
⸻
「理不尽だな」
⸻
笑う。
⸻
その後ろ。
⸻
「暑っ……」
⸻
レイが歩いてくる。
⸻
まだバイク免許もない。
⸻
普通の女子高生。
⸻
「アイス買って」
⸻
「なんで」
⸻
「暑い」
⸻
「自分で買え」
⸻
「ケチ」
⸻
そんな会話。
⸻
今思えば。
⸻
何でもない時間だった。
⸻
でも。
⸻
その何でもない時間が。
⸻
一番大事だった。
⸻
⸻
現在
⸻
メアリーが静かに笑った。
⸻
「レイちゃん昔から変わっとらん」
⸻
「確かにな」
⸻
「アイスばっか食べとった」
⸻
「今もだろ」
⸻
二人が少し笑う。
⸻
だが。
⸻
次の瞬間。
⸻
メアリーの笑顔が止まる。
⸻
「……あれ」
⸻
「ん?」
⸻
「誰か」
⸻
悠の身体が強張る。
⸻
「誰」
⸻
メアリーは写真を見る。
⸻
防波堤。
⸻
海。
⸻
三人。
⸻
そして。
⸻
奥。
⸻
黒い影。
⸻
「この人」
⸻
「見たことある」
⸻
部屋の空気が変わる。
⸻
悠はゆっくり立ち上がる。
⸻
「誰なんだ」
⸻
「分からん」
⸻
「でも」
⸻
メアリーの顔が青くなる。
⸻
「嫌な感じする」
⸻
「すごく」
⸻
「嫌」
⸻
その時。
⸻
ピロン。
⸻
スマホ。
⸻
通知。
⸻
悠の呼吸が止まる。
⸻
知らない番号。
⸻
まただ。
⸻
新しいメッセージ。
⸻
『海へ行くな』
⸻
静寂。
⸻
雨音。
⸻
エアコンの音。
⸻
誰も喋らない。
⸻
『思い出したら終わる』
⸻
悠は画面を見つめる。
⸻
「……ふざけんな」
⸻
小さく呟く。
⸻
だが。
⸻
怒りよりも。
⸻
恐怖よりも。
⸻
別の感情が湧いていた。
⸻
知りたい。
⸻
という感情だった。
⸻
メアリーはなぜ死んだのか。
⸻
なぜ戻ってきたのか。
⸻
誰がメッセージを送っているのか。
⸻
そして。
⸻
写真の端にいる人間は誰なのか。
⸻
「……悠ちゃん」
⸻
メアリーが小さく言う。
⸻
「ん」
⸻
「私」
⸻
少しだけ笑う。
⸻
でも。
⸻
どこか寂しそうだった。
⸻
「思い出したい」
⸻
風が吹く。
⸻
窓が少し揺れる。
⸻
「怖いけど」
⸻
「知りたい」
⸻
悠は何も言わなかった。
⸻
ただ。
⸻
写真を見つめる。
⸻
海鳴町。
⸻
あの夏。
⸻
全部は。
⸻
まだ終わっていなかった。
⸻
後書き
第21話でした。
ここからは
「青春回想編」
が少しずつ始まります。
今はまだホラーですが、
同時に
* 高校時代
* 海鳴町
* 三人の関係
* 夏の思い出
も掘り下げていきます。
そして今回のポイントは、
「海へ行くな」
という新しいメッセージ。
誰が送っているのか。
守ろうとしているのか。
それとも隠そうとしているのか。
まだ分かりません。
次回、
第22話「夏祭り」。
海鳴町の思い出が、
もう少しだけ鮮明になります。




