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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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21/90

見え始める

前書き


怖いものには、

二種類ある。


見える怖さと。


見えない怖さ。


そして大抵の場合、

本当に厄介なのは後者だ。


今回は、

少しだけその境界線が曖昧になる。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第20話


見え始める


⸻


翌日。


午後六時四十分。


⸻


横浜駅西口。


⸻


雨は止んでいた。


だが空は重い。


灰色。


湿気。


夕焼けも見えない。


⸻


黒瀬 悠は、

駅前の人混みから少し外れた場所に立っていた。


⸻


「……」


⸻


眠い。


⸻


三時間しか寝ていない。


⸻


写真。


⸻


知らない番号。


⸻


窓の外の影。


⸻


全部が頭から離れなかった。


⸻


「おーい」


⸻


聞き慣れた声。


⸻


レイだった。


⸻


黒スカジャン。


黒Tシャツ。


ジーンズ。


いつもの格好。


⸻


「お前顔やば」


⸻


「知ってる」


⸻


「ゾンビじゃん」


⸻


「元からだろ」


⸻


「いや今日は上位ゾンビ」


⸻


レイが笑う。


⸻


だが。


今日は少し違った。


⸻


どこか落ち着かない。


⸻


妙に周囲を見ている。


⸻


「……どうした」


⸻


「ん?」


⸻


「いや」


⸻


レイは少し言いにくそうに頭を掻いた。


⸻


「変なこと言うけど」


⸻


「言うな」


⸻


「まだ何も言ってねーだろ」


⸻


悠は少し笑う。


⸻


久しぶりに自然な笑いだった。


⸻


「昨日さ」


⸻


レイが真面目な顔になる。


⸻


「帰り道」


⸻


「なんか見た」


⸻


悠の呼吸が止まる。


⸻


「……何を」


⸻


「分かんね」


⸻


「でもさ」


⸻


「誰か立ってた」


⸻


風が吹く。


⸻


駅前の雑踏。


⸻


人はたくさんいる。


⸻


なのに。


⸻


妙に静かだった。


⸻


「どこ」


⸻


「アパート近く」


⸻


「お前ん家の前」


⸻


悠の背筋が冷える。


⸻


「……」


⸻


「気のせいだと思ったんだけど」


⸻


レイは視線を落とす。


⸻


「今日も見た」


⸻


「は?」


⸻


「さっき」


⸻


「駅の向こう」


⸻


悠は思わず振り返る。


⸻


横断歩道。


⸻


雑居ビル。


⸻


人混み。


⸻


誰もいない。


⸻


「……どんな奴」


⸻


「黒い服」


⸻


「背高い」


⸻


「顔分からん」


⸻


完全に一致していた。


⸻


昨日。


窓の外。


⸻


写真の端。


⸻


同じ。


⸻


「……なぁ」


⸻


レイが小さく言う。


⸻


「なんか知ってる?」


⸻


「……」


⸻


言えるわけがない。


⸻


幽霊が見える。


⸻


死んだ女の子がいる。


⸻


意味不明すぎる。


⸻


「知らね」


⸻


「嘘だろ」


⸻


「知らねぇ」


⸻


レイはしばらく黙る。


⸻


その時。


⸻


「レイちゃん」


⸻


メアリーが呟いた。


⸻


「え?」


⸻


悠が振り返る。


⸻


メアリーが固まっていた。


⸻


「どうした」


⸻


「今」


⸻


「今こっち見た」


⸻


空気が凍る。


⸻


「誰が」


⸻


「……分からん」


⸻


「でも」


⸻


「私のこと見とった」


⸻


悠の喉が鳴る。


⸻


メアリーは震えていた。


⸻


昨日までの恐怖とは違う。


⸻


もっと直接的な。


⸻


獲物が見つかった時みたいな恐怖。


⸻


「……帰るぞ」


⸻


悠が言う。


⸻


「おう」


⸻


レイも珍しく反対しなかった。


⸻


三人は駅前を離れる。


⸻


夕暮れ。


⸻


商店街。


⸻


スーパー。


⸻


パン屋。


⸻


昔ながらの町並み。


⸻


本来なら安心する景色。


⸻


でも今日は違った。


⸻


どこへ行っても。


⸻


誰かに見られている気がする。


⸻


その時だった。


⸻


「あれ?」


⸻


レイが立ち止まる。


⸻


「ん?」


⸻


「今さ」


⸻


「金髪の子いなかった?」


⸻


悠の心臓が止まる。


⸻


「……は?」


⸻


レイは後ろを見る。


⸻


「一瞬だけ」


⸻


「女の子」


⸻


「お前の横」


⸻


メアリーも固まる。


⸻


「……見えた?」


⸻


小さな声。


⸻


レイには聞こえない。


⸻


だが。


⸻


レイは真顔だった。


⸻


「いや」


⸻


「見えたっていうか」


⸻


「なんか居た気がした」


⸻


悠は何も言えなかった。


⸻


メアリーが。


⸻


少しずつ。


⸻


こちら側へ近づいている。


⸻


その代わり。


⸻


何かもまた。


⸻


近づいている。


⸻


夜。


⸻


アパート。


⸻


帰宅した悠は写真を机に置く。


⸻


例の写真。


⸻


高校時代。


⸻


海。


⸻


三人。


⸻


そして。


⸻


写真の端。


⸻


黒い人影。


⸻


その時だった。


⸻


メアリーが小さく呟く。


⸻


「……あ」


⸻


「ん?」


⸻


メアリーの顔色が変わる。


⸻


「この場所」


⸻


「知っとる」


⸻


悠が立ち上がる。


⸻


「どこだ」


⸻


メアリーは写真を指差す。


⸻


防波堤。


⸻


海鳴町の海。


⸻


そして。


⸻


写真の奥。


⸻


立入禁止になっている古い倉庫群。


⸻


「ここ……」


⸻


「私……」


⸻


そこで言葉が止まる。


⸻


頭を押さえる。


⸻


呼吸が乱れる。


⸻


「メアリー!」


⸻


「ごめん……」


⸻


「思い出せん……」


⸻


「でも」


⸻


「ここ」


⸻


「すごく嫌」


⸻


窓の外で雷が鳴った。


⸻


第1章の終わりが。


⸻


少しずつ近づいていた。


⸻


後書き


第20話でした。


今回は


「レイが異変を感じ始める」


回です。


まだ完全には見えていません。


でも、


* 声

* 気配

* 人影


を認識し始めています。


そしてメアリーは初めて、


海鳴町の倉庫群


を思い出しました。


第21話からは、


いよいよ富山の回想が増え始めます。


青春の記憶と、

隠された恐怖。


その両方が少しずつ繋がっていきます。

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