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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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20/90

窓の向こう

前書き


人は、


怖いものを見た時より、


「見なかったことにしよう」とした時のほうが

後から苦しむ。


あの時、

確かに見た。


確かに聞いた。


でも認めたくなかった。


今回は、

そんな夜の続きです。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第19話


窓の向こう


⸻


午前二時三十七分。


雨はまだ降っていた。


弱く。


静かに。


アパートの窓を叩いている。


⸻


「……」


⸻


部屋の中は静まり返っていた。


さっきまで確かに聞こえていた。


窓を叩く音。


冷蔵庫の開く音。


何かがいる気配。


⸻


だが今は。


何もない。


⸻


「……」


⸻


悠はキッチンを見る。


誰もいない。


冷蔵庫も閉まっている。


⸻


「……なんだったんだ」


⸻


喉が渇く。


妙に身体が冷えている。


⸻


「……帰った?」


⸻


メアリーが小さく呟く。


⸻


「知らねぇ」


⸻


だが。


悠にも分かっていた。


帰ったのではない。


見えなくなっただけだ。


⸻


それが一番嫌だった。


⸻


「……寝るか」


⸻


「寝れる?」


⸻


「無理」


⸻


「やよね」


⸻


メアリーも苦笑した。


⸻


時計を見る。


午前三時。


⸻


「最悪や」


⸻


「仕事?」


⸻


「夜から」


⸻


「寝た方がいいやん」


⸻


「寝れねぇ」


⸻


「それもそうやね」


⸻


メアリーが少し笑う。


⸻


その時だった。


⸻


「あれ?」


⸻


メアリーがキッチンを見た。


⸻


「ん?」


⸻


「なんかある」


⸻


悠も振り返る。


⸻


冷蔵庫の上。


⸻


一枚の写真。


⸻


「……は?」


⸻


そこには確かに何もなかった。


さっきまで。


⸻


悠はゆっくり近づく。


⸻


古い写真だった。


⸻


色褪せている。


⸻


海。


防波堤。


夏。


⸻


そして。


⸻


「……」


⸻


悠の呼吸が止まる。


⸻


高校時代。


⸻


悠。


レイ。


メアリー。


⸻


三人が写っていた。


⸻


「うわぁ……」


⸻


メアリーが写真を覗き込む。


⸻


「若い」


⸻


「今も変わらんだろ」


⸻


「いや全然違う」


⸻


「悠ちゃんもっと細い」


⸻


「うるせ」


⸻


少しだけ笑う。


⸻


だが。


次の瞬間。


⸻


メアリーの笑顔が消えた。


⸻


「……あれ」


⸻


「ん?」


⸻


写真の端。


⸻


防波堤の向こう。


⸻


遠くに。


⸻


誰か立っていた。


⸻


「……誰?」


⸻


悠が目を細める。


⸻


男か。


女か。


分からない。


⸻


後ろ姿。


⸻


黒い服。


⸻


顔は見えない。


⸻


「こんな奴おったっけ?」


⸻


「知らん……」


⸻


メアリーも首を傾げる。


⸻


「記憶にない」


⸻


写真を裏返す。


⸻


そこには。


⸻


英語。


⸻


青いペンで書かれた文字。


⸻


See you again.


⸻


「また会おう」


⸻


メアリーが読む。


⸻


部屋の空気が静かになる。


⸻


「……誰が書いたんやろ」


⸻


「分からん」


⸻


だが。


悠の胸はざわついていた。


⸻


この写真。


⸻


どこかおかしい。


⸻


そもそも。


⸻


なんで今ここにある。


⸻


誰が置いた。


⸻


どうやって。


⸻


「……」


⸻


窓の外を見る。


⸻


雨。


⸻


街灯。


⸻


誰もいない。


⸻


なのに。


⸻


見られている気がした。


⸻


その時だった。


⸻


ピロン。


⸻


スマホが鳴る。


⸻


悠の肩が跳ねる。


⸻


画面。


⸻


知らない番号。


⸻


新しいメッセージ。


⸻


『写真を見るな』


⸻


「……っ」


⸻


メアリーも固まる。


⸻


『思い出したら終わる』


⸻


雨音だけが聞こえる。


⸻


悠はゆっくり顔を上げる。


⸻


窓の外。


⸻


向かいのアパート。


⸻


二階の通路。


⸻


一瞬だけ。


⸻


誰かが立っていた気がした。


⸻


黒い影。


⸻


長いコート。


⸻


そして。


⸻


消えた。


⸻


「……見た?」


⸻


悠が呟く。


⸻


メアリーは青い顔で頷いた。


⸻


「うん」


⸻


「今」


⸻


「おった」


⸻


部屋の温度がまた少し下がった気がした。


⸻


後書き


第19話でした。


今回は

「怪異が日常へ入り込む」

回です。


まだ犯人ではありません。


まだ事件でもありません。


ただ、


* 写真

* メッセージ

* 窓の外の影


という形で、


何かがこちらを見始めています。


そして写真の端にいた人物。


これは後々かなり重要になります。


次回

第20話「見え始める」


では、

ついにレイ側にも少しだけ異変が起き始めます。

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