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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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19/90

ノック

前書き


怖い話って、

「化け物が出ること」じゃない。


本当に怖いのは、


“日常の中に、

少しだけ異物が混ざること”


だ。


いつもの部屋。

いつもの夜。

いつものコンビニ。


なのに、

どこかがおかしい。


今回は、

その夜です。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第18話


ノック


 午前二時十三分。


 東神奈川。


 黒瀬 悠のアパート。


 外ではまだ、

 弱い雨が降っていた。


 窓ガラスを叩く雨音。


 古いエアコンの低い駆動音。


 湿った空気。


 部屋の照明だけが、

 ぼんやり白かった。


⸻


「……」


⸻


 悠はスマホを見つめていた。


⸻


『まだ見えてるのか』


⸻


 知らない男の声。


 ノイズ。


 そして。


⸻


『思い出す前に逃げろ』


⸻


 頭から離れない。


⸻


「……なんなんだよ」


⸻


 小さく呟く。


⸻


 メアリーはベッドの端に座っていた。


 珍しく静かだった。


 いつもみたいに、

 ゲームも触らない。


 笑わない。


⸻


「……大丈夫か」


⸻


「……うん」


⸻


 返事が遅い。


⸻


「ほんとに?」


⸻


 メアリーは少しだけ笑おうとした。


⸻


「悠ちゃん最近優しいね」


⸻


「今それ関係ある?」


⸻


「ある」


⸻


 でも。


 その笑顔は、

 どこか無理していた。


⸻


「……ねぇ」


⸻


「ん」


⸻


「私さ」


⸻


 メアリーは窓の外を見る。


⸻


「なんか最近」


⸻


「“近づいてくる”感じする」


⸻


 悠の背筋が冷える。


⸻


「なにが」


⸻


「……分からん」


⸻


「でも」


⸻


「すごく嫌」


⸻


 その時だった。


⸻


 コン。


⸻


 二人の動きが止まる。


⸻


 玄関。


 小さなノック音。


⸻


「……」


⸻


 時計を見る。


 午前二時十四分。


⸻


「誰だよこんな時間」


⸻


 悠は立ち上がる。


⸻


「待って」


⸻


 メアリーが小さく言う。


⸻


「……なんか嫌」


⸻


 悠は少しだけ迷う。


 だが。


 もう一度。


⸻


 コン。


 コン。


⸻


 静かなノック。


 強くない。


 でも妙に不気味だった。


⸻


「……はい」


⸻


 玄関へ近づく。


 覗き穴を見る。


⸻


 誰もいない。


⸻


「……は?」


⸻


 悠の喉が鳴る。


⸻


 外廊下。


 古い蛍光灯。


 雨。


 誰も立っていない。


⸻


「いたずら……?」


⸻


 その瞬間。


⸻


 コン。


⸻


 今度は、

 すぐ後ろから聞こえた。


⸻


「――っ!!」


⸻


 悠が振り返る。


 部屋の窓。


 カーテンの向こう。


 誰かが、

 窓を叩いた。


⸻


「……なに……」


⸻


 メアリーの顔が青ざめる。


⸻


 コン。


 コン。


⸻


 静かな音。


 窓の外は二階だ。


 人なんて立てるわけがない。


⸻


「おい……」


⸻


 悠の呼吸が浅くなる。


 ゆっくり近づく。


 カーテンへ手を伸ばす。


⸻


「やめて!!」


⸻


 メアリーが叫ぶ。


 今までで一番大きな声だった。


⸻


「開けたらダメ!!」


⸻


 悠の動きが止まる。


 次の瞬間。


⸻


 バンッ!!


⸻


 窓が大きく揺れた。


⸻


「っ!!」


⸻


 メアリーが耳を塞る。


 悠も思わず後ずさる。


⸻


 バン!!


 バン!!


⸻


 誰かが。


 外から。


 窓を叩いている。


⸻


「……誰だよ!!」


⸻


 叫ぶ。


 返事はない。


 ただ。


 窓を叩く音だけが続く。


⸻


 バン!!


⸻


「いや……」


⸻


 メアリーが震えている。


⸻


「なんで……」


⸻


「なんで来るん……」


⸻


 悠はメアリーを見る。


 その顔は、

 本気で怯えていた。


 演技じゃない。


 本能的な恐怖。


⸻


「メアリー」


⸻


「……あの音」


⸻


「え?」


⸻


「知っとる……」


⸻


 悠の背筋が凍る。


⸻


「なに」


⸻


「分からん……」


⸻


「でも」


⸻


「怖かった」


⸻


 その時だった。


⸻


 ピタッ。


⸻


 音が止む。


 静寂。


 雨音だけ。


⸻


「……終わった?」


⸻


 悠が小さく呟く。


⸻


 その瞬間。


⸻


 ガタッ。


⸻


 部屋の奥。


 キッチン側で音がした。


⸻


「――っ!!」


⸻


 悠が振り向く。


 誰もいない。


 でも。


 冷蔵庫の扉が、

 少しだけ開いていた。


⸻


「……おい」


⸻


 メアリーが、

 震える声で呟く。


⸻


「……悠ちゃん」


⸻


「なんか」


⸻


「おる」


⸻


 部屋の空気が変わる。


 冷たい。


 異常なくらい冷たい。


⸻


 そして。


 キッチン奥の暗闇で。


 何かが、

 ゆっくり動いた気がした。


⸻


後書き


第18話でした。


ここから、

本格的に“ホラー”へ入っていきます。


ただこの作品は、

ジャンプスケア系ではなく:


* 空気

* 音

* 違和感

* 記憶

* 日常侵食型


のホラーです。


つまり:


“普通だった場所が、

少しずつ怖くなる”


タイプ。


そして今回、

メアリーは初めて:


「知っている恐怖」


へ反応しました。


つまり、

記憶の奥にある“あの日”が、

確実に近づいています。

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