知らない番号
前書き
怖い話って、
“幽霊が出ること”じゃない。
本当に怖いのは、
「理由が分からなかった違和感」に、
少しずつ意味が生まれていく瞬間だ。
今回は、
その始まりです。
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Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第17話
知らない番号
川沿いの夜道。
湿った風。
遠くの工場灯。
黒瀬 悠は、
スマホ画面を見つめたまま立ち止まっていた。
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『逃げて』
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短いメッセージ。
送信元不明。
知らない番号。
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「……なんだこれ」
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「悠ちゃん?」
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メアリーが不安そうに覗き込む。
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「誰から?」
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「……分からん」
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レイも眉を寄せる。
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「迷惑メール?」
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「こんな短文?」
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「ストーカーとか?」
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「やめろ怖ぇだろ」
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レイは笑おうとした。
でも笑いきれていない。
空気が妙に重かった。
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「……いたずらじゃね」
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悠はそう言いながら、
スマホをポケットへしまう。
だが。
背中に嫌な汗が残っていた。
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「……帰る」
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「おう」
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レイは少しだけ悠を見る。
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「なんかあったら連絡しろよ」
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「別にガチで心配してるとかじゃねーけど」
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「はいはい」
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「その返事うぜぇ」
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レイは苦笑した。
でも。
去り際、
少しだけ振り返る。
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「……悠」
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「ん?」
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「マジで無理すんな」
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それだけ言って、
レイはバイクへ跨がった。
エンジン音。
赤いテールランプ。
夜へ消えていく。
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残ったのは、
悠とメアリーだけだった。
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「……ねぇ」
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メアリーが小さく言う。
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「そのメッセージ」
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「なんか嫌」
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悠は少し黙る。
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「……気にしすぎ」
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「でも」
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「なんか怖い」
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メアリーは胸元を押さえていた。
最近ずっとそうだ。
“何か”へ近づくたび、
メアリーの中で恐怖が強くなる。
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アパートへ戻る。
古い二階建て。
外廊下。
湿ったコンクリート。
悠は鍵を開けながら小さく息を吐いた。
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「……疲れた」
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「今日はいっぱい動いたもんねぇ」
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部屋へ入る。
薄暗いワンルーム。
コンビニ袋。
脱ぎっぱなしの服。
ゲーム画面の待機音。
いつもの景色。
なのに今日は、
妙に静かだった。
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「……風呂入る」
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「いってらっしゃい」
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悠はスマホを机へ置き、
浴室へ入る。
シャワー音。
狭い浴室。
熱い湯。
目を閉じる。
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『逃げて』
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頭から離れない。
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「……なんなんだよ」
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その時だった。
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ピロン。
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部屋のほうで通知音。
悠の動きが止まる。
数秒。
シャワー音だけが響く。
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「……」
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嫌な予感がした。
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急いで部屋へ戻る。
濡れた髪。
Tシャツだけ着る。
机の上。
スマホ画面。
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『思い出すな』
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悠の呼吸が止まった。
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「……は?」
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「悠ちゃん?」
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メアリーが近づいてくる。
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「なに?」
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悠は画面を見せる。
メアリーの顔色が変わった。
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「……やだ」
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「え?」
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「なんかこれ」
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「すごい嫌」
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メアリーは小さく後ずさる。
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「誰なんだよ……」
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悠は番号へ電話をかける。
コール音。
一回。
二回。
三回。
そして。
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『――もしもし』
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男の声。
低い。
ノイズ混じり。
年齢不明。
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「誰だ」
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沈黙。
数秒。
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『……まだ見えてるのか』
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悠の背筋が凍る。
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「は?」
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『思い出す前に逃げろ』
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ブツッ。
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通話終了。
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「おい!!」
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掛け直す。
だが。
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『現在この番号は――』
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機械音声。
使われていない番号だった。
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「……なんなんだよ」
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部屋の空気が重い。
外では遠くで雷が鳴っていた。
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「……悠ちゃん」
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メアリーの声が震えている。
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「ん」
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「私」
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「なんか」
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ゆっくり顔を上げる。
その目が、
今までで一番不安そうだった。
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「……思い出したくない」
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悠は何も言えなかった。
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「でも」
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「思い出さなきゃダメな気もする」
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風が吹く。
カーテンが揺れる。
その瞬間。
部屋の電気が一瞬だけ明滅した。
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「――っ」
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メアリーが肩を震わせる。
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「大丈夫」
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悠は反射的にそう言っていた。
メアリーは小さく頷く。
でも。
その身体はまだ震えていた。
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悠は窓の外を見る。
夜。
雨雲。
赤い航空灯。
どこかで、
何かが動き始めている。
そんな気がした。
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後書き
第17話でした。
今回は、
“理由のある恐怖”
へ変わり始める回です。
今までは:
* 違和感
* 記憶
* 夜
* 雨
だけでした。
でも今回初めて、
“外側からの意志”
が介入しています。
つまり:
誰かが、
メアリーの存在を知っている。
ここから、
第1章終盤へ向けて、
少しずつサスペンス色が強くなっていきます。




