夜のブランコ
前書き
楽しい時間って、
終わる時ほど、
妙に綺麗に見える。
夜の公園。
コンビニ。
笑い声。
ずっと続くと思っていたものほど、
あとから消えていく。
今回は、
そんな“少しだけ不安な夏”の話です。
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Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第15話
夜のブランコ
午後十一時四十分。
白楽。
六角橋の商店街から少し離れた、
住宅街の小さな公園。
雲の切れ間から、
少しだけ月が見えていた。
昼間の雨が嘘みたいに、
夜風は静かだった。
古いブランコ。
濡れたアスファルト。
街灯の白い光。
黒瀬 悠は、
自販機の缶コーヒーを片手に
ぼんやり空を見上げていた。
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「……涼しくなったねぇ」
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メアリーが小さく呟く。
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「まぁ八月終わるし」
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「夏終わるの早いちゃ」
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「毎年言ってんな」
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メアリーはブランコへ座った。
ゆらゆら揺れる。
鎖の軋む音。
でも今日は、
少しだけ表情が硬かった。
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「……また怖い?」
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悠が聞く。
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「うん」
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メアリーは正直に頷いた。
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「最近ね」
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「時々、急に胸苦しくなる」
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「なんか」
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「忘れたらダメなことある気がして」
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悠は黙る。
その言葉を、
軽く流せなくなっていた。
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「……思い出したいん?」
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メアリーは少し考える。
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「分からん」
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「でも」
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「悠ちゃんとおる時は安心する」
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その言葉が、
妙に胸へ残った。
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その時だった。
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「うわ、またお前ら」
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レイがコンビニ袋を持って現れる。
今日は髪を後ろで適当にまとめていた。
黒のオーバーサイズパーカー。
スカジャンは腰巻き。
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「公園住みすぎだろ」
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「お前もだろ」
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「私は今帰り」
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「どっから」
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「ゲーセン」
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「高校生かよ」
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「楽しかったぞ?」
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レイは笑いながらベンチへ座る。
コンビニ袋からアイスを取り出した。
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「ほら」
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「……なにこれ」
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「ガリガリ君」
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「子供か」
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「夏はこれだろ」
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レイは自分のアイスを開けながら空を見上げた。
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「なんかさ」
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「最近ちょっと平和だよな」
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悠の動きが少し止まる。
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「……そうか?」
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「うん」
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「前のお前マジで終わってたし」
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「会うたび死にそうだった」
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レイは笑っていない。
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「正直さ」
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「ちょっと怖かった」
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悠は何も言わない。
レイはたぶん、
本気でそう思っていた。
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「……ごめん」
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小さく呟く。
レイは目を丸くした。
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「うわ」
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「珍し」
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「なんだよ」
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「お前謝れるんだ」
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「うるせ」
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レイが吹き出す。
メアリーも笑った。
三人分の笑い声が、
夜の公園へ広がる。
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「……やっぱいいねぇ」
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メアリーがぽつりと言う。
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「ん?」
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「この感じ」
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「なんか」
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「帰ってきたみたい」
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悠は少しだけ目を細めた。
帰ってきた。
その言葉が妙に切なかった。
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その時だった。
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キィ……
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ブランコが揺れる。
風もないのに。
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「……?」
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レイが顔を上げる。
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「今動いた?」
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悠の呼吸が止まる。
メアリーも固まっていた。
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「……え」
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レイはブランコを見る。
空っぽのブランコ。
ゆらゆら揺れている。
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「……なんか今日マジ変」
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レイが小さく呟く。
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「気のせいだろ」
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「いやでもさっき声も聞こえたし」
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空気が静かになる。
メアリーは、
ブランコを見つめていた。
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「……私」
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小さな声。
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「もしかして」
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悠が振り向く。
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「メアリー?」
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「……ちょっとだけ」
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「ここにおれるようになっとる?」
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その瞬間だった。
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遠くで雷が鳴る。
夜空。
湿った風。
そして。
メアリーの顔から、
ふっと笑みが消えた。
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「――っ」
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「メアリー!?」
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頭を押さえる。
呼吸が乱れる。
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「暗い……」
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「雨……」
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「逃げ――」
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言葉が途切れる。
次の瞬間。
メアリーは、
怯えた目で周囲を見回した。
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「誰か……おる」
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悠の背筋が凍る。
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「誰」
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「分からん……」
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「でも」
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「すごく怖い」
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街灯が揺れる。
遠くで再び雷が鳴った。
レイは当然、
何も見えていない。
だが。
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「……なぁ悠」
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「ん」
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「なんか今日マジ寒くね?」
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レイが腕をさする。
八月の終わりとは思えないくらい、
夜風が冷たかった。
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悠はメアリーを見る。
怯えている。
本当に。
何かを思い出しかけていた。
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後書き
第15話でした。
今回は、
“こちら側へ近づくメアリー”
と、
“近づくほど蘇る恐怖”
を描いています。
まだ真相は見えません。
でも:
* 雨
* 夜
* 金属音
* ブランコ
* 誰かの気配
が少しずつ繋がり始めています。
そしてレイも、
完全ではないですが、
“何か”を感じ始めています。
第1章も、
少しずつ終盤へ近づいています。




