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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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午前零時のファミレス

前書き


人は、

誰かと一緒にいるだけで、

少しだけ救われたりする。


特別な言葉じゃなくていい。


隣にいるとか。

笑うとか。

くだらない話をするとか。


今回は、

そんな夜です。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第13話


午前零時のファミレス


 午後十一時五十分。


 雨はまだ降り続いていた。


 高架下を出た三人は、

 なんとなく駅前のファミレスへ入っていた。


 深夜営業。


 半分眠ってる店員。


 大学生グループ。


 仕事帰りのサラリーマン。


 静かなようで、

 どこか騒がしい空間だった。


⸻


「うわ、神」


⸻


 レイがドリンクバーを見て言う。


⸻


「ココアあるじゃん」


⸻


「ガキかよ」


⸻


「疲れた時は甘いものなんだよ」


⸻


 レイは山盛りのポテトを持って戻ってきた。


 相変わらず食う量がおかしい。


⸻


「絶対太る」


⸻


「倉庫で消費するからセーフ」


⸻


「その理論毎回言ってんな」


⸻


 悠は少し笑った。


 その横で、

 メアリーが嬉しそうな顔をしている。


⸻


「ファミレス懐かし〜」


⸻


「富山でも行っとったやん」


⸻


「ドリンクバーだけで五時間くらい居座った」


⸻


「店から嫌われるやつ」


⸻


 メアリーが吹き出す。


 その笑い方が、

 昔そのままだった。


⸻


 窓の外。


 雨粒がネオンを滲ませている。


 深夜の街は、

 少しだけ映画みたいだった。


⸻


「つーかさ」


⸻


 レイがココアを飲みながら呟く。


⸻


「最近マジで変な客増えた」


⸻


「倉庫?」


⸻


「うん」


⸻


「キレるオッサンとか」


⸻


「“俺は客だぞ”系」


⸻


「だる」


⸻


 レイはストローを噛む。


⸻


「みんな余裕ないんだろーね」


⸻


「なんかずっとイライラしてる」


⸻


 悠は黙って窓の外を見た。


 なんとなく分かる気がした。


 工場も同じだった。


 みんな疲れている。


 だから少しずつ、

 他人に優しくできなくなる。


⸻


「……悠ちゃん」


⸻


 メアリーがぽつりと言う。


⸻


「ん」


⸻


「最近ちょっとだけ楽しそう」


⸻


「そうか?」


⸻


「うん」


⸻


 メアリーは少し笑った。


⸻


「前ずっと沈んどった」


⸻


 悠は返事をしない。


 でも否定もできなかった。


 メアリーが戻ってきてからだ。


 止まっていた時間が、

 少しずつ動き始めている。


⸻


「つーかお前」


⸻


 レイがポテトを食べながら悠を見る。


⸻


「最近スマホ見なくなったよな」


⸻


「……あー」


⸻


「前ずっと見てたじゃん」


⸻


「動画」


⸻


「ゲーム」


⸻


「SNS」


⸻


「なんか死んだ目でスクロールしてた」


⸻


 悠は少し苦笑する。


⸻


「まぁ……」


⸻


「暇だったし」


⸻


「いや心死んでただろあれ」


⸻


「否定できねぇ」


⸻


 レイが笑う。


 メアリーも笑う。


 三人分の笑い声が、

 深夜のファミレスへ溶けていく。


⸻


「……いいねぇ」


⸻


 メアリーがぽつりと呟く。


⸻


「ん?」


⸻


「こういう時間」


⸻


「なんか落ち着く」


⸻


 悠は少しだけ目を細めた。


 自分も同じだった。


 何か特別なことがあるわけじゃない。


 でも。


 こういう時間が、

 今は妙に大事に思えた。


⸻


 その時だった。


⸻


 ガタン。


⸻


 店の奥で、

 食器の落ちる音がした。


 ほんの小さな音。


 でも。


⸻


「――っ」


⸻


 メアリーの身体が大きく震える。


⸻


「メアリー?」


⸻


 顔色が真っ白だった。


⸻


「……音」


⸻


「は?」


⸻


「今の音……」


⸻


 呼吸が乱れる。


⸻


「なんか」


⸻


「怖い」


⸻


 悠は黙る。


 最近、

 こういうことが増えている。


 雨。


 暗闇。


 音。


 何かの拍子に、

 メアリーの中で記憶が揺れる。


⸻


「……ごめ」


⸻


「別にいい」


⸻


 悠は小さく言った。


⸻


「無理すんな」


⸻


 メアリーは少しだけ驚いた顔をする。


⸻


「……悠ちゃん」


⸻


「ん」


⸻


「なんか最近優しい」


⸻


「気のせい」


⸻


「絶対違う」


⸻


 メアリーが笑う。


 その時だった。


⸻


「お客様ー」


⸻


 店員がレジ前で呼んでいる。


⸻


「ラストオーダーお願いしまーす」


⸻


「うわもうこんな時間?」


⸻


 レイがスマホを見る。


⸻


「二時半じゃん」


⸻


「終わってんな」


⸻


「お前が言うな」


⸻


 外へ出る。


 雨は少し弱くなっていた。


 濡れた道路。


 深夜のネオン。


 冷たい風。


⸻


「……夏終わるねぇ」


⸻


 メアリーが空を見上げる。


⸻


「まだ八月だろ」


⸻


「でもなんか分かるやん」


⸻


「終わる時って」


⸻


 悠は何も言わなかった。


 ただ少しだけ。


 この時間が終わってほしくないと思っていた。


⸻


 帰り道。


 高架下。


 雨上がりの匂い。


 その時だった。


⸻


「……あれ」


⸻


 メアリーが立ち止まる。


⸻


「ん?」


⸻


「なんか」


⸻


「ここ……」


⸻


 視線の先。


 暗い通路。


 濡れた地面。


 遠くの赤いランプ。


⸻


「……怖い」


⸻


 メアリーが小さく呟く。


 悠の胸が、

 また少しざわついた。


⸻


後書き


第13話でした。


今回は、

“なんでもない深夜”

をかなり丁寧に描いています。


この作品、

大事件より先に:


* ファミレス

* ドリンクバー

* 雨

* 夜の帰り道


みたいな時間を積み重ねることが重要なんですよね。


だからこそ、

後半で“失う”時が効く。


そしてメアリーは、

少しずつ“音”や“場所”へ反応を見せ始めています。


まだ本人は理解していません。


でも、

確実に近づいています。

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