偽りの講師
ジョブ別講習を終えた新人たちは草原の端で弁当を広げ、思い思いに休んでいた。
黒田は昼食のパンを食べ終え、立ち上がった。
(午後の講習まで少し時間があるし……レオンさんの話を聞きに行こう)
魔法の基礎を学ぶため、レオンのもとへ向かう。
しかし、レオンの姿はどこにも見当たらない。
近くにいた新人に声をかける。
「レオンさん、どこに行ったか知りませんか?」
新人は首をかしげた。
「さっき、赤髪の女の子と一緒に洞窟の方へ向かってましたよ。もしかして、パーティーの勧誘かな?」
黒田の胸がざわついた。
(洞窟……?新人を連れていくには危険すぎる)
Aランクのレオンが近くにいるとはいえ、洞窟は魔物が潜んでいる可能性がある。
新人を連れていくのは明らかに不自然だった。
黒田はろくに装備も整えず、洞窟へと走り出した。
◆
洞窟の入口は薄暗く、冷たい空気が流れている。
黒田は慎重に足を踏み入れた。
奥へ進むと、微かな声が聞こえた。
少女の震えた声。そして、男の低い声。
黒田は息を呑み、足を速めた。
洞窟の少し奥。
そこには、岩壁に背を押しつけられたアリサがいた。
両腕は縄で拘束され、動けない。
目には恐怖が浮かんでいる。
その前に立つのは――レオンだった。
講習で見せていた爽やかな笑顔はどこにもない。
瞳は冷たく、異常な光を宿していた。
黒田は叫んだ。
「レオンさん!あなた一体、何をしているんですか!」
レオンがゆっくり振り返る。
その目は、獲物を見つけた捕食者のようだった。
「……あーあ、見つかっちゃった。それも黒田さんに……」
アリサが震える声で黒田を呼ぶ。
「く、黒田さん……助けて……」
黒田は力強く、レオンを睨んだ。
「今すぐ彼女から離れてください!」
レオンは肩をすくめ、笑った。
「弱い人の言うことは聞けないよ。それに、どうせ君もすぐ死ぬから」
黒田は背筋が凍るのを感じた。
(こいつ……本気で言ってる)
黒田はポケットに入っていた爆破のポーションをレオンに投げつけた。
しかしポーションはレオンの目の前で爆破し、防がれてしまった。
「悪いけど、ポーションじゃ本物には勝てないよ」
レオンは反撃の火球を黒田に向かって放つ。
「黒田さん。これが魔弾ですよ。覚えて帰ってくださいね」
黒田は火球を避けるが、爆散した岩片が体を切り裂き、負傷してしまう。
黒田は火球を避けながら、ポーションを投げ交戦する。
しかし、すぐにポーションの底は尽きた。
ついには洞窟の壁際に追い詰められる。
背中に冷たい岩の感触が伝わり、逃げ場がないことを悟る。
「最後にいいことを教えてあげるよ」
レオンは杖を黒田に向けて、淡々と語り始めた。
「最近、若い女性の焼死体が見つかっているって話、聞いたよね?あれ、全部僕がやったんだ」
黒田は息を呑んだ。
「……お前が、犯人……?」
レオンは楽しそうに笑った。
「壊したあと、炎で焼くとね……顔も分からなくなる。それがたまらなく美しいんだよ」
黒田は追い詰められているにも関わらず、怒りで手が震えるのを感じた。
「……最低だ。人間のすることじゃない」
レオンは黒田を鼻で笑った。
「どうせ君たちもボクの作品になるんだ……」
「まずは黒田さんを消し炭にして……そのあとは、アリサちゃんを堪能しようかな」
レオンは軽く握っていた杖を力強く握りしめた。
杖に赤い光が集まり、洞窟を照らす。
「真紅の炎よ、焼き尽くせ――ヘルフレア!」
同時に少女の悲鳴が洞窟に響きわたる。
「黒田さん!」
炎の奔流は黒田へ向かって放たれ、黒田の全身を覆い尽くした。
黒田は、視界が赤く染まり、意識が遠のいていくのを感じた。




