覚醒
灼熱が全身を飲み込み、皮膚が焼ける感覚すら一瞬で消えた。
痛みはあまりに強すぎると、逆に何も感じなくなる――黒田はその境地にいた。
(……ああ、死ぬのか。俺はここで……)
耳鳴りが響き、視界は赤く覆われる。
洞窟の天井が揺れ、レオンの笑い声が遠くで反響しているように聞こえた。
その中で、かすかな声がした。
「……ださん……黒田さん……!」
アリサの叫び声だった。
その声だけが、炎の中でも鮮明に届いた。
(……まだ、守れてない)
黒田の胸の奥で、何かがゆっくりと動いた。
心臓の鼓動が、炎の熱を押し返すように強くなる。
ドクン――
ドクン――
(死ねない……死ぬわけにはいかない……)
意識が消えかける中、黒田の体の内側で、黒い何かが渦を巻いた。
黒田は魔力が灼熱を吸収し一ヶ所に集まるのを感じた。
今まで無色だったはずの魔力が、炎に焼かれながらも濁り、重く、粘りつくように形を変えていく。
黒田は呼吸を荒げながら、ゆっくりと立ち上がった。
その腕に、黒い泥のような紋様が浮かび上がる。
レオンが眉をひそめる。
「……まさか、まだ生きているというのか?」
体の奥から、黒い魔力が溢れ出す。
重い。
熱い。
濁っているのに、どこか冷たい。
黒田は体の中で黒い魔力がみなぎるのを感じた。
「死線を越えて覚醒したってわけか。面白い……特別講習といこうか」
レオンは楽しそうに笑った。
黒田は息を整え、右手を前に出した。
魔力を集める感覚は、講習で聞いた通りだ。
だが、集まってくる魔力は――異様に重い。
空気が沈むような圧力。
洞窟の壁が軋む。
黒田の手のひらに、黒い球体が生まれた。
泥のように濁り、ゴムのように弾力があり、内部には圧縮された魔力が詰まっている。
炎や氷のような華やかさはない。
ただひたすらに重く、鉄球のような魔弾。
黒田は魔弾をそのまま、レオンに向けて放った。
(……これが、俺の魔弾……)
レオンは魔弾を軽く避けて、転がった魔弾を手に取った。
「これが君の魔弾かい。どんなものかと思えば……ただのゴムボールじゃないか」
黒田は静かに言った。
「ゴムボールでも使い方次第で、あなたを倒せますよ」
レオンが目を細める。
黒田はすでに、魔弾の性質を理解し始めていた。
続けざまに魔弾を放つ。
最初は魔力のコントロール。
次に弾速の調整。
そして最後に、弾数の増加。
黒田は短時間で魔弾の扱いを最適化していく。
黒田の魔弾が空気を裂き、レオンへ向かって飛ぶ。
重い。
炎属性の防御では受け止めきれない。
レオンは火球を撃ちながら後退する。
だが黒田はその場からほとんど動かない。
必要最低限の火球だけを避け、ひたすら黒弾を放ち続ける。
レオンの表情に焦りが浮かぶ。
「……ちっ、鬱陶しい魔弾だな」
痺れを切らしたレオンが、一瞬足を止め、黒田の方を向いた。
「これで終わりにしましょう。黒田さん」
「そうですね。残業はこりごりです」
黒田は少し笑うと、表情を引き締めた。
二人は対面して、お互いの本気をぶつけ合った。
レオンは先ほど黒田に放った上位魔法を再び展開する。
黒田は魔弾をレオンに向けて放つ。
それはシンプルだが、数、質、速度が桁違いだった。
黒田の魔弾は灼熱を呑み込み、レオンへと直撃した。
ドゴォッ!!
魔弾によってレオンは吹き飛ばされ、気絶した。
アリサが震えながら黒田を見つめる。
「黒田さん……すごい……」
黒田はアリサの元へ寄り、腕の拘束を解いた。
「戻りましょうか」
アリサは小さく頷いたが、その手はまだ震えていた。
黒田はレオンを引きずり、ゆっくりと洞窟の出口へと向かった。




