チーム講習
洞窟から戻った黒田とアリサは講師用テントへ向かった。
アリシェラとリーネが黒田の姿を見るなり慌てて駆け寄った。
「ちょっと、黒田、大丈夫!?」
「黒田さん……その傷、どうしたんですか!?」
セリスもすぐに駆け寄り、治癒魔法を使用する。
「黒田さん、動かないで。まずは治療が優先です」
温かな光が黒田の体を包み、火傷の跡がみるみる薄れていく。
しかし――胸の中心に刻まれた深い傷だけは、光に反応しなかった。
セリスが眉を寄せる。
「……この傷、魔力の性質が違います。普通の治癒では治りません」
アリサは心配そうに覗き込む。
「黒田さん……本当に大丈夫なんですか」
黒田は軽く笑ってみせた。
「ええ。セリスさんのお陰で痛みはなくなりました」
そして黒田は深く息を吸い、洞窟で起きたことを簡潔に伝えた。
レオンが新人を連れ出したこと。
拘束されたアリサを発見したこと。
そして――レオンが犯人だったこと。
リーネは震える手で口元を押さえた。
「そんな……レオンさんが……」
黒田は静かに頷く。
リーネは目を伏せ、悔しそうに唇を噛んだ。
「新人研修で、そんなことが起きるなんて……私の責任です」
黒田は首を振った。
「リーネさんのせいじゃありません。誰も予想できなかったことです」
少し間を置いて、黒田は続けた。
「レオンの件ですが……新人研修が終わるまで伏せておいていいですか?今伝えれば、皆が動揺して講習どころじゃなくなる」
アリシェラは短く息を吐き、黒田を見つめた。
「……判断としては正しいわ。研修が終わるまでレオンの件は伏せましょう」
リーネも頷く。
「黒田さん……ありがとう。冷静に考えてくれて」
黒田は軽く頭を下げた。
◆
昼休憩後。
新人たちが草原に集まり、アリシェラが声を張った。
「メイジ講師のレオンは体調不良で欠席よ」
アリシェラがそう告げると、周囲がざわついたがすぐに収まった。
「午後はチーム講習よ。くじを引いて四人一組になりなさい」
アリシェラが全体の指揮をとり、ジョブごとの細かい指導はドワンとセリスが担当する。
黒田とリーネは細かいサポートに回った。
アリシェラは新人たちの動きを見て満足そうに頷く。
「いいわね。昨日よりずっと連携が取れてる」
新人冒険者は講師の指示でチーム別講習をそつなくこなしていた。
チーム講習が終了すると、講習の最後に講評が行われた。
アリシェラが前に立ち、全員を見渡す。
「午後のチーム講習はよく頑張ったわ。どのチームも連携が取れていた」
アリシェラの講評の後に、ドワン、セリスが講評を行った。
「タンクの仕事は守ることだ!しっかり盾になれよお前達!」
「私たちの魔法で癒して差し上げましょう。それがヒーラーの務めです。」
講師陣の講評が終わるとリーネが柔らかい表情で前に出た。
「新人の皆さん、本日はお疲れさまでした。冒険者を目指す前に大事な話があります」
その言葉に新人たちが息をのんだ。
黒田は前へ出た。
胸の傷がまだ疼くが、声はしっかりしていた。
「皆さんに伝えたいことがあります」
新人たちの視線が黒田に集まる。
「最近、若い女性の焼死体が見つかっている事件……犯人は、レオンでした」
空気が凍りついた。
黒田は続ける。
「冒険者は危険と隣り合わせです。外の世界では、魔物だけじゃなく、人間の悪意とも向き合わなければならない。冒険者はとても簡単な職業ではない反面、知る権利がある職業だと思いました。」
新人たちは真剣な表情で黒田の言葉を聞いていた。
アリシェラが静かに頷く。
「黒田の言う通りよ。危険は多いけど知る権利がある――それが冒険者よ。覚悟のある者だけ冒険者になりなさい」
アリシェラの一言で新人冒険者研修はそのまま締めくくられた。
◆
新人冒険者研修が無事終わると、黒田とリーネは後片付けに取り掛かっていた。
夕方の光が草原を照らし、講習で使った魔道具やテントが次々と片付けられていく。
リーネは新人たちの後ろ姿を眺めて、ぽつりと呟いた。
「レオンさんの件で……あまりいい印象は持ってもらえなさそうですね」
黒田は苦笑しながら首をかいた。
「そうですね。あまりお役に立てず申し訳ないです」
リーネは慌てて首を振った。
「とんでもないです。ここ数日は黒田さんに助けられっぱなしで、感謝しかありません。黒田さんがいなかったら、もっと大変なことになっていました」
黒田は照れくさそうに肩をすくめた。
「そう言ってもらえると救われます」
そんなやり取りをしている二人の前に、赤髪の少女が現れた。
昼のチーム講習のときよりも、どこか緊張した面持ちで立っている。
「あの……黒田さん、少しお時間頂けますか?」
黒田は手を止め、柔らかく笑った。
「ああ、アリサさん。いいよ」
リーネが気を利かせて微笑む。
「私はここを片付けておきます。行ってきてください」
黒田とアリサは場所を変え、少し離れた丘の上へ移動した。
草原を見渡せる静かな場所。
夕日が二人の影を長く伸ばしている。
アリサは深呼吸し、意を決したように口を開いた。
「黒田さん……私、お願いがあります」
黒田は首を傾げる。
アリサは両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「私を黒田さんのパーティに入れてもらえませんか?」
黒田は一瞬驚き、目を瞬いた。
アリサは続ける。
「洞窟で助けてもらって……今日のチーム講習でも黒田さんの動きを見て……私、黒田さんと一緒に冒険がしたいって思ったんです。まだまだ未熟ですけど……頑張りますから……!」
その瞳は真剣で、揺らぎがなかった。
黒田は少し困ったように笑った。
「アリサさん……気持ちは嬉しいけど、俺は冒険者じゃないんだ。ギルドに登録もしていないし、正式なパーティは組めないな」
アリサは残念そうに下を向いた。
「そうでした……すみません」
黒田は優しく首を振った。
「でも――一緒に動けないわけじゃない」
アリサが顔を上げる。
「俺は冒険者じゃなくて、“なんでも屋”として働いている。依頼の手伝い、護衛、調査……冒険者の仕事に近いことはできる。だから、アリサさんがよければ、“なんでも屋”として働かない?冒険者のことはアリシェラさんに教わろう!」
アリサの目が大きく開き、頬が赤く染まった。
「……いいんですか? 本当に……?」
黒田は笑った。
「もちろん。丁度仕事仲間を探していたところです」
アリサは胸の前で手をぎゅっと握り、嬉しそうに笑った。
「はいっ!よろしくお願いします、黒田さん!」
夕日が二人を照らし、草原に温かな風が吹き抜けた。




