ジョブ別講習
黒田がアタッカー講習の様子を見に行くと、
銀髪を揺らしながらアリシェラが新人たちの前で剣を構えていた。
その姿は、いつものなんでも屋の彼女とはまるで違う。
鋭い眼差し、無駄のない動き――まさにAランク冒険者の風格だった。
黒田は思わず声をかけた。
「アリシェラさん……講師として来るなら、前もって教えてくださいよ。心の準備ができてなかったです」
アリシェラは剣を肩に担ぎ、ふっと笑った。
「え〜? 別にいいじゃない。黒田なら驚いてもすぐ慣れるでしょ?」
「いや、慣れますけど……Aランクって聞いてないですし」
「最近は冒険者活動してなかったからね。でも、こういう場ならちょっとは役に立てるかなって思ってさ」
アリシェラは軽く剣を振り、銀髪が朝日にきらめいた。
「ほら、ちゃんと見てなさいよ?私、これでも新人の頃は“銀閃のアリシェラ”って呼ばれてたんだから」
黒田は呆然としたまま頷いた。
(……本当にすごい人だったんだな)
アリシェラは新人たちへ声を張る。
「まずは構え! 剣は振り回すんじゃなくて、扱うものよ!」
新人たちが慌てて姿勢を整える。
黒田はその様子を見守りながら、次の講習へ向かった。
◆
タンク講習の区画では、ドワンが新人たちの前で腕を組んでいた。
ずんぐりした体格、広い肩幅、鎧の上からでも分かる筋肉。
髭を蓄え、まるでドワーフのような雰囲気だ。
「タンクは仲間の盾だ!まずは“踏ん張り”を覚えろ!地面を掴むように立つんだ!」
新人たちは必死に足を広げ、姿勢を整える。
ドワンは黒田に気づくと、豪快に笑った。
「おう、見学か! タンクは地味だが一番大事だぞ!」
黒田は頷いた。
「確かに……守る役割って重要ですよね」
「そうだ!攻撃より防御が先だ!新人にはまず“倒れない体”を作らせる!」
その言葉に新人たちが気合を入れ直す。
黒田はその様子を見て、タンクの重要性を改めて感じた。
◆
次に黒田はヒーラー講習へ向かった。
金髪のロングヘアーを揺らすセリスが、白いローブをまとい、優しい声で新人たちに語りかけていた。
「治癒魔法は焦らず、ゆっくり。心を落ち着けることが一番大切です。魔力は“癒したい”という気持ちに反応しますからね」
新人たちは目を閉じ、深呼吸を繰り返している。
黒田はその穏やかな雰囲気に思わず息を吐いた。
(ヒーラーは本当に癒し系なんだな……)
セリスは黒田に気づき、柔らかく微笑んだ。
「見学ですか? どうぞ、ゆっくり見ていってくださいね」
黒田は軽く会釈した。
「ありがとうございます。とても落ち着く講習ですね」
「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです」
◆
最後に黒田はメイジ講習へ向かった。
赤毛の爽やかな青年――レオンが新人たちの前で杖を掲げていた。
「魔力は押し出すのではなく、通すものです。まずは体の中の魔力の流れを感じて“魔弾”を放ってみましょう」
新人たちは目を閉じ、集中している。
その中に、一人の少女がいた。
肩までの赤髪、炎のような瞳。
少女は真剣なまなざしで講師の話を聞いていた。
黒田はその少女の横に立ち、声をかけた。
「調子はどうですか?」
少女は振り向き、少し照れながら微笑んだ。
「まだ少し緊張してますが、楽しいです」
黒田は頷き、少しだけ笑った。
「そうですか。楽しめているなら何よりです」
少女は思い出したように姿勢を正した。
「私、アリサっていいます。炎属性のメイジ志望です」
黒田も軽く会釈した。
「黒田です。よろしくお願いします、アリサさん」
アリサは嬉しそうに微笑んだ。
「こちらこそ、黒田さん」
黒田はふと気になって尋ねた。
「魔弾はもう撃てるんですか?」
アリサは小さく頷き、杖を構えた。
「新人でも魔弾くらいは撃てますよ。ほら、見ててください」
杖の先に赤い光が集まり――
「ファイアーボール!」
小さな炎の弾が草原の的へ飛び、ぱちんと音を立てて弾けた。
黒田は思わず息を呑んだ。
「すごい……」
アリサは照れたように笑い、黒田の腕を指さした。
「黒田さんは、まだ覚醒していないんですよね?」
「ええ。魔弾どころか、魔力の流れもよく分からなくて」
アリサは自分の腕を見せた。
そこには赤い花びらのような紋章が浮かんでいる。
「覚醒すると、こうやって紋章が出るんです。紋章が魔力の通り道になって、魔弾が撃てるようになります。魔法は魔力の流れやすい杖や掌から放つのが一般的です」
黒田は興味深そうに見つめた。
「紋章って……属性ごとに違うんですか?」
「はい。私は炎属性なので赤い紋章です。氷なら青、雷なら黄色……色でだいたい分かります」
アリサは少しだけ声を落とした。
「黒田さんが覚醒したら、どんな紋章が出るんでしょうね。楽しみです」
黒田は苦笑した。
「僕は魔力が高いらしいんですが……魔弾すら撃てないんですよ」
アリサは優しく首を振った。
「覚醒前はそんなものです。紋章が出たら、魔弾は自然に形になりますよ」
アリサは続けた。
「魔弾は“属性の形”がそのまま出るんです。炎ならファイアボール、氷ならアイスランス……黒田さんの属性が分かれば、魔弾の形も分かります」
黒田はふと、自分の胸の奥に重たい何かを感じた。
(もし自分が覚醒したら……どんな魔弾が出るんだろう)
アリサは明るく笑った。
「きっと黒田さんの魔弾、すごいですよ。魔力が高い人は、魔弾も強いですから」
黒田はその言葉に少し勇気づけられた。
アリサは再び集中し始めると、黒田はその横で静かに見守った。




