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翌日。
黒田がギルドに入ると、リーネがいつもより早足で近づいてきた。
胸元で書類を抱え、どこか落ち着かない様子だ。
「黒田さん、おはようございます。今日はギルドマスターが話をしたいそうで……こちらへどうぞ」
黒田は少し驚きながらも頷き、リーネの後をついていく。
ギルド奥の扉を開けると、質素な会議室が広がっていた。
壁には古い地図や依頼の統計表が貼られ、中央の机には初老の男性が座っている。
落ち着いた雰囲気のその男性は、ゆっくりと顔を上げた。
「おお、君が黒田君か。リーネから話は聞いているよ」
黒田は丁寧に頭を下げた。
「初めまして。なんでも屋の黒田です」
リーネが少し照れたように言う。
「こちら、ギルドマスターの……父、ゲルドです」
黒田は思わず目を丸くした。
「えっ、リーネさん……ギルドマスターの娘さんだったんですか?」
リーネは頬を赤くしながら微笑んだ。
「はい……言ってませんでしたね」
ゲルドは穏やかに笑い、腕を組んだ。
「リーネから話は聞いてるよ。君はなかなか頭が切れるみたいだね」
黒田は少し照れながら頭を掻いた。
「いえ、僕はただ経験を基に仕事をこなすだけで自頭は良くありません」
リーネは黒田優しく微笑みかけた。
「黒田さんって、ほんと謙虚ですよね」
ゲルドは表情を引き締めた。
「さて、本題だ。ギルドは今、冒険者不足で深刻な状況だ。新人が来ない。来てもすぐ辞めてしまう。問題解決にあたり、何かいい案はないかな、黒田君?」
黒田は机の上の統計表に目を走らせた。
(……離職率が高い。新人の定着率が低い。会社の新人研修がない部署と同じだ)
黒田はゆっくり口を開いた。
「新人研修を無料で行いませんか?」
リーネとゲルドが同時に驚いた顔をする。
「新人研修……?」
「はい。ジョブごとに基礎を教えたあと、くじでチームを組んで実践講習を行うんです。新人研修では基礎と実践をセットにすると定着率が上がります」
ゲルドは腕を組み、深く頷いた。
「なるほど……確かに理にかなっている。講師はどうする?」
黒田は迷いなく答えた。
「Aランク冒険者を雇いましょう。金はかかりますが、必要経費です」
リーネは手帳を開き、黒田の言葉をメモしながら尋ねる。
「ジョブは……アタッカー、メイジ、ヒーラー、タンクの四つですね?」
黒田は軽く頷いた。
「そうですね。他にも役職はありますが、一旦はこの四つで十分でしょう」
話がまとまり、ゲルドは椅子から立ち上がった。
「講師はこちらで手配しよう。研修は2週間後でいいかな?リーネと黒田君は、それまでに準備を整えてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、黒田は会社での“お客さんとの打ち合わせ”を思い出した。
依頼を受け、期限を確認し、段取りを組む――
あの頃の感覚が自然と蘇る。
「承知しました。2週間後に研修を行いましょう」
黒田の返事に、ゲルドは満足そうに頷き、会議室を後にした。
静かになった室内で、リーネが黒田の方へ向き直る。
「それでは……早速準備をしましょうか」
黒田は軽く拳を握り、気合を入れた。
「はい。二週間後の新人研修に向けて、できることを全部やりましょう」
リーネは嬉しそうに微笑む。
「黒田さんとなら、きっと成功します」
黒田はその言葉に少し照れながらも、小さく拳を握りしめていた。
◆
ゲルドが会議室を出ていくと、静けさが戻った。
黒田は深く息を吐き、机の上の資料を見つめる。
「それでは早速準備をしましょうか」
リーネが明るい声で言う。
黒田は頷き、椅子に座り直した。
「まずは研修の流れを決めましょう。二週間後なら、段取りを細かく組めます」
リーネは手帳を開き、黒田の隣に座る。
「研修って、どんなことをするんですか?」
黒田は指を折りながら説明した。
「新人研修は大きく二段階です。一つ目は“ジョブ別講習”。アタッカー、メイジ、ヒーラー、タンクの基礎を学ぶ時間ですね」
リーネは真剣にメモを取る。
「基礎って、具体的には?」
「アタッカーなら武器の扱い方、メイジなら魔力の流し方とかですかね。講師におまかせしますが、本当に“初歩の初歩”です。ここを丁寧にやると新人の離脱率が下がるんですよ」
リーネは目を輝かせて振り向いた。
「流石、黒田さん!詳しいですね!」
黒田は苦笑した。
「新人研修は何度も経験済みですから」
リーネはページをめくりながら続ける。
「二つ目は……チーム講習でしたよね?」
「はい。ジョブ別講習のあと、くじでチームを組んで実践講習をします。実際の依頼を模した訓練を行うことで、連携の大切さを学んでもらいます」
リーネは目を輝かせた。
「面白そうです!」
黒田は資料をまとめながら言った。
「ただし、準備は大変です。訓練場所の確保、講師との打ち合わせ、研修内容の資料作成、参加者の募集……」
リーネは一瞬だけ不安そうに眉を寄せた。
「そんなにたくさん……二週間で間に合いますか?」
黒田は迷いなく頷いた。
「間に合わせます。段取りを組めば問題ありません」
その言葉に、リーネは安心したように微笑む。
「じゃあ、まずは研修場所の確保ですね。ギルドの裏庭はどうでしょう?」
黒田は少し考えながら首を振った。
「ギルドの裏庭は安全すぎて実戦経験を積めないので、安全な草原とかの方がいい気がしますね……」
リーネはメモを取りながら頷く。
「確かに……裏庭だと“練習”って感じになっちゃいますもんね。実際に体を動かすなら、草原の方が雰囲気も近くていいですね」
黒田は次の項目を指差した。
「講師との打ち合わせはゲルドさんが進めてくれるので、僕たちは研修内容の資料を作りましょう。」
リーネは嬉しそうに笑い、立ち上がった。
「私も手伝います!二週間で絶対に成功させましょう!」
黒田は軽く拳を握った。
「はい。ギルドの未来のために、やりましょう」
こうして、二週間後の新人研修に向けた準備が本格的に始まった。




