資金調達
適性検査が終わり、黒田とアリシェラはギルドの椅子で一休みしていた。
「この後はどうするの?」
黒田は腕を組みながら、少し考えるように空を見上げた。
「問題は山積みですが……とりあえず資金問題を解決したいです」
アリシェラは首をかしげる。
「資金なら、今のままで十分だと思うけど?」
黒田はゆっくり首を振った。
「いまのままでは人手が足りません。自分は戦闘力がないので、実質動けるのはアリシェラさんだけ。
最低でもあと一人、動ける人材が欲しいですね」
アリシェラは「あー……」と納得したように頷いた。
「そっか。確かに二人じゃ限界あるよね。一応私は冒険者登録しているから、ギルドの依頼を受けられるよ」
黒田は少しだけ表情を明るくした。
「それなら、戦闘系の依頼を複数受けて、短期で稼ぎましょう。その間に、僕は……頭を使う仕事を探します」
アリシェラは笑った。
「黒田に戦闘は難しいもんね。じゃあ私は依頼票見てくる!」
黒田も笑い返す。
「お願いします。僕はリーネさんに相談してみます」
◆
ギルドに戻ると、受付は静かだった。
しかし、リーネの机の上には依頼票が山のように積まれている。
彼女は一人で書類をめくりながら、忙しそうにペンを走らせていた。
黒田はそっと近づき、声をかけた。
「リーネさん、少し相談したいことがあって来ました」
リーネは手を止め、顔を上げて柔らかく微笑んだ。
「どうされましたか?」
黒田は机の上の依頼票の山を見ながら言った。
「僕は戦闘ができないので、頭を使う仕事を探しているんです」
リーネは一瞬だけ驚いたように目を見開き、胸の前で書類を抱え直した。
「実は、人手不足で……処理が追いつかなくて……黒田さんが良ければギルドで働いてみませんか?もちろん“依頼”としてお願いしたいです」
黒田は思わず身を乗り出した。
「本当ですか!?一応自分は“なんでも屋”なので、ずっと働くことはできませんが……短期間で良ければお願いしたいです!」
リーネは慌てて両手を振った。
「もちろん短期間でも構いません!黒田さんに手伝ってもらえれば百人力です!」
黒田は力強く頷いた。
「では、ぜひお願いします!」
リーネはほっとしたように肩の力を抜き、微笑んだ。
「では、まずは依頼票の整理をお願いできますか?種類ごとに分けて、危険度順に並べたいんです」
黒田は机の山を見て、口元を引き締めた。
「任せてください!」
◆
黒田は依頼票の束を手に取り、静かに息を整えた。
単純作業――分類、仕分け、並べ替え。
会社にいた頃、何度もやってきた仕事だ。
だが、そのたびに思い出すことがある。
(単純作業は、いかに早くこなすかがポイントだ。効率化を求めるあまり、逆に時間がかかったこともあったな……)
プロジェクトリーダーになる前、黒田は“効率厨”だった。
作業を早くするために手順を見直し、道具を変え、並び順を変えるなど改善を図った。
結果――
効率化のための準備に時間を使いすぎて、
本来の作業が遅れるという本末転倒を何度も経験した。
(あの頃は、効率化そのものが目的になっていた……)
黒田は依頼票を一枚めくり、静かに微笑んだ。
(でも今は違う。まずはリーネさんの負担を減らすことだ。効率化はその後でいい。)
その意識の違いが、黒田の手を軽くした。
分類基準は最低限。
並び順は必要なものだけ。
余計な改善はしない。
“今すぐ役に立つこと”だけに集中する。
黒田の手は、まるで流れるように依頼票を仕分けていく。
「……この依頼は危険度が高いのに初心者向け棚に入ってるな」
黒田は小さく呟き、別の束へ移した。
リーネはその様子を見て、目を丸くした。
「黒田さん、手際がいいですね」
「単純作業は、迷わないことが大事なんです。分類基準を決めたら、あとは流れ作業でいけます」
黒田は机の端に簡単な分類表を置いた。
必要最低限の情報だけをまとめた、シンプルな表だ。
リーネはその表を見て、感嘆の声を漏らした。
「すごい……これなら私でも迷わず並べられます」
「迷う時間が一番のロスですからね。単純作業は“迷わない仕組み”を作るのが一番効率的なんです」
黒田は淡々と作業を続ける。
依頼票の山は、みるみるうちに整っていく。
リーネは胸の前でそっと手を組み、嬉しそうに黒田を見つめた。
「黒田さん……本当に助かります。こんなに早く終わるなんて……」
黒田は少し照れたように頬をかきながら笑った。
「いえ、僕がやっているのは“仕組みづくり”だけです。あとは誰でもできますよ」
その日のうちに、黒田は依頼票の整理をすべて終わらせた。
リーネは机の引き出しから小さな袋を取り出し、両手で丁寧に差し出す。
「本日はありがとうございました。こちらが今日の分のお給料になります」
黒田は受け取り、袋の口を少し開いた。
中には銀貨がぎっしりと詰まっている。
「いいんですか!?こんなに!?」
リーネは優しい笑顔を向けた。
「もちろんです。私と同じ働きをしているわけですから。また明日もよろしくお願いしますね!」
黒田は深く頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
ギルドを出ると、夕方の柔らかい光が街を照らしていた。
黒田は銀貨の重みを感じながら、なんでも屋へと足を運ぶ。
なんでも屋へ戻ると、アリシェラが玄関で出迎えてくれた。
「おかえり、黒田。私一人でこなせそうな討伐依頼をいくつか受注したわ」
黒田は頷き、銀貨の袋を軽く持ち上げた。
「ありがとうございます。僕はしばらくギルドで働くことになりました」
アリシェラは目を丸くし、口角を少し上げた。
「へえ~黒田がギルドで仕事ね~。なんでも屋はどうするのかしら?」
黒田は慌てて誤解を解く。
「依頼として働くだけですよ」
アリシェラは満足そうに笑い、黒田の肩を軽く叩いた。
「なら安心ね。黒田らしい働き方じゃない」
二人は、その夜、それぞれの明日の仕事について語り合った。




