適性検査
冒険者ギルドは、町の中心にそびえる大きな石造りの建物だった。
昼過ぎでも人の出入りは絶えず、依頼票を確認する冒険者たちの声が響いている。
「黒田、ここが冒険者ギルドよ。正式に冒険者になる気がなくても、適性検査だけは受けられるの」
アリシェラが胸を張る。
黒田は少し緊張しながら受付へ向かった。
受付カウンターには、淡い栗色の髪をまとめた女性が座っていた。
落ち着いた雰囲気で、静かな気品がある。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」
柔らかい声で迎えてくれた。
アリシェラが紹介する。
「黒田、この人はギルド受付のリーネさん。適性検査を担当してくれるの」
黒田はうなずいた。
「黒田と申します。本日はよろしくお願いします!」
リーネは微笑んだ。
「ギルド受付のリーネです。適性検査は冒険者登録をしなくても受けられますので、ご安心ください。身体能力、魔力量、属性の簡単な測定になります」
一通り説明が終わり、黒田たちは訓練場に案内された。
そこには、木製の人形が並び、走るためのラインが引かれている。
「では、軽く走ってみてくださいね」
リーネが優しく指示する。
黒田は走り出すが――すぐに息が上がった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
アリシェラが心配そうに駆け寄る。
「黒田、大丈夫!? 思ったより体力ないのね……」
リーネは記録を確認し、少し困ったように笑った。
「身体能力は……平均よりやや低めですね。非戦闘向きの数値です」
黒田は肩をすくめた。
「まあ、デスクワークばかりでしたからね」
◆
次に案内されたのは、魔力測定用の水晶が並ぶ部屋だった。
中央には淡く光る透明な石が置かれている。
「では、この水晶に手を置いてください」
リーネが促す。
黒田が触れた瞬間――
水晶が、眩しいほどに光った。
「えっ……!?」
アリシェラが目を丸くする。
リーネも驚きの声を漏らした。
「こ、これは……魔力量が非常に高いです。上位冒険者並みですよ」
黒田は思わず手を離した。
「そんなに?」
リーネが紙を見ながら言った。
「はい。ただし……黒田さんは無色ですね。魔力は高いのに、属性が覚醒していません」
黒田は思わず聞き返した。
「無職?……ああ、無色ね!」
アリシェラがくすっと笑う。
「黒田、それは違う意味でしょ」
リーネは微笑みながら続けた。
「強い感情や経験で属性が変化することがあります。今は無色ですが、将来的に色がつく可能性があります」
アリシェラが興味津々で黒田を見る。
「黒田、どんな属性になるんだろうね?」
黒田は苦笑した。
「ブラック企業の経験で黒く染まったりして」
「それは嫌でしょ!」
二人は思わず笑った。
◆
リーネは最後に、薄い板状の魔道具を取り出した。
表面には文字らしき模様が浮かんでいる。
「では、学力テストを行います。読み書き、計算、状況判断などが出ます」
アリシェラがすぐに口を挟んだ。
「リーネさん、黒田はまだこの国の文字に慣れていないんだけど……大丈夫?」
リーネは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「そうだったんですね。大丈夫ですよ。問題文は私が読み上げますし、選択肢もゆっくり説明しますから」
黒田は申し訳なさそうに頭を下げた。
「助かります。まだ文字が全然読めなくて……」
「気にしなくていいんですよ」
リーネは優しく言う。
「文字はゆっくり覚えればいいんです。理解力があれば、テストは問題ありません」
その言い方は、どこか“お姉さんの励まし”のようで、黒田の肩の力が少し抜けた。
リーネは黒田の横に立ち、板を持ちながら読み上げる。
「第一問。三つの荷物を最短で届けるには、どの順番が最も効率的でしょうか?」
黒田は即答した。
「北→南→西です」
リーネは小さく笑った。
「ふふっ、早いですね。では次です」
読み上げる声は落ち着いていて、聞いているだけで安心する。
「第二問。三つの数字の合計を求めてください。……これは計算問題ですね」
黒田はすぐに答える。
続いて論理問題、状況判断問題が読み上げられる。
リーネは時折、
「問題文が少し長いのでゆっくり読みますね」
「選択肢は三つです。焦らなくて大丈夫ですよ」
と優しく補助してくれる。
黒田はほとんど迷わず答えていった。
(……仕事の段取りと同じだな)
最後の問題を読み上げるリーネの声は、どこか楽しそうだった。
「では最後の問題です。危険な状況を回避するための最適な行動を選んでください」
黒田は静かに答えた。
「逃げ道を確保してから、味方の位置を調整します」
リーネは板を確認し、目を見開いた。
「……九割正解です。とても優秀ですよ、黒田さん」
アリシェラが驚いて黒田を見る。
「やっぱり黒田って頭いいのね」
黒田は照れくさく笑った。
「仕事で似たようなことばかりしてましたからね」
■結果
・身体能力:B
・魔力量:S
・学力:S
・総合評価:A
・潜在能力は高い。覚醒次第で大きく伸びる可能性あり。
リーネは魔力測定の紙を見直しながら、少し声を落とした。
「……魔力量と学力が非常に高いですね。属性はまだ無色ですが――覚醒次第では、優秀なメイジになれますよ」
アリシェラが目を輝かせる。
「黒田、魔法使いになれるの!? すごいじゃん!」
黒田は苦笑しながら紙を見つめた。
(魔法使い……俺が?)
ブラック勤務で女性と付き合う暇もなく、違う意味での魔法使いだった俺は、
どうやらこっちの世界で、魔法使いになれるかもしれない。




