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【連載版】人手不足で過労の俺、異世界では”要領の良さ”を活かします。  作者: なまこ


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作業開始

アリシェラの店に到着すると、黒田は店内を一瞬で見渡した。


狭い店舗。

依頼票が雑に貼られた壁。

机には散乱した道具と未処理の紙束。

奥には、半分開いたままの荷物棚。


「……カオスですね」

「ひ、人手が足りなくて……」


黒田は自然に動き出した。

棚の整理、依頼票の仕分け、道具の分類。


効率化のために必要最低限のスペースを作り、すぐに仕事に取りかかれる環境を整えていく。

わずか十分ほどで、店が“機能する空間”に変わっていた。


アリシェラは口をぱくぱくさせた。

「えっ……なんでこんなに片付くの……?」

「環境整備は仕事効率の基本です。汚い職場は事故の元ですよ」

「この男……出来る!」


黒田は苦笑しながら、壁に新しい紙を貼る。

そこには、彼が即座にまとめた1日の工程表が書かれていた。


■ 本日の作業フロー


北の丘:薬草採取(11:00~12:00)

南門:商隊の荷物受け取り(13:00予定)

西門:護衛依頼(14:00~)


「……すごい」

アリシェラは見惚れるように言った。

「あなた、本当に一般人?」

「ただのサラリーマンですよ」


「サラリーマン……?なんか凄そうな響き」

その言葉に、黒田は少しだけ胸が温かくなった。

「凄くもなんともないですよ」

サラリーマンは地球では、ただの便利屋扱いだった。


だがこの世界では――

“要領の良さ”が特別扱いされる。


「よし、それじゃ行こうか!」

アリシェラは元気よく扉を開いた。


「今日は全部、早く終わらせちゃおう!」

「はい。定時が大事ですから」

「ていじ……?」

「夕方までに仕事を終わらせることです」


こうして黒田充の、異世界なんでも屋としての初仕事が始まった。

――ブラックではない、効率重視の冒険の幕開けだった。


北の丘に向かう道は、朝の光が差し込み、どこか懐かしい田舎道のようにのどかだった。

アリシェラは軽快に歩きながら言った。


「薬草採取はね、いつも時間がかかるの。見つけるのに手間取るし、集中しすぎて周囲を警戒し忘れちゃうし」

「危険じゃないですか、それ」

「ね! よく生きてると思うよ!」


胸を張って言うことじゃない。

やがて丘に到着すると、アリシェラは腰をかがめて草むらを指差した。


「この辺りに“ヒカリソウ”が生えてるの。光が弱くてね、見つけるのが大変なんだ」

黒田はしゃがみ込み、草を観察した。

(確かに目立たない。これは慣れてないと時間がかかるな……)


だが、前職で「仕様書の誤字の中から本当に重要なミスだけを見抜く」ような作業は日常茶飯事だった。

訓練されている。


「……あそこ、群生してますよ」

「えっ、どこ!?」

「ほら、地面に影ができてない場所です。微妙に色が周囲の草と違う」


アリシェラは目を丸くして駆け寄った。

「ほんとだ! えっ、すごくない? 何者?」

「ただの元サラリーマンです」


10分足らずで必要量の薬草をすべて採取してしまった。

アリシェラは袋を抱えながら呆然と呟く。


「いつも半日かかってたのに……」

「慣れれば誰でもできますよ。パターンを覚えればいいだけです」

「そのパターンを見つけるのがすごいんだよ!」


褒められ慣れていない黒田は、少し照れながら咳払いした。


「ついでに、ポーションに使える薬草を取っておきましょう」

「依頼にポーションなんてなかったけど……」

「いずれ分かりますよ」


黒田は先を見据えていた。仕事を短時間で終わらせるには周りを見る必要がある。


一通り薬草を取り終わり、黒田が口を開く。

「さて……南の商隊に向かいましょうか。丘の南側から降りれば、町の近くに出られるはずです」

「任せる! 黒田がリーダーだね!」


(リーダー……そんなの何年ぶりだろう)


部下のいないプロジェクト管理。

責任だけ重く、権限はない。


そんな世界とは違い、ここでは黒田の判断がそのまま採用された。

それだけで、胸が少しだけ軽くなった。


南へ少し歩くと、町が見えた。

「少し寄り道して行こう」

黒田は町の薬師の店に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」

穏やかな表情をした女性が黒田たちを迎い入れた。


「この薬草でできるだけポーションを作ってほしい」

黒田は大量の薬草をバッグから取り出した。


「かしこまりました。少々お待ちください」

女性は薬草を持って店の奥へ入っていった。


「あんなに、薬草渡していいの?」

アリシェラは不安そうに黒田を見つめた。


「問題ないですよ。あの薬草はポーションくらいしか使い道がない。それに――ポーションの価値は高い」

二人はポーションを10個ほど受け取り店を後にした。


地図を見ながら町を歩いていると商隊が見えた。

隊の中で、ひときわ大きな体の男が声を上げた。


「おお、アリシェラか! 今日も受け取りか?」

「うん! 荷物、頼んでた分ある?」

「もちろんだ。……が、問題があってな」

男は肩を落とした。


「積み荷の一部が、別の依頼主と混ざっちまったらしい。仕分けが追いついてねぇ」

アリシェラは頭を抱える。

「ええ〜……じゃあ待たなきゃいけないの?」


黒田は一歩前に出た。

「荷物の一覧、ありますか?」

「ん? ああ、ここにあるが……読めるのか?」


黒田は即座に目を通し、積み荷の特徴と番号を確認する。

(色分けされてるのに、積むときに順番を無視したな……

いや、この配送効率じゃ混ざるのも無理ない)


「アリシェラさんの依頼品は“軽量の箱が3つ”ですね。番号は……B-12、B-13、B-14」

「そうそう! それそれ!」


黒田は荷台を見て、素早くラベルを追った。

「……ありました。ここです」


「早っ!?」

周囲の商人たちもざわつき始めた。


「兄ちゃん……この混乱した荷台から一瞬で見つけたのか……?」

「お、お前、仕分け係に来ないか? 報酬出すぞ!」

「俺らより目がいいぞ、こいつ!」


「いや、要領がいいだけです」

黒田は爽やかに微笑んだ。

「ところで、この中に要らないものを持っている方居ませんか?ポーションを買いすぎちゃって」


商隊の男たちがざわつく。

「ポーションか……」


その中で、ひときわ大柄な男が手を挙げた。

「兄ちゃん、ちょうどいい。鉄鉱石が余っててな。鍛冶屋に卸すには量が半端で困ってたんだ。ポーション一つと交換してくれねぇか?」


黒田は袋の中を覗き込む。

粗いが質の良い鉄鉱石が数個、ぎっしり詰まっている。

(武器の修理にも使えるし、アリシェラの仕事にも役立つ。十分価値がある)


「いいですよ。こちらのポーションと交換しましょう」

「助かる! 本当に助かる!」


男は満面の笑みで鉄鉱石を手渡してくる。

「他にも不要な物がある方はポーションと交換してほしいです」

黒田はポーションを元手に物々交換を進めていった。


アリシェラは鉄鉱石の袋を抱えながら、ぽつりと呟いた。

「黒田……あなた、本当に“なんでも屋”向いてるよ」

黒田は照れくさく笑った。


――異世界の人手不足は、ブラックと違い“感謝される”。

そのことが、何よりも嬉しかった。

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