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九環配信の澪 〜誰も帰らない絶景を〜  作者: 妄幽
第三章

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第二話 黒鉄旅団

 配信タイトルは、最後まで揉めた。


 アークライン配信管理部が最初に出した案は、《第二層深部合同事前会議》。正確ではある。硬い。とても硬い。黒瀬はそれでいいと言い、佐伯もそれで十分だと言い、黒鉄旅団側の広報担当も「誤解が少ない名称です」と評価した。だが、ミナトは画面を見たまま頭を抱えた。


「硬すぎます。誰もクリックしたくなりません」

「遊びではない」

「遊びではありませんが、配信です。しかも登録者三億超えの《九環》です。硬くすればするほど、外部が勝手に変な名前をつけます」

「では何がいい」

「天瀬さん案を少し整えて、《黒い森、危険で綺麗》」

「軽い」

「でも内容は伝わります」

「危険は伝わるか?」

「綺麗に釣られて見る人間へ、危険と先に書けます」


 最終的に、折衷案になった。


《第二層合同事前会議――黒い森、危険で綺麗》


 澪はそれを見て、少しだけ満足そうに頷いた。


「いい」

「澪が言い出したからね」

「黒い森、危険で綺麗」

「だから、危険の方もちゃんと聞いて」

「聞く」

「本当に?」

「たぶん」

「澪」


 朱音が隣で眉を寄せる。澪は医療用の白い上着を着たまま、アークライン本部の第七戦略室に座っていた。退院許可はまだ出ていないが、短時間の会議参加は許可されている。

今日はチャンネル《九環》で一部配信される合同事前会議。配信といっても、座標、具体的な侵入経路、装備詳細、素材処理方法はすべて伏せる。見せるのは、第二層七環・八環の危険性、合同探索の目的、後追い禁止の警告、そして参加クランの顔合わせだった。


 アークライン側からは、神楽坂、黒瀬、佐伯、ミナト、水瀬、遥、アカリ、セレス。澪の隣に朱音。装備関係の確認として榊原とユイカも後方にいる。朱音は現地参加者ではない。今日の配信にも支援者として映るだけだ。第二層七環以降へ同行するには、レベルも耐性も足りない。それは会議前に黒瀬から明確に言われていた。


「今の七瀬を第二層七環へ連れて行くつもりはない」

「……はい」

「不満か」

「不満です。でも、分かっています」

「なら強くなれ」

「はい」


 そのやり取りを思い出しているのか、朱音の手は膝の上で固く握られていた。澪はそれを見て、そっと袖を掴む。


「朱音先輩」

「なに」

「期待してる」

「……また言った」

「うん」

「分かった。強くなる」


 朱音は小さく息を吐き、握っていた手をほどいた。


 会議開始五分前、黒鉄旅団の一行が入室した。


 先頭に立つのは、黒鉄旅団の攻略隊長、黒堂巌。黒鉄巨人種へ二次進化した探索者で、レベルは142。背は高く、肩幅も厚い。髪は短く、黒鉄色の肌には古い傷跡がいくつも残っている。レベルだけで見れば国内最高峰ではある。

巨大な盾を背負ってはいないが、立っているだけで壁のようだった。黒瀬と目が合うと、短く頷く。派手な挨拶はない。互いに相手の強さと役割を知っている者の距離感だった。


 その後ろに、三人の少女が続いた。存在進化を得ているから年齢は当てにならないが。


 一人目は、黒羽ミカゲ。黒鬼種。レベル123。長い黒髪を低く束ね、額から伸びる二本の黒角は、磨かれた黒鉄のように硬い光を返している。肌は白すぎず、目は深い赤。表情は真面目で、隙がない。背には折り畳み式の巨大盾、腰には黒い杭槍。アカリと同じ鬼系統だが、印象はまるで違う。アカリが熱を帯びた獣なら、ミカゲは冷えた鉄の塊だった。前へ出るためではなく、そこに立ち続けるための強さをしている。


 二人目は、鋼崎レンカ。闇エルフ種。レベル119。灰銀の髪を肩のあたりで切りそろえ、夜色の肌に暗紫の瞳。長い耳には黒い金属製の小さな補助具がついている。背負っている弓は細いが、全体が黒い。光を吸うような素材で作られていた。レンカは入室してすぐ、セレスを見た。セレスもまた、淡い翡翠色の瞳で彼女を見返す。光の森を見るエルフと、闇の奥を見るエルフ。二人の間に、静かな緊張が生まれた。


 三人目は、黒乃ユズリ。愛兎種。レベル109。小柄で、ふわりとした淡桃色の髪を緩く結び、長い兎耳が頭の上で柔らかく揺れている。耳の内側には、薄いハート形の模様があった。瞳は赤ではなく、温かな蜂蜜色。黒鉄旅団の制服を着ているのに、全体の印象はやわらかい。けれど、腰の補助具や手首の術式輪は本物だった。防壁支援、回避誘導、恐怖安定、士気維持。かわいいだけの存在が、第二層七環候補の支援班に入れるはずがない。


 澪はユズリを見て、最初に言った。


「うさぎ」

「はい、愛兎種です」


 ユズリは少し緊張しながらも、柔らかく微笑んだ。


「かわいい」

「えっ」

「かわいい」

「ありがとうございます……?」


 朱音が横から小さく言う。


「澪、初対面」

「うん」

「もう少し挨拶」

「澪」

「それ自己紹介のつもり?」

「天瀬澪」

「よし」


 ユズリはくすりと笑った。緊張が少しだけ解けたらしい。


「黒乃ユズリです。黒鉄旅団で支援を担当しています。よろしくお願いします」

「強い?」

「ええと、黒鉄の中では、まだ若手です」

「レベル、109」

「はい」

「強い」

「天瀬さんに言われると、少し困ります」

「なんで?」

「天瀬さんが特殊なので」


 ミカゲが一歩前へ出て、静かに頭を下げた。


「黒羽ミカゲ。黒鉄旅団第二攻略隊副長代理です。黒鬼種、レベル123。今回の合同探索では、前衛および撤退時の防衛線構築を担当します」

「黒鬼」

「はい」

「アカリさんと同じ?」

「系統は近いですが、戦い方は違います」


 アカリが片手を上げた。


「私は燃やして殴る方」

「私は止めて押し返す方です」

「硬いねえ」

「火野さんは柔らかすぎます」

「言うじゃん」

「褒めています」

「ならいいか」


 レンカは短く名乗った。


「鋼崎レンカ。闇エルフ種、レベル119。狙撃、暗所索敵、視界妨害。よろしく」

「弓」

「はい」

「セレスさんも弓」

「存じています」


 レンカの視線がセレスへ向く。


「五キロ先の対象を、視認なしで射抜いた記録があると聞きました」

「条件が整っていただけです」


 セレスは静かに答えた。


「条件が整っていても、普通は撃てません」

「森が教えてくれる時があります」

「第二層でも?」

「おそらく」

「……見たいです」

「機会があれば」


 レンカは小さく頷いた。対抗心と敬意が混ざった顔だった。自分も十分に異常な領域へ足を踏み入れている。けれど、その上にまだ静かに立っている者がいる。そう理解した表情だった。


 配信はすでに始まっていた。


 開始直後から、コメント欄の速度は危険なほど上がっている。ミナトは表示するコメントを絞り、危険なものを削除し、各公式アカウントの発言を上に固定していた。チャンネル《九環》は相変わらず収益設定オフ。広告は出ない。だが、視聴者数は広告つき大型イベント配信を軽く超えていた。


『黒鉄きた!』

『隊長格Lv142!?』

『黒鉄本気すぎる』

『全員二次進化済みじゃん』

『ミカゲさん黒鬼種Lv123、硬そう』

『レンカさんLv119、セレスさんとエルフ弓対決してほしい』

『エロフでムフフ』

このコメントは削除されました。

『愛兎種Lv109って何』

『かわいい顔して二次進化済み支援職』

『黒鉄美少女三人衆、強い』

『澪ちゃん開口一番うさぎは草』

『かわいいって二回言ったぞ』

『朱音さんが止めてるの平和』

『第二層七環でこのメンツ必要なの怖い』

『七環でLv100超え必須ってこと?』

『【公式】黒鉄旅団:今回の合同探索は第二層七環域の事前調査を目的としたものです。未承認の後追い探索は絶対に行わないでください』

『黒鉄公式まとも』

『【公式】アークライン配信管理部:第二層深部の座標、侵入経路、素材採取手順に関する投稿は制限対象です』

『ミナトさん今日も仕事多い』


 黒堂巌が席につくと、会議室の空気が一段重くなった。


「まず確認したい」


 黒堂の声は低かった。


「黒鉄旅団は、天瀬澪を見世物にするために今回の合同探索を申し込んだわけではない。第二層七環以降の安全基準を作るためだ。八環については、現地判断。九環には入らない」

「妥当ですね」


 神楽坂が答える。


「アークラインも、七環および八環手前の支援体制構築を目的としています。天瀬さんの九環突入は、今回の合同探索には含めません」

「本人はどう思っている」


 黒堂が澪を見る。


 澪は少し考えた。


「九環、見たい」

「正直だな」

「でも、今回は違う」

「止まれるか?」

「朱音先輩が言うなら……」

「自分では」

「……たぶん」

「たぶんか…」

「たぶん」


 黒堂は数秒、澪を見た。


「なら、七瀬朱音の役割は重要だな」

「朱音は現地へは出しません」


 黒瀬が言った。


「レベル、耐性、経験が足りない。第二層七環へ連れて行けば守る対象が増えるだけだ」

「正しい判断だ」

「本人は不満だがな」

「不満で済んでいるならまだいい。無理に出る者は死ぬ」


 朱音は静かに頭を下げた。


「分かっています。今回は留守番と帰還管理、配信遮断補助、それから個別訓練に回ります」

「悔しいか?」

「……悔しいです」

「なら、伸びる」


 黒堂はそれだけ言った。慰めではない。評価でもない。事実として述べたような声だった。


 ユズリが朱音を見て、少し身を乗り出した。


「七瀬さん、よければ今度、支援職同士で訓練しませんか。私は防壁というより、味方の恐怖反応や回避の乱れを整える方なんですけど」

「いいんですか??」

「はい。第二層へは出られなくても、帰還管理側の支援はすごく大事です。前に出る人より、後ろで待つ人の方が怖いこともあります」

「……ありがとうございます」


 朱音の表情が少しだけ和らいだ。


 澪はそれを見て、ユズリへ小さく頷いた。


「ユズリさん、いい人」

「えっ」

「かわいいし」

「あ、ありがとうございます」

恐縮と嬉しさがせめぎ合うような感情の顔だ。

「澪、初対面」

「二回目」

「まだ初対面みたいなもの」


 会議の本題に入ると、空気は一気に硬くなった。


 水瀬が第二層《呼吸する黒樹》の立体図を表示する。黒い樹海。青白い葉。銀色の樹液。雨域。七環手前の観測地点。七環内部の暫定ルート。八環との境界。赤く塗られた危険区域。資料には、何度も同じ注意が出ていた。雨に触れるな。樹液に触れるな。根の上で長く止まるな。黒い幹を傷つけた場合、周辺の根が反応する可能性がある。魔力塗装のない装備は短時間で劣化する。観測ドローンは予備を多く持て。


 黒堂が言った。


「第二層八環は、現行で攻略されている第四層中盤と同等、場合によってはそれ以上と見る」

「同意します」


 黒瀬が頷く。


「層番号だけで判断すれば事故る。七環以降は別物だ」

「第五層は?」

「全滅事件後、協会が立ち入りを禁止しています」


 佐伯が補足した。


「現時点で、第五層の攻略再開予定はありません。第五層の始めすら、人類側の安定地図に含まれていません。第四層中盤が、実質的な最前線です」

「なら、第二層八環がそこへ並ぶのは異常ではあるが、不自然ではない」

「はい。九環はさらに例外領域です」


 澪は地図をじっと見ていた。


 七環の雨域。八環の黒い滲み。九環の空白。黒い森の奥へ奥へと続く線。そこに足を踏み入れたい。見たい。触れたい。だが、前回とは違う。勝手に行くと朱音が泣く。アークラインが困る。帰る場所を作っている人たちがいる。それを理解しているから、澪は今、椅子に座っている。


「天瀬さん」


 ミカゲが言った。


「何」

「あなたが九環に入る時、私たちはおそらく同行できません」

「うん」

「ですが、七環と八環で退路を残すことはできます」

「うん」

「あなたは、その退路を使いますか」

「使う」

「本当に?」

「帰るから」

「なら、こちらも命を張れます」


 ミカゲの声は硬かった。


 澪は少しだけ目を細める。


「黒鉄、まじめ」

「まじめでなければ、黒鉄は務まりません」

「いいと思う」

「ありがとうございます」


 アカリが笑った。


「ミカゲちゃん、澪ちゃんに気に入られたね」

「判断が早すぎます」

「黒鉄、好き」

「ほら」

「……恐縮です」


 レンカは資料の隅に表示されたセレスの支援射程を見ていた。


「五キロ射撃は、第二層七環で実行する予定ですか?

「必要なら」


 セレスが答える。


「雨域で射線が曲がります」

「曲げます」

「雨粒を使って?」

「雨粒、葉、根の反射、魔力の流れ。使えるものを使います」

「……五キロ先の敵を、雨で曲げて撃つんですか」

「はい」

「おかしい」

「よく言われます」


 澪はセレスを見た。


「セレスさん、すごい」

「ありがとうございます」

「レンカさんも?」

「私は五キロは無理です」


 レンカは正直に言った。


「ただ、暗い場所なら三キロ以内の動く標的を落とせます」

「強い」

「普通はそれでも十分強いです」


 水瀬が横から言った。


「セレスさん基準にしないでください。射撃職が壊れます」

「壊れる??」

「心が」

「……大変」

「天瀬さんが言うと、やはり複雑です」


 コメント欄も同じところで荒れていた。


『五キロ先の敵を雨で曲げて撃つ???』

『セレスさん何言ってるの』

『レンカさんの三キロも普通におかしい』

『三キロで謙遜するな』

『セレス基準にすると射撃職が死ぬ』

『レンカさん闇エルフなのに常識枠なの草』

『ミカゲさんの黒鉄感いい』

『ユズリちゃんかわいいのにLv109』

『朱音さん悔しそう』

『朱音さんは個別レベリングだな』

『お留守番も大事』

『でも悔しいよな』

『澪ちゃん、ちゃんと帰れよ』

『黒鉄まじめで好感持てる』

『【公式】黒鉄旅団:第二層七環以降は、二次進化済み探索者であっても危険です。後追い探索は自殺行為です』

『黒鉄公式、言い方強くて好き』

『【公式】アークライン配信管理部:後追い探索、自殺誘導、危険素材接触を促す投稿は制限対象です』

『公式二枚看板で殴ってくる』


 合同探索の役割分担が決まっていく。


 黒鉄旅団は前衛防衛線と撤退路確保。黒堂が全体撤退判断、ミカゲが前衛固定、ユズリが恐怖反応の安定と回避誘導、レンカが暗所索敵と後方狙撃。

アークラインはセレスの超遠距離支援、アカリの前衛制圧、黒瀬の高深度判断、水瀬の解析、遥の影側警戒、ミナトの配信管理、榊原とユイカの装備観測。澪は七環で環境適応と素材反応確認。八環へ進むかどうかは現地判断。九環突入は禁止ではなく、今回の計画外。ここは佐伯が文書に明記した。


「計画外」

「はい」

「禁止じゃない」

「今回の合同探索では、です」

「なるほど」

「勝手に言葉尻を拾わないでください」

「拾ってない」

「拾いました」


 朱音が澪の袖を掴む。


「今回は九環なし」

「うん」

「七環と、必要なら八環手前」

「うん」

「相談」

「うん」

「絶対」

「うん」


 ユズリがそのやり取りを見て、少し微笑んだ。


「天瀬さん、七瀬さんの言うことは聞くんですね」

「聞く」

「理由は?」

「泣くの嫌」

「……かわいいですね」

「澪が?」

「はい」

「分かる」


 朱音が即答しそうになり、途中で口を閉じた。澪が首を傾げる。


「朱音先輩」

「何でもない」

「かわいい?」

「今は会議」

「後で?」

「後で」


 ミカゲが真面目な顔のまま、わずかに視線を逸らした。レンカは小さく咳をする。ユズリは笑いを堪えている。アカリは完全に笑っていた。セレスだけがいつも通り静かだったが、耳が少しだけ動いていた。


 会議の終わりに、黒堂が改めて言った。


「黒鉄旅団は、天瀬澪を特別扱いはしない」

「しない?」

「深層探索者として扱う。危険なら止める。必要なら頼る。無理なら撤退する。お前が九環から戻ったことは尊重するが、崇拝はしない」

「崇拝」

「されたいか」

「いらない」

「なら、ちょうどいい」

「黒鉄、好き」


 黒堂は初めて少しだけ笑った。


「それは光栄だ」


 配信終了後、黒鉄旅団の三人は少しだけ残った。


 澪はユズリの耳を見ていた。見ているだけだ。触ってはいない。朱音が隣で警戒しているからだった。ユズリは困ったように笑う。


「触りますか?」

「いいの?」

「少しだけなら」

「澪、初対面」

「でも、いいって」

「優しくね」

「うん」


 澪は指先で、ユズリの兎耳の外側をほんの少し撫でた。


「ふわふわ」

「ありがとうございます」

「朱音先輩」

「なに」

「ふわふわ」

「よかったね」

「朱音先輩も?」

「私は耳ないよ」

「羽」

「今は出さない」

「後で」

「後でね」


 ミカゲはその様子を見て、静かに言った。


「噂で聞くより、ずっと子供っぽいですね」

「失礼では」


 レンカが小声で言う。


「いえ、悪い意味ではありません。第九環から戻った存在というより、ただの少女に見える瞬間がある」

「ただの少女が三ボスを食べて帰ってきますか」

「そこが分からない」


 ミカゲは澪を見た。


「だから、現場で見ます」

「黒鉄らしいですね」


 セレスが静かに言った。


「見るまで判断しない」

「はい」

「良い姿勢です」

「セレスさんは、すでに判断しているんですか」

「天瀬さんは、危険で、綺麗なものが好きで、帰る場所を必要としている探索者です」

「……十分ですね」

「はい」


 その日の夜、黒鉄旅団との合同探索告知は大きく広がった。


 黒鉄旅団の黒堂巌、黒羽ミカゲ、鋼崎レンカ、黒乃ユズリ。全員二次進化済み。レベル一〇九から一四二。そこにアークラインの黒瀬、アカリ、セレス、遥、水瀬、澪。第二層七環の事前調査にしては、明らかに戦力が過剰だった。だが、それでも足りないかもしれない。それが第二層深部だった。


 澪は病室に戻り、朱音の持ってきた焼き菓子を食べながら言った。


「黒鉄、よかった」

「うん。いい人たちだったね」

「うさぎ、ふわふわ」

「そこ?」

「ミカゲさん、硬い」

「うん」

「レンカさん、弓」

「うん」

「セレスさん、五キロ」

「すごいね」

「朱音先輩、留守番」

「……うん」

「強くなる」

「なるよ!」

「期待してる」

「何回言うのよ」

「何回でも」


 朱音は少しだけ泣きそうな顔をして、それを隠すように笑った。


「じゃあ、何回でも頑張る」


 澪は満足そうに頷いた。


 第二層の黒い森は、まだ遠い。


 けれど、そこへ向かう人間たちの名前は、少しずつ揃い始めていた。

感じの名前とカタカタの名前が混じってるのは理由があります。


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