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九環配信の澪 〜誰も帰らない絶景を〜  作者: 妄幽
第二章

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46/122

第三十話 逆墓王①

 白鯨討伐の断片配信が途切れた後、地上側は騒ぎになった。


 討伐ログは誰にも見えていない。澪が開いたステータスも、スキルも、オーブも、地上側には映っていない。ただ、白鯨の核らしき青い光が砕けたこと、白鯨の内部構造が崩れたこと、澪が「持って帰る」と言いながら素材を拾っていたこと、そして最後に「次」と呟いたことだけが残った。それだけで、十分すぎた。


『白鯨、倒したの?』

『討伐ログ出てないから分からん』

『ログは本人にしか出ないだろ』

『でも核割ったよな』

『白鯨の中から倒したってこと?』

『意味が分からない』

『九ヶ月白鯨に飲まれて、最後に中から割った』

『言葉にすると余計分からん』

『素材拾ってたの本当に澪だった』

『帰ってこいって言ってるのに持って帰るって言った』

『澪だわ』

『次って何』

『次とか言うな』

『もう帰って』

『【公式】アークライン配信管理部:現在、白鯨内部構造崩壊後の深層干渉により映像信号を喪失しています。復旧を試行中です』

『朱音さんの声届いてたよな』

『うんって言ってた』

『それだけで生きられる』

『いや澪が生きろ』


 協会は緊急会見を開いた。


 白鯨討伐と断定はしなかった。できなかった。だが、白鯨内部構造に致命的な破壊が発生した可能性、天瀬澪が生存している可能性、白鯨由来素材が大量に発生した可能性、そして第九環の危険度がさらに上昇した可能性を発表した。どれも曖昧な言葉だった。曖昧にするしかなかった。誰も現地に行けない。誰も確認できない。第五層以降すら未踏破領域として閉ざされているこの世界で、第一層の第九環だけが常識の底を抜いている。澪だけが、その白い地獄の中を進んでいる。


 アークライン観測室では、白鯨の映像が何度も再生されていた。


 核を割る直前の澪の動き。連撃。鎖の返し。短距離転移を挟んだ角度変更。空中で身体を流し、鎌を核の内側に残したまま自分だけ位置を変える異常な支点作り。黒瀬は無言で見ていた。セレスは眉を動かさず、アカリは何度か低く息を吐いた。榊原は鎌を見ている。ユイカは白鯨素材を見ている。佐伯は外部から来る素材取引の問い合わせを、感情のない文面で拒否し続けていた。


 ミナトは、学校側回線を見た。

 朱音からの短い音声が残っている。


『次って言ったから、まだ動く。映像が戻ったらすぐ呼んで』


 それだけだった。


 泣き言はない。止めてほしいとも書いていない。ただ、次に備えている。九ヶ月の待機は、朱音から柔らかさだけを奪ったわけではなかった。柔らかい部分を残したまま、折れにくい形へ変えた。


 映像が戻ったのは、それから地上時間で九時間後だった。

 最初に映ったのは、空へ落ちる白鯨の骨だった。


 白い巨骨が、上へ向かって沈んでいく。落下しているのに、昇っている。砕けた圧膜が星屑のように広がり、その奥に逆さの墓標群があった。地面ではなく、空に墓が立っている。空ではなく、地面に夜が沈んでいる。上下の向きが、見る場所ごとに違う。白い墓標の影が水のように流れ、骨の塔が螺旋を描き、墓石の群れが王城の城壁のように並んでいた。


 その中央に、玉座があった。


 白い骨で作られた巨大な椅子。背もたれは墓標の束で、肘掛けは巨大な腕の骨。そこに、王が座っていた。十数メートルはある。番犬ほどの獣ではない。白鯨ほどの災害でもない。だが、形が人に近い分だけ、かえって気味が悪かった。頭には王冠のように折れた墓標が並び、顔の部分には暗い穴がある。胸の中央には逆さの鐘のような骨核。腕は長く、指は墓標そのもののように四角く尖っていた。


 逆墓王。


 澪は白鯨の残骸から投げ出され、逆さの墓標の側面へ鎌を掛けていた。


 身体が軽い。不自然なほど軽い。


 白鯨を倒した直後だ。魔力は削れ、右腕にはまだ痺れが残り、肺の奥には白い圧がこびりついている。だが、身体の動きだけが違った。鎌の重さが手首に残らない。鎖を引いた衝撃が肩で止まらない。背中へ抜け、腰へ落ち、膝を通って、次の動きになる。支点を作るたびに身体が壊れるのではなく、支点に合わせて身体の方が組み替わる。


 身体強化レベル10の恩恵は今までの澪の常識を塗り替えるには十分だった。


 墓標の重力が横へ変わった。澪の身体が左へ落ちる。鎖を引く。落下を止めない。止めれば肩が抜ける。流す。身体を斜めにして、鎌の支点を中心に回る。逆さの墓標へ足を置く。深く踏まない。重力が変わる前に膝を抜き、鎖へ重さを逃がす。


 王が、顔を上げた。

 それだけで、墓標王国が鳴った。

 音ではない。

 呼び出しだった。


 墓標群の根元から、白い骨の手が出た。一本、二本、十本。次に頭蓋。次に胸。鎧を着た骨兵が、墓石の下から這い出てくる。探索者の死体ではない。けれど、人の形をしていた。古い剣を持つもの。槍を持つもの。盾を持つもの。骨馬に乗った騎兵。背中に砕けた翼骨を生やした弓兵。墓標の欠片を背負った巨人兵。


 さらに、空へ伸びた墓標の上から、白い亡霊が落ちてきた。

 落ちるというより、逆さに浮き上がる。


 半透明の鎧。顔のない兜。胸に黒い穴。魂だけを墓標へ縫い止められたような兵たち。生き物の気配はない。だが、敵意はある。王の命令で動く軍勢だった。


 澪は数えなかった。

 数える意味がないほど多い。


『多い』

『多すぎる』

『アンデッド?』

『墓から出てきた』

『軍勢じゃん』

『ボス単体じゃないのかよ』

『白鯨の後にこれ?』

『澪、休ませてやれよ』

『逆墓王って名前そのまますぎる』

『【公式】黒鋼旅団:墓標兵、霊体兵、骨騎兵を確認。単独探索者が処理できる数ではありません』

『単独探索者じゃなくても無理だろ』

『これ軍隊必要では』

『軍隊出したら軍隊ごと死ぬ場所だぞ』

『終わってる』


 王が指を動かした。

 軍勢が動く。

 まず、弓兵。


 白い骨矢が空を埋めた。上からではない。右から、左から、下から、斜め後ろから。重力の向きがそれぞれ違うせいで、矢の軌道もばらばらだった。澪は鎌を投げた。墓標へ掛ける。身体を引く。矢の雨の隙間へ身体を滑らせる。三本が掠る。肩、頬、太腿。肉が裂ける。再生が追う。痛みは遠い。


 次に騎兵。


 骨馬が墓標の側面を走る。地面を蹴っていない。墓標の影を踏んでいる。正面から二騎、背後から三騎。澪は真正面の一騎を見ない。背後の三騎を先に潰す。鎖を短く持つ。先端鉤を骨馬の脚へ掛ける。引く。身体を回す。骨馬が崩れる。騎兵が落ちる。落ちた騎兵の胸へ短杭を打つ。石突きで押し込む。骨核が割れる。


 一体。すぐ次。鎌を戻す。右の騎兵が槍を突く。


 澪は槍の下へ潜る。鎌を首骨へ入れる。浅い。抜く。もう一度。二撃目。三撃目。骨のつなぎ目が緩む。膝で胸を押す。鎖を引く。首が飛ぶ。騎兵が崩れる。


 二体。背後から骨矢。転移。距離は二歩。


 矢の雨の外へ出る。出た先に盾兵がいる。盾が白い壁になる。澪は盾を斬らない。盾の下、足首。鎌を入れる。引く。盾兵が崩れる。崩れた身体を踏み台にして跳ぶ。上ではなく、横へ落ちる。鎖を返す。次の弓兵へ。


 三体。四体。五体。

 澪の連撃は、軍勢相手にも映えた。


 一撃で終わらせるのではない。削り、崩し、ずらし、次へ繋ぐ。骨兵の膝を壊し、その倒れた身体を支点にして騎兵を避け、騎兵の槍を掴んで弓兵の射線を潰し、鎌を戻す前に短杭を盾兵の骨核へ打つ。白鯨の中で覚えた、止まらない戦い方。敵が多いほど、支点も多い。危険も増える。だが、動線も増える。


『強い』

『澪、強い』

『軍勢相手に動いてる』

『今の何体倒した?』

『十はいった』

『でもまだ多い』

『減ってるように見えない』

『連撃すごいけど、数が終わってる』

『白鯨後の澪でも削り切れないだろ』

『【公式】黒鋼旅団:個体処理能力は異常ですが、軍勢の再出現速度が速すぎます』

『再出現?』

『倒したやつ戻ってない?』


 戻っていた。


 澪が砕いた骨兵の破片が、墓標の影へ吸い込まれていく。数秒後、別の墓標の根元から、同じような骨兵が出てくる。完全に同じではない。だが、軍勢としては戻っている。骨騎兵も、白い霊体兵も、崩れた端から墓標に吸われ、別の場所で形を得る。


 澪は目を細めた。


「減らない」


 正確には、減っている。だが、すぐに数が戻る。

 なら、兵を殺しても終わらない。澪は王を見る。


 逆墓王は玉座に座ったまま、まだ動いていない。胸の骨核が黒く光り、三つの墓標塔へ細い線が伸びている。右、左、背後。三本の塔が、王の軍勢を支えていた。澪はそれを見る。


 三つ。たぶん、それを壊すことで無限に湧いてくる軍団を止めれる。

 そう判断した瞬間、霊体兵が澪の横を通った。身体は避けた。

 触れていない。

 なのに、冷たさが入った。

 胸の奥。


 心臓でも、肺でも、魔力回路でもない。もっと奥。自分が自分だと分かっている中心に、細い針が入るような感覚だった。澪の足が止まる。視界が二重になる。自分の身体の位置が半歩ずれる。鎌を持っている手が、右なのか左なのか分からない。


 魂に触られた。そう理解した時に弓兵の骨矢が来る。

 澪は避けようとした。体の動きは少し遅い。身体強化レベル10に到達してなお、避けれなかった。


 矢が腹に入る。骨矢は肉を裂くだけではなかった。刺さった場所から、身体の感覚が逆になる。痛みが遠いのとは違う。位置が狂う。腹に刺さったはずなのに、背中が痛い。右脚を動かしたつもりで、左腕が動く。


 澪は鎌を地面へ打ち込んだ。その衝撃で自分の心を静める。静かに息を吐き揺れる視界を戻そうとする。

 視界の端に、文字が浮かぶ。


【魂異常耐性】NEW


 澪は読んだ。


「魂」


 すぐ次が来る。


 霊体兵が三体、すり抜けるように迫る。斬れるかどうか分からない。澪は鎌を横に振った。白い骨の刃が霊体を通る。手応えが薄い。だが、鐘骸鳥の鐘核片が刃元で震えた。音のない振動が霊体の輪郭を引っ掛ける。それあ白鯨を捕食した鎌だからなせる業だ。普通の物理攻撃では到底太刀打ちできなかっただろう。


 一体が崩れる。

 だが、二体が抜け、澪の体に冷たさが入る。

 

 その瞬間、澪は膝から崩れ落ちた。

 その隙に骨兵が槍を突く。


 澪は鎖を引いた。身体が横へ流れ、槍が肩を抜ける。肉が裂けるが再生が再開する。

 けれど、魂のずれは戻りにくい。澪の身体は強い。ステータス面では白鯨戦で圧倒的に強くなった。身体の使い方も分かる。だが、魂に触られると、すべての感覚が遠のいていく。まるで今までの努力を否定するかのように。


 観測室の空気が凍った。ミナトが数値を見る。


「魔力反応はあります。肉体損傷は再生中。ただ、動きの同期が乱れています。脳波、魔力回路、筋肉反応の順番が噛み合っていません」

「何らかの異常状態だろう。今のところ分類不能だ」


 黒瀬の声が低い。


「少なくとも、既存の精神汚染や状態異常とは違う。」

「魂干渉、ですか」

「理論上はそう呼ぶしかない。現場で見たことはない。報告例も、少なくとも俺の知る範囲にはない」


 セレスが静かに言った。


「澪さんは、なぜ耐えれているの?」

「精神汚染耐性では?」

「足りないでしょう。系統が違います」


 アカリが拳を握った。


「私たちが戦えば全滅だね」

「……ッ、それは」


 誰も、それ以上言えなかった。


 第五層の始めすら人類の地図にない。まして、この第九環の奥で起きている現象に、誰かの確かな経験則などあてにならない。観測できる。推測できる。だが、助けには行けない。名前をつけることと、対処できることは別だった。


 画面の中で、澪は立ち上がった。

 右手を見た。

 動く。

 左手を見る。

 少し遅い。

 足を見る。

 位置がずれている。

 澪は自分の胸を、鎌の柄で強く打った。


 一度。

 二度。

 三度。


 痛みは遠い。

 だが、衝撃はある。


 胸の中心。骨。心臓。呼吸。自分の内側。そこへ意識を戻す。魂が何なのか、澪には分からない。ただ、自分の身体はここにある。鎌を握っているのはこの手。立っているのはこの足。痛いのはこの身体。なら、ここへ戻る。


 霊体兵が来る。澪は逃げない。鎌を構える腕に力が入る。


 霊体兵が通る直前、澪は鎌を振らず、鎖を鳴らした。鐘骸鳥の鐘核片が、鎖の中でごく小さく震える。音は外へ出ない。だが、霊体兵の輪郭がわずかに乱れる。そこへ鎌を入れる。浅い。もう一度。二撃目。輪郭が裂ける。三撃目で、霊体兵が崩れた。


 切れる。

 完全ではないが、切れる。

 澪は顔を上げ少し口角が上がる。


 三本の墓標塔。


 まず、右。

 そこへ行く。


 王が指を動かすと軍勢が澪の道を塞ぐ。


 澪は走らない。落ちる。鎖を掛け、墓標を蹴る。空中を滑るように移動する。時折不自然に方向を変更させなら進んでいく。

 骨兵を斬る。騎兵を崩す。霊体兵を鎖の振動で乱し、鎌で裂く。痛みは遠い。魂のずれは残る。だが、少しずつ戻し方を覚える。


【魂異常耐性】Lv2


 澪の視界に文字が浮かぶ。見る暇はない。右の墓標塔が近づく。


 塔の根元に、白い巨人兵が三体いた。墓標を背負った骨巨人。高さは四メートルほど。手には棺のような盾。胸には黒い墓標核。普通の骨兵とは違う。倒してもすぐ戻る側ではない。塔を守る番兵。


 澪は鎌を握り直した。


「邪魔」


 巨人兵が盾を上げる。澪は正面から行かない。


 鎖を塔の側面へ掛ける。身体を引く。上へ落ちる。巨人兵の盾の上へ着く。重力が下へ変わる。澪は膝を抜き、盾の上を滑る。鎌を巨人兵の首へ入れる。浅い。すぐ抜く。二撃目。三撃目。巨人兵の首の骨が削れる。巨人兵が手を伸ばす。澪はその手へ短杭を打つ。石突き。爆ぜる。指が飛ぶ。


 二体目が盾で澪を潰そうとする。澪は転移する。


 転移先は盾の裏側。


 鎌を盾の持ち手へ入れる。鎖を巻く。引く。盾がずれる。ずれた隙間に、白鯨の黒圧骨片を投げ込み巨人兵の姿勢が崩れる。澪はその膝へ鎌を入れた。


 巨人兵が倒れる。倒れる方向の力を澪は使う。

 巨体が落ちる。墓標塔へぶつかる。塔が揺れる。澪はその揺れへ合わせて、塔の根元へ鎌を打ち込んだ。


 一撃。

 二撃。

 三撃。


 塔は折れない。


 王の胸骨核から黒い線が伸び、塔を補強している。澪はその線を見た。魔力線ではない。魂の線に近い。触れると冷たい。嫌な感じがする。けれど、切らないと塔は折れない。


 霊体兵が背後から来る。澪は振り向かない。

 左手で短杭を投げるが外れる。魂のずれがまだ残っているようだ。


 短杭は霊体兵の横を通り、墓標へ刺さる。

 だが、それでもいい。


 澪は短杭を支点に転移した。霊体兵の背後へ出る。鎌を振る。霊体の輪郭を裂く。戻る。塔の黒い線へ鎌を入れる。


 恐ろしく体が冷える。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。冷たい。


 鎌を通じて、澪の内側へ何かが入ってくる。知らない死者の声。見たことのない風景。誰かの絶望を凝縮した記憶。それ以外にも様々な感情や映像が澪を襲う。


 澪は歯を食いしばった。


「知らない」


 そういって澪は鎌を引く。黒い線が一本、切れた。

 塔の根元が白く割れ、右の墓標塔が傾いた。


 逆墓王が、初めて玉座から身を乗り出した。その瞬間、王冠の墓標が鳴る。


 軍勢の動きが変わる。


 骨兵が澪を見る。霊体兵が澪を見る。巨人兵が崩れた身体を起こす。墓標の影から、さらに別の兵が這い出してくる。今までより濃い。魂のずれが強い。右の塔を壊されかけたことで、王が本気でこちらを見た。


 澪は右の塔の根元に鎌を掛けたまま、息を吐いた。


 一本目。


 まだ、折れていない。


 あと少し。


 だが、軍勢が迫っている。


 配信映像が乱れ始めた。


『塔を狙ってる?』

『右の塔、揺れた』

『あれ壊せば軍勢止まる?』

『たぶん』

『でもまだ三本ある』

『一本目でこれかよ』

『澪、動き戻ってきた?』

『澪ちゃんに切り刻まれたい』

このコメントは削除されました。

『澪ちゃんの服がボロボロでエッッッ』

このコメントは削除されました。

『でも霊体斬れるようになってる』

『【公式】黒鋼旅団:墓標塔が軍勢再生成の支点と思われます。破壊できれば戦況が変わる可能性があります』

『黒鋼が攻略情報出してる』

『澪に届くの?』

『届かない』

『でも見てるしかない』


 朱音は学校側の画面を見ていた。槍を握る手が白くなる。

 澪は強くなった。間違いなく、強くなった。


 白鯨の前とは別人のように動いている。だが、簡単ではない。逆墓王は肉体の強さだけで倒せる相手ではなかった。軍勢を出し、魂をずらし、塔で兵を戻し、玉座から領域を維持する。白鯨とは違う。鐘骸鳥とも違う。これは、王の戦い方だった。


 朱音はマイクを握った。


『澪』


 ミナトが拾う。優先同期。


『見てる。塔、右から崩してる。合ってると思う』


 届くかは分からない。

 だが、澪の口元がわずかに動いた。


「うん」


 澪は鎌を引いた。

 右の墓標塔へ、最後の連撃を入れる。


 一撃。

 二撃。

 三撃。

 四撃。


連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。高速で振るう鎌は常人では目で追うことさえできなくなっていた。


 黒い線がもう一本切れる。

 塔が大きく傾く。


 逆墓王が腕を上げた。

 王国の重力が、すべて澪へ向いた。


 右の塔も、骨兵も、霊体兵も、砕けた白鯨の骨も、墓標の雨も、全部が澪へ落ちてくる。


 澪は逃げなかった。

 逃げれば塔が戻る。そう直感した。


 鎌を塔へ深く入れる。

 鎖を身体へ巻く。


 身体強化Lv10の身体が、衝撃の通り道を探す。背中、腰、膝、足。足場はない。なら、鎖へ逃がす。鎖から塔へ。塔から墓標へ。墓標から王国へ。押し潰される力を、塔を折る力に変える。


 魂がずれ、骨が鳴る。

 澪は歯を食いしばる。


「折れろ」


 右の墓標塔が、根元から砕けた。

 同時に、配信映像が白く弾けた。


 暗転。


『深層干渉により映像信号を喪失しました。復旧を試行しています。』


 観測室に、短い沈黙が落ちた。

 ミナトが震える指で記録を保存する。


「右塔、破壊確認。軍勢再生成支点の一つを破壊。天瀬澪さん、戦闘継続中」


 黒瀬は画面を見たまま言った。


「あと二本か」


 誰も答えなかった。

 逆墓王の戦いは、まだ始まったばかりだった。


新しいボスとの開幕戦です。


誰も読まないだろうから1日1投稿にします。週末はなるべく投稿します。

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