第二十二話 鎌は生きている。
配信が途切れてから、地上では三日が過ぎていた。
けれど、澪にとってその三日がどれほどの長さだったのかは、誰にも分からなかった。断片配信で映った四十二秒の中に、答えはなかった。髪は乱れ、装備は変わり、鎌には鐘骸鳥の骨質らしき白い欠片が増えていた。だが、それが澪にとって数時間の変化なのか、数日分の変化なのか、あるいはもっと長い時間の結果なのか、地上の観測だけでは測れない。第九環の時間差は本来、そこまで大きいものではない。けれど今、澪が閉じ込められているのは通常の第九環ではなかった。鐘骸鳥の領域、帰還阻害、墓標群の反響、空膜のずれ。それらが重なった特殊な場所だった。
アークラインの観測室では、断片映像が何度も再生されていた。
朱音は画面の前に座っている。制服ではなく、アークラインから貸与された帰還管理補助用の黒いジャケットを着ていた。学校には行っている。授業も受けている。だが、放課後になるとそのままアークラインへ向かい、夜遅くまで断片映像を見る。家族は止めなかった。止めて休む人間なら、最初からここにいない。
ミナトが映像を一時停止した。
「ここです。澪さんが短距離転移した直後、鎌の鎖が先に動いています」
「澪が投げたんじゃないの?」
「投げる前に、根元がわずかに浮いています。自律挙動と断定するには早いですが、使用者の魔力反応より〇・二秒早い」
「〇・二秒」
「戦闘では、かなり大きいです」
画面の中で、澪は墓標の影から別の影へ移る。次の瞬間、鎖が白い地面を走り、先端鉤が墓標の根元へ掛かる。映像は荒れているが、確かに鎖の方が澪の腕より早く動き始めていた。澪が命じたのか、鎌が勝手に補助したのか。その境目はまだ分からない。
榊原は腕を組み、画面ではなく測定ログを見ていた。
「第一改修型は、自動修復機構を意図して組んだわけではありません」
「でも、実際に直ってますよね」
「直っている、というより、破損部に適合素材を取り込んで、構造を変えています。修復と進化の中間です」
「主任、それを一般的には成長武器って言うんじゃないですか」
「言いません。言いたくありません。言った瞬間、法務と管理部と開発部の仕事が増えます」
「もう増えてます」
「黙りなさい、ユイカ」
ユイカは黙らなかった。端末を両手で抱え、目を輝かせたまま続ける。
「鐘骸鳥の骨片を取り込んだ後、鎌の振動ノイズが変わっています。鐘の音を消しているわけではなく、鐘が作るずれの癖を記録しているように見えます。つまり、一回刃を重ねるごとに敵の領域反応を覚えている可能性があります」
「可能性、です」
「はい。可能性です。でも可能性としては最高です」
「最悪でもあります。敵の特性を取り込む武器など、扱いを間違えれば使用者ごと変質します」
「澪さんなら?」
「だから怖いのです」
朱音が顔を上げた。
「澪に合いすぎてるから?」
「はい」
榊原は短く答えた。
「天瀬さんは、普通なら撤退する損傷を許容して前へ出ます。鎌も、損傷をただの破損として扱わず、素材と接触経験を取り込んで変質している。使用者と武器の思想が似すぎています」
「思想」
「壊れても、戻る。戻る時に、相手の性質を持ち帰る。そういう武器になりつつあります」
朱音は画面の中の澪を見た。
不死身ではない。澪は死ぬ。間違えれば死ぬ。けれど、死なない限り戻る。傷を塞ぎ、痛みを飲み込み、次の一手を選ぶ。今の鎌は、その澪に寄っていっている。壊れるたびに直る。直るたびに、敵を覚える。そんなものが澪の手に馴染んでいくことが、心強くもあり、怖くもあった。
黒瀬が低く言った。
「使えるなら使うしかない。九環で綺麗な武器を振っても死ぬだけだ」
「分かってます」
「問題は、鎌の成長速度に澪が引っ張られることだ。武器が耐えるなら、本人はもっと無理をする」
朱音は答えられなかった。
その時、ミナトの端末が短く鳴った。
「断片信号、来ます。今度は短い。十秒前後」
観測室の空気が一瞬で張り詰める。
黒い画面に、白い光が走った。
映像が戻る。
そこは、空葬原の中でもさらに奥まった墓標群だった。以前よりも青が濃い。白い地面は鏡のように滑らかで、そこに無数の星が映っている。空は裂けているのに、美しい。まるで夜空が足元にも広がり、澪が星の墓場を走っているようだった。コメント欄が一瞬遅れて流れ出す。
『繋がった!?』
『また来た!』
『今度どこだよ』
『綺麗すぎる』
『綺麗とか言ってる場合じゃない』
『いやでも綺麗だろこれは』
『澪どこ』
『いた!』
『装備さらに変わってない?』
『鎌、白い部分増えてる』
『生きてるだけで偉い』
『もう偉いとかいう次元じゃない』
澪は走っていなかった。
立っていた。
目の前には鐘骸鳥がいる。距離は近い。翼を広げれば、澪の上空を覆えるほどの距離。鐘骸鳥の胸の鐘核は、以前よりも欠けていた。右の翼端も、何枚かの骨膜が失われている。その代わり、周囲の墓標群は鳥の音を受けて青白く震え、領域そのものが鐘骸鳥の身体の延長になっていた。
澪は鎌を低く構えていた。
鎌の刃元には白い線が増えている。亀裂を埋めた鐘骸鳥の骨質が、刃の内側へ細く伸びていた。鎖の根元には、小さな鐘骨片が結ばれている。揺れても音は鳴らない。音を殺すための鈴のように、周囲の残響だけを吸って震えている。
鐘骸鳥が鳴いた。
澪は短距離《転移》を使わなかった。
左へ一歩。止まる。鎌を地面へ置く。鐘が作る距離の伸びを、鎌の刃元で受ける。刃が白く震え、澪の手首が少し沈む。だが、以前のように空間ごと押し潰されない。鎌が、鐘のずれを完全ではないが受け止めている。
澪が呟いた。
「覚えた」
次の瞬間、映像は途切れた。
観測室では、誰もすぐには喋らなかった。
ミナトが震える息を吐く。
「復旧時間、十二秒。映像、音声ともに保存。澪さんの発言、『覚えた』」
「鎌のことですか」
「おそらく。鐘の距離干渉を、鎌で受けています」
「受けられるようになったのかい?」
アカリの声には、わずかな熱が戻っていた。
「完全ではありません」
セレスが答える。
「ですが、一度目は避けるしかなかったものを、今は受けています。防いだのではなく、ずらされる方向を読んで、鎌を置いた。澪さん自身の感覚と、鎌の変質が噛み合い始めています」
「噛み合い、ですか」
「ええ。危険なほどに」
朱音は唇を結んだ。
ミナトはコメント欄を処理しながら、次々と危険ワードを削除していく。
『覚えたって何』
『鎌が覚えた?』
『チート武器すぎる』
『でもそのチート武器でも帰れないんだぞ』
『鐘骸鳥の翼欠けてなかった?』
『三日で削ってるのやばい』
『澪側の三日じゃないかもしれない』
『これ契約どうなるの?』
『契約とか言ってる場合か』
『アークラインは切れないだろ』
『切ったら燃える』
『燃える以前に素材と鎌が国家級だぞ』
『最近コメント欄に業者っぽい奴いるな』
『素材の話する奴、今だけ黙れ』
『澪ちゃんの鎌に認知されたい』
『↑意味分からんしキモい』
『ミナトさん消して』
『消えた』
『仕事早い』
佐伯は画面横で、新しい文書を開いた。
「契約保留文言を詰めます。本人の意思確認不能、探索継続の断片記録あり、帰還不能事案継続中。仮契約期間内に本人の帰還がない場合でも、契約終了判断は本人帰還または死亡確認まで保留」
「死亡確認という言葉を朱音の前で使うな」
黒瀬が低く言った。
佐伯は一瞬だけ朱音を見た。
「すみません。法務上の用語でした」
「いいです。必要なら使ってください」
朱音は画面を見たまま言った。
「でも、澪は生きてます」
「はい」
「次に繋がったら、また見ます」
「はい」
声は静かだった。震えてはいた。けれど、折れてはいなかった。
その頃、澪は白い墓標の影で膝をついていた。
配信が繋がったことには気づいていない。気づく余裕もない。鎌を地面へ突き、肩で息をしている。鐘骸鳥との戦闘は、勝つための戦闘ではなくなっていた。最初は領域の外へ出るためだった。次に、帰還阻害の支点を壊すためになった。今は、鐘骸鳥そのものを削らなければ領域がほどけないと分かっている。
三つ目を折った。
鐘骸鳥の領域を支えている墓標鐘のうち、三本目。正確に言えば、墓標の内側にある音の芯を壊した。外見上はただの墓標だ。だが、鐘骸鳥が領域を鳴らすたび、その芯が帰還札の術式音を歪ませている。澪は三日かけて、それを見つけた。三本折った。まだ残っている。数は分からない。だが、折るたびに鐘骸鳥の位置が少しだけ安定する。
代わりに、鐘骸鳥も学んでいた。
澪が音を捨てれば、振動を潰す。振動を捨てれば、視界をずらす。視界を捨てれば、空間を伸ばす。空間を読むと、墓標群そのものを動かす。澪が対策を作るたび、鐘骸鳥はその対策を汚す。単純な力ではない。戦い方を殺してくる敵だった。
澪は右手を開いた。
指先が少し震えている。短距離《転移》を使いすぎた。長距離どころではない。今は五メートル先へ飛ぶことさえ、座標を見誤れば命取りになる。けれど、使わなければ死んでいた場面は何度もあった。
視界の端に、薄い表示が浮かぶ。
【スキル《転移》の熟練度が一定値に到達しました】
【《転移》Lv2 → Lv3】
澪は表示を見た。
「少し、伸びた」
嬉しさはない。いや、あるのかもしれない。だが、それより先に必要かどうかを考える。Lv3。長距離帰還には届かない。領域外へ飛ぶにも足りない。だが、戦闘中の半歩、一歩、三歩の精度は上がる。移動後の魔力回路の揺れも少し減る。今の澪には、それだけで価値があった。
続けて、別の表示が浮かぶ。
【スキル《空間把握》の熟練度が一定値に到達しました】
【《空間把握》Lv4 → Lv5】
澪はゆっくり息を吐いた。
見えるものが増えたわけではない。だが、ずれているものを「ずれている」と分かる感覚が少しだけ強くなった。鐘骸鳥の作った偽の距離と、本来の墓標の位置。その差が、前よりもわずかに輪郭を持つ。
鐘骸鳥が遠くで翼を揺らした。
澪は立ち上がる。
休む時間はない。休みすぎると、墓標の配置が変わる。変われば、三日かけて覚えた領域の癖が崩れる。澪は鎌を持ち上げ、刃元に指を当てた。鐘骸鳥の骨質を取り込んだ部分が、薄く冷たかった。まるで、まだ足りないと言っているみたいだった。
「食べたい?」
言ってから、澪は首を傾げた。
鎌は喋らない。だが、刃の重さが少しだけ鐘骸鳥の方へ寄った。欲しがっているのか、必要な方向を示しているのか、澪にはまだ分からない。けれど、これがただの道具ではなくなり始めていることだけは分かった。
「分かった」
澪は墓標の影から出た。
空葬原は相変わらず美しい。白い大地、青い空膜、星を沈めたような墓標群。そこに鐘骸鳥が舞うと、景色はさらに幻想的になる。神話の一場面のようだった。けれど、その美しさの中で澪は何度も死にかけ、何度も戻り、少しずつ敵の仕組みを剥がしている。
鐘骸鳥が鳴く。
澪は転移した。
以前よりも、少しだけ正確だった。墓標の影から影へ。移動先の足場がずれる前に、鎌を低く振るう。刃は鳥の翼へ届かない。だが、翼ではなく、翼が鳴らしている空膜の支点へ入る。硬い。弾かれる。澪の手首に痛みが走る。けれど、刃元の白い線が震え、今度は弾かれた方向を覚える。
もう一度。
澪は鎖を短く持ち替え、墓標の間を滑る。鐘が鳴る。音は聞かない。空膜がどちらへ引かれるかだけを見る。《空間把握》が上がったことで、ほんの一瞬だけ、歪みの輪郭が見えた。そこへ先端鉤を掛ける。地形ではない。敵本体でもない。空膜の薄い場所。普通なら掛からない場所へ、鎌の先が一瞬だけ留まった。
鎌が重くなる。
澪は引かなかった。引けば腕が飛ぶ。代わりに、その重さを支点にして身体を横へ流す。鐘骸鳥の距離干渉が、澪の背後を通り抜ける。白い地面が、静かに消える。
澪は生きている。
それだけで、次の一手がある。
鐘骸鳥の胸の鐘核が揺れた。今までと違う音がした。怒りか、警戒か、あるいは領域が削られていることへの反応か。澪には分からない。だが、初めて鐘骸鳥が待つのをやめた。
鳥が降りてきた。
巨大な骨翼が、空葬原の青白い光を遮る。美しい羽根の一枚一枚が刃のように薄く、空膜を裂きながら落ちてくる。澪は上を見ない。見上げると距離が狂う。足元を見る。影を見る。影が伸びる方向を見る。鐘骸鳥本体は見えている場所にはいない。けれど、影だけは少し遅れて本物に追いつく。
澪は転移を使った。
今度は上ではなく、鳥の落下位置の内側へ。危険な場所。だが、外側へ逃げると翼に潰される。内側なら、胸の空洞へ一瞬だけ入れる可能性がある。
視界が白く切れる。
次の瞬間、澪は鐘骸鳥の真下にいた。
胸の鐘核が見えた。遠い。だが、以前より近い。鎌を振るうにはまだ足りない。短剣では届かない。鎖を伸ばせば、距離をずらされる。澪は、折った墓標鐘から削り取った小さな白い破片を投げた。
ただの投擲ではない。破片には鐘骸鳥の領域反応が残っている。澪が三日間で削った支点の欠片。鐘骸鳥の鐘核が、それに反応して一瞬だけ揺れた。
その一瞬で、澪は鎌を入れた。
刃は鐘核には届かない。胸郭の内側の白い骨に当たる。硬い。腕が痺れる。だが、刃元が反応する。鐘骸鳥の骨質を取り込んだ鎌が、同じ性質の骨へわずかに深く入る。
特攻。
そんな言葉が澪の頭に浮かんだわけではない。ただ、一度覚えた敵には入りやすくなる。そう理解した。刃を重ねるたび、鎌は相手を覚える。破損部に素材を入れ、刃先に反応を残し、次の一撃で少しだけ深く入る。ボスを殺すための武器。澪と同じように、何度も死にかけながら相手へ近づく武器。
鐘骸鳥が鳴いた。
近すぎる。
音が澪の内側へ入る。耳ではない。骨でもない。魔力回路の中へ鐘が響く。短距離《転移》の座標がぐしゃりと潰れた。逃げる方向が消える。澪は迷わず、鎌を手放した。
鎌は胸郭に刺さったまま残る。
澪の身体が落ちる。
落下中、鎖だけが澪の手首に絡んでいる。鐘骸鳥が上昇すれば、澪は空へ引き上げられる。墓標へ叩きつけられるかもしれない。だが、鎌を手放さなければ、その場で鐘の中へ潰されていた。
澪は鎖を伝って、鎌へ魔力を流した。
刃元が震える。
鐘骸鳥の骨質を取り込んだ白い線が、胸郭の内側で淡く光る。鎌が、そこにある敵の性質をさらに拾おうとしている。澪の魔力を使って。澪の痛みを通して。
腕が熱い。
頭が割れそうになる。
視界が白く染まる。
それでも、澪は鎖を離さなかった。
「覚えろ」
鎌が、音もなく震えた。
その瞬間、配信が再び繋がった。
地上側では、それは二度目の断片配信だった。時間にして二十一秒。映ったのは、鐘骸鳥の胸郭に鎌を刺したまま落下する澪と、鎖を通じて白い光を流す姿だった。
コメント欄が一瞬で壊れた。
『また繋がった!』
『なにしてんの!?』
『胸の中に鎌刺さってる!?』
『落ちてる落ちてる落ちてる』
『鎖離せ!』
『いや離したら終わるだろ』
『澪が鎌に何か流してる』
『鎌光ってる』
『これ武器が敵を吸ってない?』
『チート武器じゃん』
『チート武器でも状況が地獄なんだよ』
『綺麗なのに怖すぎる』
『澪ちゃんの顔やばい』
『今だけ変なコメントするなよ』
『朱音さん見てる?』
『見てるなら止めてくれ』
『止められる距離じゃねえよ』
『生きろ』
朱音は立ち上がっていた。
「澪、鎖を切って! それ以上流したら持っていかれる!」
声は届いたか分からない。
配信の中で、澪の目がわずかに動く。聞こえたのかもしれない。聞こえていないのかもしれない。澪は鎖を握ったまま、左手で腰の骨杭を抜いた。落下しながら、足元の墓標へ杭を投げる。杭が白い地面へ刺さり、青白い輪を広げる。座標の目印。朱音に言われたことを、まだ覚えていた。
次の瞬間、澪は鎖を切った。
身体が落ちる。
短距離《転移》。
墓標杭の影へ、ぎりぎりでずれる。着地ではない。落下の向きを変えただけ。澪は白い地面を転がり、肩から墓標へぶつかった。骨が軋む。肺の空気が抜ける。だが、身体は残った。
空骨鎖鎌は一瞬遅れて戻ってきた。
鐘骸鳥の胸郭から引き抜かれた刃は、以前より白い線が増えていた。鎖が澪の手元へ滑り、柄が掌へ戻る。自動で戻ったのか、澪が無意識に引いたのか、配信映像では分からない。
映像はそこで途切れた。
観測室に、再び暗い画面が残る。
ミナトの声が震えた。
「断片配信、二十一秒。保存完了。澪さん、生存。鎌、鐘骸鳥胸郭内で追加同化反応。短距離転移、使用精度上昇。骨杭座標を利用しています」
「スキルが伸びてる」
朱音は画面を見たまま言った。
「前より、転移の戻りが早い」
「はい。おそらく、戦闘中に熟練度が上がっています」
「澪、また無茶してる」
「はい」
「でも、生きてる」
「はい」
ミナトはそれ以上言わなかった。
黒瀬は、保存された映像をもう一度見ていた。鎌が敵を覚える。澪が転移を伸ばす。鐘骸鳥が領域を変える。戦いは終わりに近づいているのではない。むしろ、ここから本当に始まるのだと分かった。
アカリが低く笑った。
「とんでもないね。あの子も、あの鎌も」
「笑える状況ですか」
「笑わなきゃ、見てられないだろ」
セレスは静かに言った。
「澪さんは、逃げながら倒す準備をしています」
「倒せると思うか」
「分かりません。ですが、鐘骸鳥ももう待つだけではなくなった。澪さんを危険と認識したのでしょう」
「ボスに認識されたか」
「ええ」
黒瀬は画面から目を離さず、短く呟いた。
「なら、次は本気で殺しに来る」
その言葉の通り、空葬原の奥で鐘骸鳥は翼を閉じた。
澪は墓標の影で、鎌を抱えるように座っていた。呼吸は浅い。右肩はまだ動きが悪い。魔力回路は熱を持ち、短距離《転移》を続ければ、次は座標を見失うかもしれない。だが、鎌は少し変わった。鐘骸鳥の音を、距離を、骨の硬さを、少しだけ覚えた。
澪は刃元を見た。
白い線が、まるで小さな羽根の骨のように浮いている。
「まだ、足りない」
鎌は答えない。
けれど、澪の手の中で、ほんの少しだけ重さの向きを変えた。
鐘骸鳥の方へ。
澪は立ち上がった。
怖い。痛い。帰れない。外側の声は途切れる。配信も切れる。地上がどうなっているのかも分からない。
でも、鐘骸鳥ももう待ってはいない。
なら、次はこちらが削る番だった。
成長武器はロマンがありますね




