表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九環配信の澪 〜誰も帰らない絶景を〜  作者: 妄幽
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/30

第十話 記録に残った白い空

 翌朝、澪は七瀬家の玄関で靴紐を結びながら、結衣に渡された小さな布袋を見ていた。中には飴と、個包装の焼き菓子が三つ入っている。昨日の話を聞いたあと、結衣はしばらく黙っていたが、朝になるといつもより早く起きて、何も言わずにそれを差し出してきた。


「穴蔵用じゃないけど」

「うん」

「今はちゃんと食べられるもの持っていって」

「分かった」

「分かっただけじゃなくて、食べて」

「食べる」


 結衣はまだ少し疑っている顔をしていた。澪は布袋をリュックに入れ、玄関の隅に置いてあった帰る鈴を確かめる。鈴は小さい。音も大きくない。けれど、昨日の夜に鳴った時、その音はきちんとリビングへ届いた。九環の遅れて戻ってくる音とは違う。ここで鳴れば、ここで鳴る音だった。


 朱音は制服ではなく、探索者協会へ行く時の軽装を着ていた。肩の包帯は薄いものに変わっている。まだ戦闘には使えないが、歩く分には問題ない。本人は平気な顔をしているが、母に何度も釘を刺されていた。


「肩を上げない」

「分かってる」

「走らない」

「走らない」

「澪ちゃんが何かしそうになったら、止める前に大人を呼ぶ」

「それは分かってるけど、私の扱いも一緒に悪くなってない?」

「朱音は止めようとして一緒に突っ込むことがあるから」


 朱音は言い返そうとして、少しだけ口を開けた。だが、たぶん思い当たることがあったのだろう。何も言わずに靴を履いた。


 澪は母に小さく頭を下げた。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい。帰ってきたら、お昼は温かいものにしましょう」

「うん」


 その短いやり取りだけで、朱音の母はそれ以上何も聞かなかった。昨日の夜、澪がどんな話をしたのか、どこまで理解したのかは分からない。ただ、食べるものと帰る場所を用意する人の顔をしていた。


 探索者協会の記録解析室は、通常の受付フロアより奥にあった。白い壁、厚いガラス、入退室管理のゲート。廊下には協会職員のほかに、装備メーカーの担当者や医療班らしい人間も歩いている。澪が来ると、何人かが足を止めた。見られている。隠す気もない視線だった。昨日の高額査定と、九環の話と、封鎖庫で反応した空骨鎖鎌。噂になる材料は多すぎる。


 水瀬蓮は解析室の前で待っていた。片手にタブレット、もう片方に紙の資料を持っている。相変わらず、同じ内容を二種類の媒体で持っている人だった。眼鏡の奥の目は寝不足らしく、少し赤い。


「おはようございます、天瀬さん、七瀬さん」

「おはよう」

「おはようございます。水瀬さん、寝てます?」

「三時間ほど」

「寝てない人の数字ですね」

「記録が起きたので、こちらも起きる必要がありました」


 澪は首を傾げた。


「記録が起きた?」

「昨日のあなたの言い方を借りれば、です。封鎖庫の空骨鎖鎌に反応があり、それと同時刻に、過去の配信断片が一部復元されました」

「復元?」

「第九環帰還時の映像です」


 朱音の表情が変わった。澪は少しだけ目を細めた。帰還時の映像。割れた端末。白いノイズ。協会の床。番犬の骨を絡めた鎖。澪自身は、その時ほとんど意識がなかった。何が映っていたのか知らない。


 水瀬はカードキーで扉を開けた。


「久遠先生と藤堂先生も中です。協会側の解析主任も同席しています。映像は外部には出していません。ただし、昨日の反応で断片の存在そのものは一部の上位権限者に通知されています」

「上位権限者?」

「協会幹部、認定研究機関、大手クランの緊急監視部門です」

「なんでクランまで」

「九環級異常反応は、国内防衛に関わる可能性があるためです。建前上は」

「本音は?」

「天瀬さんを見つけたがっています」


 朱音が眉を寄せた。


「早すぎませんか」

「遅いくらいです。九環から単独帰還した学生探索者。しかも、帰還時点の推定レベルが六十四。存在進化済み。未分類種族。未登録スキル《転移》。加えて、昨日の第六環外縁戦闘で素材価値五千万円超。これで静かな方がおかしい」


 澪は資料よりも、解析室の奥に置かれた黒いケースを見ていた。封鎖庫から移されたのだろう。ケースの中央に、青白い警告灯がついている。中にあるものは見えない。だが、分かった。空骨鎖鎌が入っている。


「近い」

「分かりますか」

「うん。鎌がこっち見てる」

「比喩ですか?」

「たぶん」


 解析室の中には、久遠玲司と藤堂教諭がいた。久遠は腕を組んで壁際に立っている。藤堂は黒いケースの横で、計測器をいくつも並べていた。二人とも、朝から顔が怖い。もともと怖いが、今日は特に怖い。


 久遠が口を開いた。


「天瀬。昨日、番犬の話をしたそうだな」

「少し」

「今日は少しでは済まん。記録と照合する」

「うん」

「嫌なら止める。だが、止めた場合、九環再走の許可はまず出ない」

「話す」


 藤堂が黒いケースを軽く叩いた。


「こいつも暴れかけた。正確には、内部の空膜反応が一瞬だけ跳ねた。お前が第六環で戦った時刻と一致している。武器が持ち主の戦闘に反応した可能性がある」

「持ち主?」

「お前以外が持てるかどうかも怪しい。だから、正式加工前に性質を確認する必要がある。ついでに言うと、加工費は馬鹿みたいに高い」

「いくら?」

「今の査定額くらいなら、下処理で消える」

「じゃあ、もっと稼ぐ」

「そう言うと思った」


 久遠が深く息を吐いた。


「だから九環か」

「うん」

「第八環では駄目か」

「足りない」

「第二層では」

「違う素材がいる。鎌に合うのは九環」

「朱音は連れていけんぞ」

「分かってる」


 朱音は何も言わなかった。昨日なら、ここで何か言っていたかもしれない。無理だとか、危ないとか、考え直してとか。だが、番犬の話を聞いた後では、言葉の出し方が変わる。止めたい気持ちはある。それでも、澪が何を必要としているのかも分かってしまった。


 水瀬が照明を少し落とし、壁の大型モニターを起動した。最初に映ったのは白いノイズだった。音はない。ただ、画面の奥に白と群青が混ざっている。九環の空だ。澪の指が、リュックの肩紐を少し強く握った。


「これは帰還直前、約十一秒間の断片です。ノイズ除去後、見える部分を補正しています。補正なしでも本質は変わりません」


 画面が揺れた。


 白い地面。割れた墓標。倒れている巨大な何か。最初は地形に見える。だが、違う。骨だ。肋骨のような柱が、遠くまで並んでいる。一本一本が建物のように大きい。その中央で、青白い光が薄れていく。画面の端に、澪の手が映った。血と白い粉にまみれた指が、何かへ伸びている。腕の傷口では、肉が戻り始めていた。皮膚の下で魔力が薄く光り、裂けた部分が閉じていく。映像の澪は、ほとんど動けていない。


 朱音が息を止めた。


 映像の中央で、丸い光が割れた。オーブだった。白と青が混ざり、表面に細い裂け目が走っている。普通のスキルオーブを知っている者なら、異常だと分かる。だが、当時の澪は普通のオーブなど見たことがない。九環のボスが落とすものなら、そういうものだと思った。


 画面の向こうで澪がスキルオーブを使用した。


 その瞬間、映像が大きく乱れた。白い空が折れる。画面の端で、番犬の残骸が沈む。澪の手が鎖を掴む。鎖の先には、番犬の胸から砕けたと思われる白い骨が絡んでいた。


画面が暗転した。

 協会の帰還管理区画にボロ布を纏った澪と、澪に抱きつく朱音。


 そこで映像は終わった。

 誰もすぐには喋らなかった。

 藤堂が先に口を開いた。


「これで、番犬の骨だとほぼ確定した」

「ほぼ?」

「完全確定には比較対象がいる。だが、そんなものは普通ない。空葬原の主級個体、それも胸部中核周辺の骨片。そう考えるのが一番自然だ」

「使える?」

「加工できればな。加工できれば、だ。普通の工房なら、触る前に設備が死ぬ」

「藤堂先生なら?」

「俺一人なら無理だ。協会封鎖工房と、白楼工房クラスの素材班、それに九環反応を扱える研究者が要る」


 水瀬がタブレットを操作した。


「その白楼工房から、昨夜の時点で問い合わせが来ています。素材提供、無償解析、優先加工枠の提示。ただし、条件付きです」

「条件?」

「天瀬さんの戦闘データの共有と、所属先未定の状態での独占加工権」

「嫌」

「即答ですね」

「独占は嫌」


 久遠が頷いた。


「それでいい。今の時点で焦って契約するな。お前の価値は、お前が思っているより高い」

「高いなら、加工してくれる?」

「交渉次第だ」

「交渉、苦手」

「だろうな」


 朱音が小さく手を上げた。


「それ、私も同席できますか」

「七瀬が?」

「澪一人だと、たぶん条件を見ないで決めます」

「失礼」

「失礼じゃなくて事実でしょ。九環に行けるか、鎌を直せるか、食べ物があるかくらいしか見ないでしょ」

「あと帰れるか」

「一番大事だけど、それだけじゃ駄目」


 水瀬は少しだけ笑った。


「七瀬さんが同席するのは、むしろ協会としても助かります。天瀬さんの意思確認、生活面、帰還管理、対外交渉。どれも必要です」

「帰還管理って、私がですか」

「候補として。もちろん正式には協会資格と講習が必要ですが」

「私、まだ学生ですけど」

「学生であり、天瀬さんが帰還後に最初に安定した接触を持てる人物です。それは大きい」


 澪は朱音を見た。


「朱音先輩、管理する?」

「言い方」

「じゃあ、帰る係」

「もっと言い方」

「帰ってきたか確認する係」

「それなら、まあ……分かる」


 久遠が腕を組み直した。


「九環再走の話に戻す。天瀬、お前は配信すると言ったな」

「うん」

「なぜだ」

「証明。あと、隠すと面倒」

「面倒?」

「勝手に話を作られる。私が説明するより、見せた方が早い」

「危険も映るぞ」

「だからいい」

「どういう意味だ」

「九環を軽く見られると、人が死ぬ」


 その言葉に、室内の空気が少し変わった。澪は配信で目立ちたいわけではない。収益だけでもない。九環を見せることで、自分が何をしてきたのかを証明する。同時に、九環がどんな場所かを世間へ見せる。そこへ安易に人が来ないようにする。澪の言葉は短いが、意味は分かりやすかった。


 水瀬が画面を切り替えた。そこには、昨日の配信後に集まったコメントや公式反応が並んでいた。一般視聴者の混乱、探索者の悲鳴、素材業界の査定予測、協会の注意喚起。さらに、認証済みのクランアカウントがいくつもあった。


『【白楼工房・素材部】昨日の裂角鹿変異個体角の保存状態は異常。正式鑑定を希望します』


『【暁ノ盾・公式】未成年探索者の高深度単独探索には慎重な判断を求めます。同時に、天瀬澪氏の帰還記録について協会の正式発表を待ちます』


『【北辰探索団・戦術班】第六環外縁であの判断速度なら、第八環以降の記録も確認したい。無謀ではなく、経験値がある動き』


『【アークライン・広報】天瀬澪様に関する一部報道について、当方では協会発表を尊重します。安全確保と適切な支援が必要な場合、最大限協力いたします』


 朱音が最後の名前を見て、顔をしかめた。


「アークラインまで見てるんですか」

「国内最大手です。見ていない方がおかしい」

「早すぎる」

「大手は早いから大手です」


 澪は画面の文字を見ていたが、反応は薄かった。


「アークラインって強い?」

「国内最大手クラン。探索者、研究部門、工房、医療、法務、配信管理、全部持ってる」

「鎌、直せる?」

「可能性はあります」

「じゃあ、話は聞く」

「判断基準がとても分かりやすいですね」


 久遠が低い声で言った。


「聞くだけだ。所属を決めるのはまだ早い」

「うん」

「九環再走の前に、条件を決める。配信範囲、撤退基準、帰還手段、監視体制、同行者なしの理由、緊急時の遮断。全部だ」

「面倒」

「面倒で済むならやれ」

「分かった」


 朱音はそのやり取りを聞きながら、昨日の夜の澪を思い出していた。番犬の足元で壊され、戻り、鎌を押し込み、初めての転移で帰ってきた澪。その澪が、また九環へ行くと言っている。止めたい。けれど、止めても行く。なら、帰ってくるための道を増やすしかない。


「私、帰還管理の講習受けます」

「朱音先輩?」

「澪が九環へ行くなら、外で見てる人が要るでしょ。止めるだけじゃなくて、戻る場所を作る人」

「大変」

「知ってる」

「報酬、出る?」

「そこ大事?」

「大事。朱音先輩も稼いだ方がいい」

「……こういうところで現実的だよね」


 水瀬がすぐに資料へ書き込んだ。


「七瀬さんを仮帰還管理補助として登録申請します。正式契約ではありませんが、協会立ち会い下での配信監視と緊急連絡権限は付与できる可能性があります」

「お願いします」


 藤堂が黒いケースを開けた。内部の封鎖板が何重にも重なっている。その中央に、白い骨を絡めた鎖が固定されていた。鎌と呼ぶには形が歪だ。だが、確かに鎌だった。刃の部分は砕けた骨を組み合わせたような形で、鎖は一部が白く変色している。触れていないのに、空気が薄く揺れた。


 澪は一歩近づいた。


 警告灯が青から白へ変わった。


 水瀬が慌てて計測値を見た。


「反応上昇。ただし危険域ではありません」

「澪、触って大丈夫なの?」

「たぶん」

「たぶんで触らない」

「でも、これ私の」


 澪は黒いケースの前で止まった。手を伸ばす。まだ触れない。指先の皮膚が少し白く光った。鎌の骨片も、それに応えるように淡く光る。


 藤堂が低く言った。


「触るなら一瞬だ。握るな。持ち上げるな」

「うん」


 澪の指先が、鎖の一部に触れた。


 その瞬間、解析室の壁に白い空が映った。映像ではない。計器が拾った空膜反応が、薄い光として壁に走っただけだ。だが、そこには確かに空葬原の色があった。白い地面。群青の空。折れた墓標。番犬の胸の骨。


 澪はすぐに手を離した。


 鎌の反応は収まった。警告灯も青へ戻る。だが、室内の全員が今の光を見ていた。


 久遠が静かに言った。


「九環再走は、これを持っていくのか」

「持っていきたい」

「今のままでは許可できん」

「直せば?」

「直せば、条件次第だ」

「じゃあ、直すために稼ぐ」

「そのために九環へ行く、か」

「うん」


 久遠は眉間に皺を寄せた。止めたい顔だった。教師としても、元探索者としても、止めるべきだと思っているのだろう。だが同時に、澪に必要なものが何かも分かっている。低い階層で安全に稼ぐだけでは、九環素材の加工にも、澪の装備にも、今後の探索にも届かない。


 水瀬が新しい画面を表示した。


「九環再走配信を行う場合、最短で三日後。ただし、協会承認、配信遅延設定、緊急遮断、七瀬さんの帰還管理補助登録、藤堂先生の仮装備調整、久遠先生の監督許可が必要です」

「三日」

「短すぎると思いますか」

「長い」

「あなたはそう言うと思いました」


 朱音が澪の横顔を見た。


「三日間、準備するよ」

「うん」

「ちゃんと食べる」

「うん」

「寝る」

「うん」

「勝手に一人で潜らない」

「……うん」

「今、少し間があった」

「気のせい」

「気のせいじゃない」


 久遠が机を軽く叩いた。


「天瀬。三日後までは協会と学校の管理下だ。無断探索は禁止する」

「第六環も?」

「禁止だ」

「第五環は?」

「禁止だ」

「訓練場は?」

「許可制だ」

「厳しい」

「お前に甘くしたら死ぬ奴が増える」


 澪は少し考えてから頷いた。


「分かった」


 その返事を聞いて、朱音はほんの少しだけ安心した。完全には信用できない。けれど、今の澪は、帰る場所の意味を少しずつ理解している。勝手にいなくなることが、誰に何を残すのかも。


 解析室を出る頃、協会の廊下は来た時より騒がしくなっていた。誰かが澪を見る。誰かが視線を逸らす。誰かが端末で連絡を打つ。まだ正式発表はされていない。だが、空気はもう動き始めている。


 エレベーター前で、水瀬が澪に言った。


「今日中に、協会から九環帰還記録の一部を正式発表します。個人情報と危険情報は伏せますが、天瀬さんが第一層第九環から帰還した事実、帰還時レベル、未分類進化、未登録スキル取得の一部は出ます」

「出すの?」

「出さないと、もっと悪い噂が広がります」

「分かった」

「配信者としても、次の配信前に説明が必要です」

「説明、苦手」

「映像が説明します」


 澪は少しだけ頷いた。


 朱音はスマートフォンを取り出し、配信アプリの通知欄を見た。澪のチャンネル《九環》は、昨日の時点とは比べ物にならない速度で登録者が増えていた。コメントも止まらない。応援、心配、疑い、憧れ、警告、勧誘、素材業者、研究者、クラン関係者。すべてが混ざって流れている。


『九環帰還って本当?』

『昨日の戦闘だけでも普通じゃなかった』

『協会発表待ち』

『天狼院が反応してるの怖すぎ』

『白楼工房が素材欲しがってる時点で本物だろ』

『配信するなら絶対見る』

『見るけど行くな』

『いや行くなって言って止まるタイプじゃない』

『帰ってこい』


 朱音は最後のコメントで指を止めた。


 帰ってこい。


 知らない誰かの短い言葉だった。けれど、それは今の朱音が一番言いたいことでもあった。


 澪はその画面を覗き込み、しばらく見ていた。


「帰ってこい、だって」

「うん」

「帰るよ」

「絶対?」

「絶対は、難しい」

「そこは嘘でも絶対って言って」

「絶対、帰る」


 朱音はその言葉を聞いて、息を吐いた。


「よし」

「よし?」

「今のは、ちゃんと覚えたから」


 澪は不思議そうな顔をした。だが、何も言わなかった。


 協会の自動ドアが開く。外の光が入ってくる。九環の白い空ではなく、普通の街の朝だった。車の音がして、人が歩いていて、遠くで信号機の音が鳴っている。澪はその音を少しだけ聞いてから、リュックの中の布袋を思い出したように取り出した。


 結衣が入れた飴を一つ、口に入れる。


 甘かった。


 澪は小さく呟いた。


「三日後、九環に行く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ