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離婚騒動 中編

~北都~


7月のある日、龍陽は龍算と人族町である北都にやって来た。

紫竜領より遥か北にあるせいか7月なのに肌寒い。



結太を訪ねた後、龍陽と龍算は族長である父の元に行った。

父は意外にも龍景の離婚騒動に関心があるらしく、龍陽の母の心配も増やしたくないと言って、龍陽たちが豊に相談することを認めてくれた。


でも、てっきりまた豊を呼ぶのかと思いきや、取引先でもない人族を頻繁に紫竜領に招くのは嫌だと言い、龍陽たちに出張を命じたのだ。



龍陽はめんどくさいけど、父に気兼ねなく豊と話が出来るチャンスだ。



「ようこそ」


出迎えたのは豊と、豊より歳上の人族の男だ。


「北の貴族の北才(ほくさい)と申します。」


男は北都を統治する人族の族長の1人らしい。

表向き、龍算がこの北の貴族に依頼をしに来たことになっているので、北才も同席するようだ。




~応接室~


「今回は補佐官殿からのご依頼と伺っておりますが、今度は何事ですか?」


不思議そうな北才たちに、龍算は龍景の離婚騒動を説明した。



「あ~らら。」


豊はにやにやと愉快そうに笑い、北才は笑いを噛み殺している顔だ。



「笑い事じゃない。龍景の妻の機嫌を直すにはどうしたらいい?」


龍算は怖い顔だ。


「妻の怒りの原因は、怒ってる理由を夫が理解してないからでしょう?機嫌を直せるのは夫だけですよ。」


豊は意外なことを言い出した。



「龍景はもう理解している。だが、失言をなかったことにはできないだろう?だから困ってるんだ。」


「龍景殿は原因は何だと理解してるんですか?」


「妻の年齢を口にしたことだろう。結太の妻がそう言っていた。」



「ん~残念。それは理解が足りてないですね。」



豊はきっぱり否定した。



「は?お前が族長たちに教えたんだろ?」

龍算は怪訝な顔をし、


「龍景は地雷したんじゃないの?」


龍陽は思わず食い気味に尋ねた。



「地雷はしたじゃなくて踏んだと表現するんですよ。

確かにその話をしましたけど、龍景殿の失敗はちょっと違います。

まあでも悪いのは妻ですよ。ガラにもなく夫を試そうとするから。」



「悪いのはユリ?試すって何?

龍景が次の子を嫌がるって分かってたの?」


龍陽はますます意味が分からない。



「ん~と、説明が難しいですけど、そうですね。

まず人の女は試し行動をすることがあるんですよ。夫の返答を見て、自分への愛情を試すんですよ。

今回はユリはたぶん、龍景殿にもう1人子どもが欲しいと返事してもらいたかったわけじゃない。

もう次の子は望めなくても、それを理由に自分と離婚することはないって返事を期待してたんですよ。」



「どういうことだ?龍景から離婚を希望するわけないだろう。

そんなこと、龍景は前から妻には伝えているはずだ。」


龍算はなおも怪訝な顔をして問いかけるが、



「はは。男の言葉一つで女が安心してくれるなら、世界はもっと平和ですよ。」



豊は笑いながらそう言うけど、龍陽にはよく分からない。

でも、龍算と北才には分かったようで、遠い目をしている。



「え?じゃあユリは龍景が離婚を希望してるって思って怒ってるの?でも、喧嘩の原因は3人目の子どもじゃないの?」 


「龍景殿はなんで3人目の子を妻に求めないんですか?

龍景殿には次の子を作る支障はないですよね?」


「え?そりゃ無理に3人目作ってユリに負担かけるより、ユリに長生きしてほしいんじゃないの?

僕の母上もユリの年齢での出産はリスクが大きいって心配してたし、妊娠・出産を理由に死んだ妻は何人もいるしね。」


「でも2人目は作ったんですね。」


豊は紅葉と同じことを言う。



「それがユリの怒りの原因なの?」


「違いますよ。龍景殿夫婦は妻の負担を分かった上で2人目を作った。出産は去年のこと。

なのに、今年、3人目を作るのは妻の負担的にダメなんですか?

去年と今年でそんなに妻の負担は変わったんですか?」



「・・・」


龍陽はようやく豊の言っていることが分かってきた。

確かに、なんか変かも。



「短期間で妊娠が続くのは妻の負担になるんだ。人族も同じだろう?」


龍算が反論する。


「なら龍景殿は妻にそういえば良かったのでは?

妻の年齢は関係ないじゃないですか?」



「だから!龍景の失言は分かってるんだ!

それはもうどうにもできんだろう!

こっちが知りたいのは妻の機嫌を直す方法だよ!」



龍算が怒り出した。



「まあまあ、人はまず失敗の原因から分析する生き物なんですよ。補佐官殿のご相談はちゃんと理解しております。

というか私は最初にご説明しましたでしょう?

妻の機嫌を直せるのは夫だけですよ。

夫が妻の怒りの原因を理解して機嫌を取るほかないんですよ。」


豊は動じていない。



「じゃあそれを教えろ!龍景に伝えにいく。」


「なんで龍景殿自ら聞きに来ないんですか?」


「龍景は妻に解放軍の男は近づけたくないそうだ。それに妻が離婚すると騒いでいるから、龍景は自分の巣から離れられないんだ。」


「なんで外出できないんですか?妻は外出しても怒りませんよね?」


豊は初めて不思議そうな顔になった。



「・・・それも知らんのか?妻が本当に離婚を望むなら、紫竜一族には離婚に応じる義務がある。

だが、夫竜は簡単に受け入れないから、そういう時は妻を連れ出して隠すんだ。」



「あ~それで龍景殿は巣に篭ってるんですか。

ふーん。なるほどね。」



「なにがなるほどなの?」


龍陽はやっぱりついていけない。


なんで豊はこんなにスッキリした顔になっているのだろう?



「なんだ?」


龍算は警戒した顔になっている。



「補佐官殿は龍景殿夫婦を離婚させたくないから相談に来られたんですよね?」


「そうだ。」


「でも私たちに大事な情報は隠してますよね?」


「は?何なんだ?」


龍算はどんどん険しい顔になって、もはや豊を睨んでいるので、龍陽は椅子に浅く座り直した。



龍算がキレて豊を攻撃するとは思いたくないけど、万一の時は・・・



「龍景殿にとっては子どもが2人ってことに重要な意味があるんじゃないですか?

なのに、それを妻には隠してる。」



豊は意外なことを言い出したけど、


「ない。」


龍算は即座に否定した。


「龍算は嘘をついてないよ。僕には分かる。」


龍陽は豊に教えてあげた。



「あれ?そうなんですか?

じゃあ逆か。妻の方に子どもが2人ってことに重要な意味がある。」


「・・・」


龍算は今度は何も答えなかったので、図星らしい。

龍陽は知らない話だけど、豊はなんで分かったのだろう。



「最後まで言ってみろ。」


「最後まで言っても殺されませんか?」


豊は警戒した顔になっている。



「お前なら気付くと思っていたから、族長はわざわざ俺たちを派遣したんだ。」



「え?なんの話?」


「若様、とりあえず豊の推測を最後まで聞きましょう。」


「う、うん。」



「いや、分からないことが多すぎますけど、妻は子どもが2人できたことで夫を試したくなった。

それに失敗した龍景は妻から離婚されることに怯えて巣に閉じ籠ってる・・・

もしかして龍景殿夫婦は子どもを2人産んだら離婚する予定でした?」



「え?いや・・・」


龍陽は、あり得ない豊の推測に思わず反論しようとしたけど、


「さすがだな。」


なんと龍算が認めた。



「え!?えーー!?なんで!?」


龍陽は驚きのあまり大声が出た。



「私も詳細は知りませんが、別に珍しいことではありません。龍景の妻は元々、人族息子の養育費を得るために再婚したと聞いております。

とはいえ、再婚した以上は妻の役割は果たしてもらう必要がありますから、龍景の子どもを2人産むまでは離婚は認めないと取引したんです。

でも龍景は何も知らない。知らせたら大変なことになります。」



「夫が知らないことを、妻は知ってるんですか?」


豊は驚くことなく龍算に質問している。



「ああ。妻から龍景に漏らされると困るからな。お前らも漏らすなよ。命はないぞ。」



「ならば妻も漏らしてはないんでしょうね。

でも無事に子どもが2人産まれたのに、なぜまだ離婚してないんですか?」


「離婚は妻が望んだタイミングでだ。こちらは急いでいない。幼い子たちには母が必要だ。うちの一族としても龍景の3人目の子どもより、今の子たちの成長が優先なんだ。」


龍算は先程までの不機嫌な様子からは一変して機嫌がよくなったように見える。



「なのに、夫婦に離婚騒動が起きてるから、族長たちは困ってるわけですか。せっかく妻が離婚を言い出すことなく2人の子を育ててるのに、龍景殿がやらかしたから。」



「そういうことだ。」



「な~んだ。最初からそう教えてくださいよ~

こっちはヒヤヒヤしてたんですよ。」


豊はほっとした顔になっている。



「北豊!言葉に気を付けろ。」


北才が苦言を呈した。



「ああ。失礼しました。

私は妻の機嫌は直せませんが、離婚騒動をおさめることはできますよ、たぶん。」



「ほ、本当か!?」

龍算は今度は驚いている。


「はい。妻に働きかければ。でも問題はやり方ですね。僕は妻に近づけない。」


「問題ない。お前からの伝言でも何でも、龍景に隠れて妻に届ける方法はある。」


「それを最初に言ってくださいよ。でも伝言は芸がないですね。

でも、さすがに生き物はなあ~

あ!補佐官殿?例えば、北都土産をお渡ししたら、人の奥様たちにお届けいただけます?」


「それが龍景の離婚問題を解決するならな。」


「畏まりました。では準備に3時間ほどください。」


「待とう。」



豊がなにを思い付いたのか分からないのに、龍算は快諾している!?



やっぱり何者なんだ?この豊って!?


龍陽は呆気にとられていた。

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