離婚騒動 前編
「ならば早速、妻の家族としての役割を果たしてもらいたい。」
これまで黙っていた龍算が予想外なことを言い出した。
龍算は単なるお供ではなく、結太に用事があったらしい。
「聞いてないよ。」
龍陽は龍算を睨んだ。
「若様には関係のないことですから。ですが緊急でして、この場をお借りすることをご容赦下さい。」
龍算は初めて困った顔になった。
結太たちの前でこんな顔をするなんて何事!?
「は、母のことですよね?何かありましたか?」
結太は聞くようだ。
結太の母は、龍景の妻であるユリだ。
ユリと前夫の間の子が結太だけど、結太が成人する前にはユリの夫が人ではないことも、龍陽が人でないことも隠していた。
でも、結太が水連町に来てから、ユリの息子だと知られて何度も暗殺の危機に遭ったことと、ユリの唯一の血族なので、成人後は紫竜の妻の家族としての責任を負うことになることから、結太は紫竜一族のことを知らされたらしい。
龍陽が人でないと分かったら嫌われるかな?
と龍陽は心配だったけど、結太は変わらず接してくれる。
「ああ。実は龍景のところが離婚危機でな。」
「え!?また!?去年赤ちゃん産まれたばかりですよね!?」
結太は呆れている。
龍陽も前の離婚危機を知っている。
あの時はもう詳しい理由は忘れたけど、確か結太がらみのことで妻が龍景に怒って離婚を要求して、龍景はなんとか妻の機嫌をとってたっけ。
「ああ。夫婦喧嘩はたまにあったんだが、今回は妻の怒りがすごくて離婚すると言って聞かないらしい。
だが、2人目の子は離乳したばかりだし、上の子もまだまだ母親を必要としている。
今回もなんとか妻を宥めて仲裁してもらえないか?」
「は、はい。母はなんで怒っているのですか?」
「龍景は狼狽えてて、私もよく分かってないんだが、なんでも発端は妻の方から3人目の子を考えたいと言ったことらしい。
だけど、龍景は妻の年齢的に次の妊娠は危険じゃないか?と心配したんだと。
そしたら妻が怒り出したらしいんだが・・・なんで妻は怒ってるのか龍景だけじゃなく私たちも見当がつかないんだ。」
龍算の説明に結太は首をかしげている。
「ええ!?別に龍景さんは悪くないと思いますけど・・・」
「え?地雷じゃないの?」
龍陽は思わず尋ねてしまった。
「何だ?そのジライって?」
なんと結太は知らないらしい。
「え?この間、豊って人族が父上たちに言ってたよ。人族の女に年齢の話はダメだって。」
「え?北都の豊さんのこと!?」
結太は豊のことも知ってるらしい。
「若様の言うとおりよ。ユリさんが怒って当たり前。」
紅葉は呆れた顔で同意する。
「え?なんで?龍景さんは間違ったこと言ってなくない?母さんの年齢的にもう高齢出産だろ!?」
結太は不思議そうだ。
「そんなのユリさんには分かってるわよ。去年の出産だってきっと相当大変だったはずよ。
それでももう1人子どもをって、それってもう愛よ。愛。
なのに旦那はユリさんの年齢的に無理でしょ?って最悪の返事じゃない。
若い嫁がいいなら好きにしろって感じ!」
「いやいや龍景さんはそんなこと言ってないじゃん!母さんの身体心配してるだけでしょ?」
「ならなんで去年はユリさんに出産させたの?」
「え?いや・・・」
結太は言葉に詰まっている。
「ほんとにユリさんの身体心配してたら去年も子ども作らないんじゃない?」
「別にいいだろ?余計なお世話だよ。龍景さんは母さんが嫌がる妊娠はさせないよ。」
「ならユリさんが望んでる3人目はなんで嫌がるの?」
「嫌がってる訳じゃなくて母さんを心配してるんだろ!?
母さんだって龍景さんの気持ちは分かってるはずだよ。なのにへそ曲げるなんてどうかしてるよ。」
「まあまあ、結太兄ちゃん。僕よく分かんない。
ねえ、紅葉さん、ユリは年齢を話題にされたから怒ったんじゃないの?」
龍陽は2人の口喧嘩についていけない。
「その通りです。ユリさんの年齢なんて言い訳ですよ。ほんとは龍景さん自身がこれ以上子どもを望んでないんでしょ?」
「そうなの?」
龍陽には分からないので、龍算に尋ねてみた。
「・・・龍景の本心は分かりませんが、3人目を望んでいたら若い妻に変えるでしょうから、次の子よりも今の妻との関係を優先したい考えだと思います。」
「ほら!龍景さんは何も悪くないじゃん!むしろ母さんに配慮しすぎなくらいだよ!」
結太は龍景の肩をもっている。
「ん~どうしたら伝わるのかしら?
ユリさんに配慮したいなら、俺の年齢的に3人目はきついって言い方でよくない?
なんでユリさんに原因があるって言い方するのよ?」
「はあ!?そんなの難癖じゃん!母さんの方が歳上だし、出産に女の年齢は重要だよ。」
「あんたは女心が分からなすぎ。豊さんを見習いなさいよ。」
結太の夫婦喧嘩はどんどん激しくなっている。
「おい、ストップだ。
こちらは龍景の離婚騒動が収まればいいんだ。妻の機嫌を直すにはどうしたらいいんだ?」
見かねた龍算が止めに入った。
「あ!す、すみません。えーと。」
「うーん。ユリさんの怒りの理由は分かりますけど、宥め方は私には・・・その手の相談は私たちより豊さんかと。
ユリさんとの付き合いも長いですし。」
結太夫婦は揃って困った顔だ。
「龍景は解放軍の男は嫌がるんだ。」
龍算も困っている。
「じゃあ、僕が別の理由で豊に会いに行くのは?」
龍陽はもっと豊と話してみたいと思っていたので、提案してみた。
「え?いや若様を巻き込むわけには・・・」
「そう~でもほんとにユリが離婚したら母上は寂しがるから他人事じゃないよ。
母上はいま元気がないんだ。」
「族長の奥様のためとあらば!
北都までお供します!」
龍算はあっさり乗っかった。
龍景を助けるために父を説得する口実を見つけて喜んでいるのだろう。
「す、すみません。僕らじゃお役にたてず・・・」
「あら、あなたには出来ることがあるわよ。何も知らないふりして手紙書きなさい。ユリさんの気晴らしくらいにはなるはずよ。」
紅葉が提案する。
「え?なんで知らないふり?」
「バカねえ。こんな夫婦喧嘩、息子には知られたくないわよ。隠れて旦那が相談してたとか最悪。
これ以上、ユリさんの機嫌を損ねないの。」
「・・・分かった。女心は君に任せるよ。」
結太は今度は紅葉の提案を素直に受け入れたようだ。
「じゃあ結太兄ちゃんよろしくね。」
龍陽は立ち上がった。
「え?もう帰るのか?」
「うん。表にお客・・・じゃない患者来てるよ。」
「え!?わ、分かった。母さんがごめんな。豊さんにもよろしく伝えてくれ。」
結太は龍陽たちを見送ってくれた。




