紫の鱗
~???~
「何ここ!?」
柚子は困って龍陽を見たけど、龍陽も困った顔だ。
龍陽は柚子を抱えて穴の中を飛んで抜けてくれた。
穴は以外と大きく直径2メートルはあっただろうか?
穴から抜けた先はさっきよりも広い空間だけど、床は大小の石の塊が転がっていて、柚子たちが降りられる隙間もない。
「・・・あそこから落ちてきたのかな?」
龍陽が上空を見上げているので、柚子も見上げると、なんと空が見える。
龍陽の言うとおり、天井の岩が崩れて落ちてきた?
天井はかなり高いけど、龍陽は飛んで昇ってくれた。
でも半分ほど昇ったところで龍陽はなぜか上昇できなくなり、仕方なくまた地面近くまで降りてきた。
「こんな石まみれの場所に閉じ込めてなんなんだ!?」
「あ!龍陽!あっち!」
柚子は壁の穴に気付いて指を指した。
さっき柚子たちが通ってきた穴とはまた別の穴が反対側の岩壁にもあいている。
「・・・行ってみようか。」
龍陽は柚子を抱えたまま、そちらの穴をくぐってくれた。
「・・・え!?」
隣の空間には宝石が地面に散らばり、あちこちに宝石の山ができているけど、なんで?
もしかして指輪はここにあった?
柚子は期待を込めて指輪を返そうとしたけど、
「外れない」
なぜか指輪は柚子の指にぴったりくっついて抜けない。
着ける時はこんなにぴったりではなかったのに!?
「ここの宝石変だよ。匂いがしない。」
龍陽は警戒した顔で柚子を抱えたまま浮いており、地面に降ろしてくれない。
「あ!龍陽あっち!」
柚子はまた向こうの岩壁に穴を見つけた。
「行ってみようか。」
龍陽はまた柚子を抱えたまま穴を通ってくれた。
「きゃあ!」
今度の部屋で、柚子は悲鳴をあげた。
なんと部屋の床には無数の骨が散らばっている。
動物の骨から獣人の大きな骨まである。
「なんだここ!?死体の匂いなんてしないのに!?」
龍陽も青い顔だ。
柚子は深呼吸して部屋を見回した。
「この部屋が最後?」
「・・・みたいだね。もう穴は開いてない。」
「なんなのここ!?石の部屋、宝石の部屋、骨の部屋?・・・誰が集めて分類してるの?」
「分からない。生き物の匂いなんてしないんだ。僕は全然鼻が利かない。」
「でもここの骨は全部きれい・・・っていうの?肉が全然ついてない。誰が食べたの?」
柚子はそれが不気味だ。
捕食者はどこにいるの?
「・・・まさか捧げ物か?」
「え?なに?龍陽?」
「竜礼から聞いたんだ。霊山の神には年に2回狼たちが捧げ物をしてるらしい。新鮮な肉を骨ごと届けたり、宝石で飾り立てた生け贄を捧げたりしてるって。」
「生け贄!?じゃあこの骨と宝石は・・・」
柚子はぞっとした。
ここにいるのは捧げ物の成れの果て!?
「・・・まさか捧げ物が足りなくて僕たちを?」
「やだ!怖いこと言わないでよ!」
「あ!ごめん」
「・・・ねえ?最初の部屋の石は何?あれも捧げ物?」
龍陽の説は怖いけど、これを前提にすると、最初の部屋だけおかしい気がする。
「いや、さすがに石は違うでしょ!?あれは上から落ちてきたんだよ。たぶん。」
「そっか。そうだよね。・・・なら最初の部屋には本来何があったの?もう一つの捧げ物?」
「え?もう一つ?竜礼からは聞いてないな。」
龍陽にも心当たりはないらしい。
「石の部屋に戻ってくれる?」
「いいよ。」
~石の部屋?~
龍陽は石の部屋に戻って柚子を抱えたまま部屋を一周飛んでくれた。
石の下に本来この部屋にあっただろう捧げ物が見えるかと思ったけど、落ちている石が多すぎて何も見つからなかった。
部屋の真ん中あたりなんて石の山になっていて、下手に触ると崩れそうだ。
「・・・龍陽、あっちの石の少ないところに降ろしてくれない?」
「分かった。」
龍陽は床の石を蹴ってどかし、地面に柚子を降ろしてくれた。
「何するの?柚子?」
「いや、何か思い付いた訳じゃないけど・・・」
柚子はそう言いながら一番近くの石を拾ってみた。
柚子の拳ほどの大きさでずしりと重い。
ここも神への捧げ物を保管する場所ならこんなに石が散らばっていたらダメな気がする。
でもさすがにこの石全てを掃除するなんて柚子にも龍陽にだって無理だろう。
というか神の遣い?もやらないのかな?
それともできない?
「・・・あ!」
また柚子の頭の中にある光景が浮かんできた。
あの白いワンピースの狼がいる。
けど、頭上から石の塊が降り注いできて・・・
「え!?」
「柚子!?どうしたの?大丈夫?」
龍陽が心配そうに駆け寄ってきたけど、柚子はまだ心臓がうるさいほどなっている。
「う、うそ!?まさか!?」
「なに?何が?」
龍陽にはやはり柚子の頭に浮かんできた光景は見えてないようだ。
「あ、あの下にいるのかも・・・神の遣いの狼」
「え!?なんで!?」
龍陽は驚いているけど、柚子はうまく説明できない。
「え、えっと・・・見え、たの。狼の頭上から石が落ちてくる光景が・・・」
「・・・分かった。柚子は危ないから、ここにいて。」
龍陽はそう言って浮き上がると、柚子が指差した石の山に近づいていって盛り上がっている石を掴んで部屋の隅に投げていく。
「・・・すご」
柚子は呆然と見ていた。
龍陽はどんな大きさの石でも両手でヒョイと持ち上げて投げている。
怪力なんてものじゃない。
解放軍にゴリラや熊の獣人もいたけど、あそこまでの力はなかったと思う。
30分もしないうちに大きな石の山があった場所には、高さ0.5メートルほどの石を残すだけになった。
この石の下には穴が空いていて、石の下半分?が埋まっているらしく、龍陽でも持ち上げられなかったらしい。
「・・・何もいないよ。」
そう言って戻ってきた龍陽は汗一つかいてない。
疲れた様子もない。
紫竜は獣人とは全く違うことを、柚子は改めて目の当たりにした。
でも今はそれよりも・・・
「変だわ。さっきの光景には穴なんてなかったのに・・・」
柚子が見た時には狼の近くに穴なんてなかった。
じゃああの山の下敷きになった訳じゃなかった?
でもほかには・・・石はあちこちに散らばっているけど、狼が下敷きになっていそうな山はない。
「ここに狼がいるの?匂いなんてしないよ。」
龍陽はやたらと匂いが気になるらしい。
「ごめん。場所が違ったのかも。」
「え!?あ!別に責めるつもりはないんだよ!?確認しただけ!」
龍陽はなぜか焦って謝ってきたけど、そんなに動揺しなくてもよくない?
「ううん。私こそごめんね。あんなに大変な作業してくれたのに、無駄にしちゃって・・・」
「いや、大したことしてないよ!
僕は人から産まれた子だからこういうの得意なの!穴堀りはダメだけど・・・あ!」
「え?何?」
龍陽は何かに気づいたみたいだけど、柚子には分からない。
「狼って穴掘り得意だよね!?龍示はよく本家の庭を掘り返してたんだ。」
「リュウジ?誰それ?・・・あ!え!?もしかしてあの穴!?」
柚子にも分かった。
まさか神の遣いの狼は石の下敷きになって、そこから逃れようと穴を掘ったの!?
でも上に石が填まってしまって出られない!?
「・・・柚子、危ないからあっちにいてね。」
龍陽はそう言って柚子を抱き抱えてまた宙に浮き、宝石の部屋との境にある穴まで柚子を連れていった。
「え?何するつもり?あの石は持ち上げられないんでしょ?」
「うん。だから壊すよ。危ないからここから動かないでね。」
龍陽はそう言うと、1人で浮いて穴に填まった石のところに戻って行った。
でも、あんな大きな石をどうやって壊すつもりだろう?
龍陽はなぜか上に着ていた紫の着物を脱いで、右腕の袖だけを捲っている。
まさか殴って壊すつもり?
いや、さすがにそんな・・・
「え!?」
柚子は見たものが信じられない。
龍陽の人そっくりの右腕が一瞬揺らいだと思ったら、紫の鱗に覆われた腕に変わったのだ。
腕の先の手には長く鋭い爪が5本も伸びている。
龍陽が腕を振り下ろすと、大きな石はまるでチーズのようにあっさりスライスされた。
「紫の竜・・・」
豊さんから聞かされてはいた。
紫竜とは、紫の鱗覆われた竜のこと。
普段は人とそっくりの姿をしているけど、それは紫竜の本来の姿ではないらしい。
でもいざ目の当たりにすると・・・怖いはずなのに、柚子は不思議と怖さは感じない。
むしろ、神々しい?
なんと言葉にしたらいいのか分からないけど、神に対する畏敬の念とはたぶん今の柚子みたいな気持ちなのだろう。
キラキラ光る紫の鱗は、柚子がこの世界で見た中で最もキレイだと思った。
龍陽は竜の右腕でスライスされた石の塊を掴んでは投げ、掴んでは投げて・・・石は全て無くなり、大きな穴が現れた。
「柚子、大丈夫だった?」
龍陽はいつの間にか腕を戻し、脱いだ上着を掴んで、柚子のところに戻ってきた。
「龍陽の鱗ってあんなにキレイなんだね」
「え!?鱗?そ、そう?」
龍陽は驚いている。
なんで?
柚子は変なこと言ったかな?
「・・・ん?」
龍陽は突然険しい顔になって穴の方に振り返った。
柚子もそちらを見ると・・・
なんと狼が穴の中から這い出してきた。
やっぱりあそこに閉じ込められていたのだ。
狼は地面に這い出ると、立ち上がった。
柚子が紫竜本家のトイレで会った狼にそっくりだ。
穴の中に居たはずなのに、白いワンピースはなぜか全く汚れていない。
それに今度は龍陽にも狼が見えている。
本家で見た狼とは別?
狼はゆっくりと柚子たちの方に歩いてくる。
地面はまだ石が散らばっているのに、狼は避けることもなく・・・いや、なんと石の方が自ら転がって狼に道をあけている!?
「なんだ?まだ何か用か?」
龍陽が柚子を背中に庇って狼の前に立ちふさがったけど、狼は無表情で柚子を見ている。
龍陽の数歩手前で立ち止まり、柚子に片手を伸ばしてきた。
「え?何?」
狼はまだ柚子たちに用があるの?
自由になれたのに!?
「う・・・」
また柚子の頭にある光景が浮かんできた。
柚子が目の前の狼に赤い指輪を渡している。
「あ!これ!?」
柚子がはっとなって赤い指輪に触れると、今度は指輪はあっさり外れた。
「・・・僕が渡すよ。貸して」
「え?・・・うん。」
さっきの光景とは違ってしまうけど、柚子は言われるまま、龍陽に赤い指輪を渡した。
龍陽はなんでこんなに険しい顔で狼を睨んでいるのだろう。
狼は龍陽から指輪を受け取ると、右手の中指にはめた。
「きゃあ!?」
「うわ!?」
狼の指輪から強烈な赤い光が出てきて、柚子はたまらず目を瞑った。




