龍陽たちの行方
~紫竜本家~
同じ頃、紫竜本家は大騒ぎになっていた。
豊たちの目の前で、柚子と龍陽が消えた。
嘘のような本当の話だけど、豊はいまだに信じられない。
龍景と竜礼も数秒呆然としていたけど、すぐに顔色を変えた龍景が走って出ていき、龍希を連れて戻ってきた。
「龍陽が消えたとはどういうことだ?」
「そのままです、族長。若様の姿がこつぜんと消えました。」
竜礼のこんな困った顔は初めて見る。
「・・・豊、何があった?」
「竜礼の言ったとおりです。いや、最初に柚子・・・私の部下が紫竜たちの背後に狼がいると言い出して、でも私には見えず、そしたら急に柚子の身体が宙に浮いて、若様も浮いて・・・2人一緒に消えました。」
「は?狼?」
「俺には見えませんでした。匂いもありません。」
「私もです~」
龍景と竜礼にも見えなかったようだ。
「息子はどこに行ったんだ?まさか見えない狼に誘拐されたとでもいうのか?紫竜本家で!?」
龍希の問に誰も答えられない。
「・・・畏れながら、そうとしか。まるで神隠しです。」
北才は絞り出したような声だ。
「神隠しだと!?・・・龍風を連れてこい!」
龍希の命令に今度は竜礼が部屋を出ていき、しばらくして龍風を連れてきた。
「何?父上?」
「龍陽が神隠しにあったらしい。この部屋から何か匂いはするか?」
「は!?兄ちゃんが?また霊山の神!?
・・・あの花の匂いはしないよ。神の遣いも・・・いなさそう。」
龍風は部屋を見渡しながら答えているので、やはり霊山の神の匂いが分かるのは龍風だけらしい。
「じゃあ霊山の神は関係ないな。」
龍希はほっとしているが、
「神の遣いがいなくなると匂いはきれいに消えるから分かんない。兄ちゃんは神に何したの?」
龍風があっさり否定した。
「龍陽じゃねえ!変な狼が見えていたのはお前の部下だけだろ?」
龍希は豊を睨んできた。
「いやいや!うちの柚子こそ関係ないですよ!
見えない狼は紫竜たちの背後にいたらしいですよ!そっちこそまた神から何か請け負って、柚子を巻き込んだのでは!?」
豊は怒りのあまり龍希に大声で反論した。
「ほ、北豊!?言葉遣いに気を付けろ!紫竜族長だぞ!」
北才が腕を引っ張る。
「すげえ。龍希様に反論しとる。」
「龍景、感心してる場合じゃないわ~
族長、豊の言うことも一理ありますわ。神が無関係の若様を拐うとは思えません。
豊の部下と若様どちらも、なんらかの理由で神に選ばれたと考えるべきですわ」
竜礼だけが冷静だ。
「ん~とりあえず僕また霊山に行って神に聞いてこようか?」
龍風がすごいことを言い出した。
「ダメだ!お前はもう近づくな!」
龍希が血相を変えて止めている。
「そうですよ!族長の若様お二人ともに何かあっては!?」
龍景の慌てぶりもすごい。
紫竜たちにとっても霊山の神は恐怖の対象なのだ。
「う~補佐官たちを集めろ。お前ら2人も居てもらう。目撃者だ。」
龍希の命令に龍景が部屋を出ていった。
「紫竜族長、柚子は私の部下です。北才は私以上に役に立つこともないので帰してください。
私は残ってお手伝いします。」
「ほ、北豊!?」
北才は驚いているが、柚子1人のために北才を留めるわけにはいかないし、万一、龍希の怒りを買った時に巻き込むわけにもいかない。
「・・・いいだろう。お前は帰してやるが、この件は他言無用だ。」
「畏まりました。」
北才は龍希の執事に連れられて退室していった。
~族長執務室~
豊は竜礼、龍希に連れられて、龍希の執務室にやって来た。
何の役にたてるのかは分からないが、柚子が神に拐われたのなら、紫竜任せにはできない。
紫竜が柚子まで連れ帰ってくれる保証はないのだ。
「失礼します。」
続々と龍希の補佐官たちがやって来た。
人の妻を持つイケメン龍緑
もう見慣れた龍算と龍景
先月北都にきた、龍希の異母兄である龍栄
のほかに男の紫竜が2人
おそらく一番の年配で顔に傷のある白髪まじりの男が龍海
最後の1人が、白鳥妻がいる龍灯
だろう。
補佐官たちは怪訝な顔で応接室の隅にいる豊を見てきたが、すぐに龍希の方に向き直った。
紫竜族長と補佐官全員が揃う場面に豊は場違いだが、今回ばかりは仕方ない。
竜礼と龍景が先ほど龍陽と柚子が消えた経緯を説明している。
「わ、若様はどちらへ!?」
「まさか霊山まで連れて行かれたのですか!?」
補佐官たちは豊の前なのに相当狼狽えている。
まあ、族長息子の失踪だ。
それも犯人が神となれば当然か。
「まだ分からん。龍風は霊山の神の匂いはしないと言っているし、もしも、また神が仕掛けてきたとしても、なんで龍風じゃなく龍陽なんだ?
人族の娘が一緒に消えた理由も分からない。」
龍希は補佐官たちの前だからかもう落ち着いている。威厳のある族長の顔だ。
「しかし、人族の娘にしか見えない狼は、霊山の神の遣いの可能性が高いのでは?龍風様たちの見た神の遣いも狼の子だったそうですし・・・」
「・・・おい、豊?その狼に心当たりはないのか?」
龍希が尋ねてきた。
「私はありませんが、部下はおそらく狼を紫竜の使用人だと思っていたようです。それに狼は最初は部屋には居なかったようですよ。
部下は途中で急に驚いていたので。」
「うちの使用人に狼もいなくはないが、人族の相手をさせたか?」
龍希は今度は竜礼に尋ねる。
「いいえ。主要取引先の相手は族長の執事だけです。狼族長の連れなら、豊の部下がうちの使用人と勘違いするはずはありません。
それに龍風様たちの見た神の遣いは狼の子の死体でした。でも今回人族の娘が見た狼はたぶん生きた姿なのでしょうね。」
豊は初耳だ。
というか死体が神の遣いってどういうこと!?
「・・・龍陽にはその狼が見えたのか?」
「分かりません。少なくとも人族の娘が宙に浮いた理由は若様にも分からなかったようです。驚いておられましたので。」
「しかし、仮に若様にも狼が見えていなかったのなら、人族の娘を追いかけた理由がないのでは?」
「いや、あの娘はついさっき芙蓉が気に入って声をかけてたからな。龍陽なら守ろうとするだろ。」
龍希は龍陽の性格をよく分かっている。
「・・・人族の娘の巻き添えになって拐われたのですか?」
「それはないと思いますわ~霊山の神は花の欠片に関与した獣人だけを標的にしていたので、理不尽に周囲を巻き込むタイプじゃないです。
若様と人族の娘は選ばれて拐われたと考えた方が良さそうです~」
竜礼が否定してくれた。
柚子が龍陽を巻き込んだと思われてはたまらない。
「・・・まだ霊山の神の仕業と決まったわけではないでしょう?」
「ああ。だが、一番可能性が高い。霊山の神と仮定すると、龍陽はどこに連れ去られた?」
龍希が問いかける。
「・・・霊山以外には思いつきません」
「いや、しかし何か用があるなら神の遣いを寄越せばいいのでは?」
「神の方から出向いてくるなんてあるのか!?」
「狼族についてきたとか?」
「いや、待て。人族の娘が見た狼は神の遣いではないのか?」
「あ!そうか!?ならやはり神の遣いが若様を連れ去った!?」
補佐官たちは議論しているが、スタート地点に戻ってきた。
「仮に若様がどこかに連れ去られたとして、大人しく迎えを待つとは思えませんし、獣人たちが若様を目撃したらこちらに知らせが入るでしょう。
問題は、霊山のように誰もいない場所に連れ去られた場合ですね。」
龍栄の言うとおりだけど、龍希の問への答えにはなってない。
「だからどこに連れ去られたと思うかってきいてんだよ!?」
龍希はイライラし始めた。
「我らでは霊山くらいしか思いつきません。神の用事なんて想像しようもない。」
「う~霊山じゃあ俺たち探しに行けないじゃないか!」
「え!?なんでですか!?」
豊は思わず問いかけた。
どう考えても龍希たちが霊山に探しに行く流れだったよね!?
「は!?お前は知らんのか?
霊山に入れるのは子ども・・・まだ一度も異性と交わったことのないやつだけなんだ。」
龍希がめんどくさそうに教えてくれたけど、初耳だ。
それだと当然豊も霊山に入れない。
北都にいる豊の部下たちも無理だ。
「まさか龍風様を迎えに!?」
「は!?絶対にダメだ!族長の若様2人ともに万一のことがあったらどうする!?」
龍海が一番慌てている。
「しかし・・・ほかの竜の子は・・・!?」
「俺の娘は無理です。」
「私の子どもたちもです。」
龍灯と龍算はきっぱり拒否した。
「私の娘は・・・このことを聞いたら探しに行くでしょうな。」
龍栄は渋い顔だけど、拒否はしていない。
さすがは筆頭補佐官で、異母兄というべきか。父娘揃って覚悟が違う。
「・・・おい、豊?解放軍の部下に使えそうなやつはいないのか?」
「北都にいる部下は全員無理です。
それ以前に神が用があって2人を誘拐したなら、その用事が終わるまでは解放してもらえないのでは?」
「・・・じゃあどうしろってんだよ!?」
「いや、私に怒らないで下さいよ、紫竜族長。
神には遣いとやらがいるのでしょう?なのに、わざわざ若様たちを拐ったということは神の遣いでもできないことがあった。
でも紫竜の若様にならできること。
いや、ならなんで私の部下まで!?」
豊はやはり分からない。
なんで柚子まで巻き込まれた!?
今日は新年会だ。
紫竜の使用人獣人も、熊など主要取引先の若い娘も来ているのに、なんで柚子なんだ!?
前回の花の返還はおそらく龍風と、竜縁という娘が選ばれたのだろう。
なんで今回は違うんだ!?
「・・・あ!いや、バカな。さすがにそんな・・・」
「なんだ、豊!?1人で喋るな。俺たちにも分かるように言え!」
龍希が睨んできた。
「あ~いえ、なんでもありません。さすがにバカすぎる仮説です。ありえません。」
「良いから言え!神の考えなんざ分からん。悔しいがお前の発想は補佐官たちよりはましだ!」
龍希に褒められても嬉しくないし、こんな話をして柚子が目をつけられたら困るが・・・いや心配しすぎか?
「族長のご命令とあらばお話しますが、本当にバカな思いつきですよ?
人には男が女に指輪を贈るのは婚約の証という風習があります。若様は昨年、私の部下に指輪を贈った。若様は北都を案内した部下への褒美としか思っていませんが、神にはそんな紫竜の考えは分からない。
勝手に2人を婚約者認定してセットで拐った・・・とか?」
「何言ってんだ!?バカか!?」
「だから!最初にそう言ったでしょう!」
豊はキレそうだ。
なんで龍希にバカよばわりされないといけないんだ!?
「おまっ!?龍希様に怒鳴り返すなよ!」
龍景が慌てて駆け寄ってきた。
「いや族長。バカにはできませんよ。霊山の神は花の窃盗に関与してない龍応まで呪った。何かしらの縁があるだけで標的にされるのです。
ましてや龍陽は人族から生まれた子どもで、我が一族は婚姻時には妻の風習にも従うので、神が勘違いする理由は十分にある。」
なんと龍栄が豊の説に乗っかった。
それにやはり、先の花窃盗は紫竜にも呪いの被害が出ていたのだ。
リュウオウとは誰だ?
「確かに一理あります。今日、本家にはほかの竜の子も、ほかの取引先の娘たちも来ていた。なのに神は人族の娘を選んで拐っている。」
龍算も乗っかってきた。
「あの~仮に、仮にそうだとして、それが?
若様たちを連れ戻すヒントになるんですか?」
問いかけたのは龍灯だ。
「・・・」
「・・・」
「どうなんだ?豊?」
龍希たちは揃って豊を見てきた。
「霊山の神には、男女ペアでないとできない儀式というか、神事的なものはないのですか?」
豊にだって分かるはずがない。
というか笑われて終わる仮説だと思ってたのに!?
「どうだ?竜礼?」
「狼族から聞いているのは年2回の捧げ物だけで、これは狼の巫女たちがしているそうです~
でもわざわざ若様を拐ったということは少なくとも狼の巫女たちにはできないことですね。
一番ありうるのは、また何かが霊山から盗まれたのではないでしょうか?」
「それならまた龍風様たちでは?というか今回窃盗があったとしてもうちは関係ないですよね!?」
「神は龍風様と龍陽様を間違えたのか?
いやそれとも今回は龍陽様しかできないことか?」
龍希たちと議論しても何も分からなかった。




