赤い指輪
~???~
「柚子!柚子!」
「・・・ん?」
誰かが呼んでいる。
柚子の身体を揺すっている。
柚子が目を開くと、心配そうな顔の龍陽に抱き抱えられていた。
「へ!?え?何してるの!?」
「あ!よかった!目を覚ました。」
龍陽はほっとした顔になって、柚子を地面に降ろしてくれたけど・・・
「どこここ!?」
柚子は驚いた。
紫竜本家にいたはずなのに、今柚子がいるのはむき出しの岩壁に囲まれた場所だ。
空は・・・見えない。10メートル以上上にもむき出しの岩でできた天井?が見える。
地面も岩だ。
「分からないんだ。僕もさっきまで気絶してて・・・少なくとも紫竜領じゃない。匂いを全く感じないからね。」
龍陽も困惑した顔だけど、柚子にも匂いが分からない。
こういう場所でも土の匂いとか、水の匂いがするものなのに!?
「あ!あの狼は!?」
柚子は思い出した。
狼に顔を触られて、柚子は・・・
「狼って何?柚子には何が見えてたの?」
「え?龍陽たちの背後に白いワンピースの狼が居たじゃない?
あの狼は女子トイレにもいたの。使用人じゃないの?」
「狼なんて応接室に居なかったよ。それに使用人の服装は決まってるけど白いワンピースはないよ。」
「え?嘘!?私、確かに見たの。」
「うん、分かってる。柚子が嘘をついてないことは。
・・・ちなみに花のような匂いってする?」
「ううん。何の匂いも感じない。
・・・けど、花ってもしかして霊山の花?」
柚子は不安になった。
柚子は霊山から盗まれたという花なんて知らないし、あれは紫竜たちが返還したのではなかったか?
「ごめん。怯えさせるつもりはないんだ。でも、柚子にだけ見える狼と、僕らを紫竜領から拐ってどこか分からない場所に閉じ込めるなんて・・・」
龍陽も不安そうな顔だ。
「花は霊山に返したんだよね?」
「ああ。弟たちがそう言ってたし、それからは人族以外では神罰らしき現象は確認されてないと聞いてる。
なら、霊山以外の神か?なんか心当たりある?」
「ない。」
柚子に心当たりなんてあるわけない。
「ねえ?紫竜が花以外の用事・・・というか頼み事を神様から引き受けたとかないの?」
「ないよ!もう霊山には近づくなと族長命令が出てる。それに霊山の神は花の匂いがすると弟から聞いてるから、今回は霊山は関係ないはずだよ。」
「でも龍陽にはその花の匂いは分からないんじゃないの?」
柚子は豊さんからそう聞いている。
「・・・うん。」
龍陽は渋い顔だ。
「ここはどこだろう?私たちは誘拐されて閉じ込められてるの?」
「ただの岩なら壊せるけど・・・ちょっと上を見てくるから待ってて。」
龍陽はそう言って宙に浮き、上に上がっていったけど、3~4メートルほどのところで止まり、なぜか柚子のところに戻ってきた。
「どうしたの?」
「あれ以上進めない。やっぱりここは普通じゃない。」
龍陽は青い顔だ。
見えない壁でもあるのだろうか?
柚子は一番近くの岩壁に近寄ってみたけど、普通に岩壁に触れた。
見た目も触った感じもただの岩だ。
だけど気づいた。
「ここ、岩で囲まれてるのに、なんで明るいの?」
光なんてどこからも入ってきてないのに、柚子は問題なく見えるのはなぜ?
それに寒さも暑さも感じない。
龍陽の言うとおりここは普通じゃない。
なんで柚子たちはこんな場所に?
「私たちは・・・神様を怒らせて閉じ込められたの?それとも、何か用があって呼ばれた?」
柚子は問いかけながら後者であってほしいと願った。
神様を怒らせた覚えはないけど、人の考えが通じる相手じゃない。
「・・・出口はなさそうだね。狼はここにはいないの?」
龍陽は柚子のそばにやって来て、岩壁を触りながら問いかけてきた。
「いない。・・・ん?」
狼を探して周囲を見回した柚子は気づいた。
あっちの地面に何か落ちている。
「何?どうしたの?」
「あれ、何かあそこに落ちてる。」
「・・・どれ?」
龍陽は目が悪いのだろうか?
柚子は恐る恐る何かが落ちている方に近寄った。
龍陽もついてくる。
近くまで行って分かった。
落ちているのは赤い宝石がついた指輪だ。
さっきトイレにも落ちていた。
柚子が拾ってあの狼に返した指輪だ。
「あの指輪!あの狼が持っていったのになんで!?」
「この指輪?狼の物なの?」
「だと思ったの。狼と会った時、紫竜本家のトイレに落ちてたの。」
「え?本家に!?なのに、なんでここにあるの?」
龍陽はかなり驚いている。
「私、狼の落とし物だと思って、拾って狼に渡したの。」
「え?でもここに落ちてるよね!?また狼は落としたのか?」
「あ!そうだ!?狼は?私、気絶する前に、狼に顔を触られて・・・」
柚子は思い出した。
あの狼が柚子たちをここに連れてきたの?
「僕が目を覚ました時には狼なんて居なかったよ。・・・柚子が見た狼って子どもの死体?」
「え!?死体?違うわ。たぶん生きてる、若い雌狼よ。灰色の瞳をしてた。子どもではないと思う。」
「なら弟たちが見た神の遣いとは別だね。いや、でも霊山の神の遣いは1人とは限らないか?」
龍陽が一緒に考えてくれるので、柚子は少しずつ落ち着いてきた。
「もしも霊山の神様なら、この神様を怒らせたら殺されるのよね?でも私たちは生きてるし、今のところ死にそうな状況でもない。
なら、何か私たちに用事があってここに連れてきた?
この指輪は何か関係あるからここに?」
柚子は自分にも言い聞かせながら恐る恐る指輪を拾った。
さっきの狼に渡した指輪がここにあるということは、狼に渡すことが正解じゃなかった?
でも、ならどうしたらいいの?
どこかに返す?
これは誰の物?
「ねえ?龍陽?霊山の花って見た目は普通だった?」
「え!?いや、僕は欠片しか見てないんだ。でも弟たちが言うには茎も葉もすべて宝石でできた花だったらしいよ」
「この指輪は赤い宝石がついてるけど、それ以外は銀色の金属だわ。宝石の花ってどこから盗まれたの?」
「地面に生えていたのを狼の子が摘んで持ち出したらしい。」
「え!?生えてたの!?」
「うん。花の欠片を返したら、花はひとりでに浮いて再生したらしいよ。」
龍陽は嘘をついてはいないだろうけど、柚子には想像できない光景だ。
「この指輪は霊山の物とは違うのかな?でもならなんでここに?」
この指輪が手がかりじゃないと困るのに、どこからどう見ても平凡な指輪だ。
「狼を探してその指輪を渡せばいいのかな?」
龍陽が意外なことを言う。
「え?さっきも渡したのよ?渡す相手が違ったんじゃない?」
「え?だからまた柚子のところに戻ってきたの?誰に渡したらいいの?」
「私には分からないよ。」
「・・・ん~弟たちは神の遣いからヒントをもらったとか言ってたな。」
「ヒント?いいな。私も欲しい。」
柚子は思わず呟いた。
なんで紫竜だけ特別扱い!?
「え!?」
唐突に柚子の頭の中にある光景が現れた。
指輪をはめて頭上を見上げている光景だ。
「え?私がはめるの!?」
「柚子、どうしたの?」
龍陽はまた困惑しているので、龍陽には見えなかった!?
柚子は半信半疑で、指輪を左手の人差し指にはめてみた。
あの光景と同じように頭上を見上げてみる。
「え!?龍陽、あそこ!なんか穴空いてない!?」
柚子は思わず叫んでいた。
岩壁に1ヶ所だけ穴が空いている。
なんで気付かなかったのだろう!?
「え!?・・・ほんとだ。あんな穴あった!?」
あの穴は龍陽にも見えるらしい。
ここから脱出できそうなのはあそこだけだけど、
「どうやって行ったらいいの?」
穴の高さはたぶん5メートル上
断崖絶壁の岩壁には掴めそうな凹凸がほぼない。
「あそこに行くの?」
龍陽は柚子を抱き抱えて宙に浮いた。
さっきは途中で止まったのに、今度は穴の高さまでいけた。
だけど、穴の奥は真っ暗だ。
どうやら外に繋がっているわけではないらしい。
「どうする柚子?ここに入る?」
龍陽も戸惑っている。
「他に穴はないよね?」
「見当たらないね。」
「この先はどうなってるのか、龍陽なら見える?」
「見えない。こんな暗さくらいなら夜目がきくはずなのに、ここじゃダメだ。」
龍陽の能力はかなり制限されているらしい。
「それでもついてきてくれる?」
「え?もちろん。1人にはしないよ。」
龍陽があまりにも当然のことのように答えてくれたので、柚子はほっとした。
こんな場所で1人になっていたらきっと泣いていたことだろう。
「行こ。帰らなくちゃ」
柚子は龍陽と穴の奥へ向かった。




