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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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狼の使者

~控え室~


龍陽家族との挨拶を終え、柚子たちは最初の人専用の控え室に戻ってきた。

帰りも紫竜の馬車で送ってもらえるらしく、しばらく待ちだろう。



「は~緊張した」


北才も豊さんも疲れた顔で椅子にだらしなく座っている。


柚子はとりあえず宝石のアクセサリーを外して靴をヒールのない自分の靴に変えた。



「どうだった、柚子?芙蓉さんに会った感想は?」


豊さんが尋ねてきた。


「なんか・・・凄かったです。」


「はは。なんだその感想は!?」


豊さんは笑いだした。



「いや、分かるぞ。着飾って紫竜族長と並んだ奥様は別格というか、圧倒されるものがある。」


北才が柚子の言いたかったことを言ってくれた。


優しそうな女性だけど、別世界に住んでいる人・・・それが柚子の印象に残っている。



紫竜に嫁ぐと、夫の屋敷で暮らし、里帰りはできないそうだ。

外出も旅行も夫と一緒で、妻は1人で外に出ることもできないらしい。

なんとも不自由な結婚生活だ。



コンコン



「失礼します。」


最初のワシの執事がやって来た。



「どうぞこちらに。」



意外と早く帰れるな。

柚子はそう思いながら北才と豊さんについて行ったけど、案内された先は、馬車ではなく別の部屋だった。

でも控え室よりも豪華な造りの・・・応接室のような部屋だ。



「ここは応接室ですか?」


豊さんも違和感を抱いたようでワシの執事に尋ねたけど、ワシは答えずに部屋から出ていった。



「なんだ?まだ何かあったのか!?」


北才にも分からないらしい。


「いや、何も聞いてないが・・・」



コンコン



豊さんが言いかけたところで外からノックされ、やって来たのは、龍陽と竜礼と、以前はケイと名乗っていた男だ。

やはりケイも紫竜だった。



「これはこれは若様、竜礼様、補佐官殿。」


北才が頭を下げたので、柚子も豊さんに続いて頭を下げた。


ケイは族長補佐官だったらしい。



「いいわよ、座って。ちょっと補佐官殿からお話があるの~」


竜礼に言われて、柚子たちは席についた。

この女が出てきたということは豊さんとの縁談のことかな?


隣の豊さんは営業スマイルになっているけど、目は明らかに緊張している。



「単刀直入に言うと、人族の侍女を用意してもらいたい。うちには3人の人族出身の妻がいるが、同族の侍女はいないからな。

選任は北の貴族に任せる。だが、侍女が不始末を起こせば、仕える妻も処罰されることがあるし、不始末の程度によっては離婚問題に発展する。

だから急いで変な侍女を用意する必要はない。数が用意できなければさしあたり族長の奥様の侍女だけでもいい。」



ケイは前回会った時とは雰囲気も喋り方も違う。



「・・・畏まりました。私が責任を持って選定しますので畏れ入りますがお時間を頂戴します。人数に決まりはございますか?」


北才が答えた。


「決まりはないけど、熊や白鳥は5~7人ほどね。人族妻の身の回りのことは夫の侍女と、うちから妻専属の侍女を用意しているから、不自由はないようにしてるの。

でも~人族も同族で群れて暮らす生き物だから同族の侍女がいた方がいいと思うのよね~

本来は妻の実家が用意するけど、どの奥様もそれは難しそうだから~」


竜礼が答えた。



柚子は芙蓉さん以外の妻には会ったことないけど、豊さんから聞いている。


龍緑(りゅうりょく)の妻である三輪

龍景(りゅうけい)の妻であるユリ


だ。


ユリはかつて解放軍のメンバーだったそうで、水連町に人の前夫との間の息子がいるらしい。

息子は解放軍のサツキさんが警護しているそうだ。



三輪は解放軍とは関係がないらしく、豊さんでも清水町出身ということしか分かってないそうだ。

しかも三輪の血縁者は清水町に戻ってきておらず、解放軍でも所在は分からない。



「畏まりました。年齢や出身地など、奥様方のご希望はございますか?」


「今度聞いてみるわ。ユリちゃんが解放軍の関係者を希望したらどうします?」


竜礼が補佐官に尋ねている。



「・・・私は妻の侍女選びに意見は出せません。」


補佐官はものすごく嫌そうな顔をしながらそう言うけど、まさかの彼がユリの夫、龍景だったらしい。


だから、偽名として「ケイ」と名乗ってた?

安直だけど、柚子の偽名も似たようなものだ。



「若様はいかがです?族長の奥様はどんな侍女がお好みかしら?」


竜礼の問いかけに柚子がドキリとなった。


龍陽は、柚子を芙蓉さんの侍女として引き抜くために柚子にも優しくしてくれていたらしい。



「え?僕には分からないけど、母上はスミレを気に入っているから、若い侍女がいいかもね。

父上の侍女たちは歳を取ってきたし。」



やはりそうだった。

柚子は侍女として龍陽に期待されていたのだ。


柚子は涙が出そうになったけど、今は我慢だ。

ここでそんな醜態は晒せない。



「侍女の任期に決まりはありますか?」


豊さんが尋ねた。


「それも人族任せよ。紫竜一族は妻の侍女に口出ししないわ。侍女は夫竜の命令に従う必要もない。妻だけの侍女だからね。それゆえに侍女の悪さは妻も連帯責任を負うの。

まあ、分からないことは私に聞いて。人族の奥様たちの担当だから~」


「畏まりました。よろしくお願い致します、竜礼様。」




「それともう一つだ。お前の一族の1人が神罰で死んだ原因は分かったか?」


龍景は今度こそこっちの話題だ。


「死んだ北開の実家に確認しましたが、ペンダントの娘との関係に心当たりはないそうです。」


北才は、北開が娘を強姦していたことは隠したいようだ。



「・・・北都の雹被害はやんだのだろう?」


「はい。今月は一度もありません。」


「・・・」


龍景は困った顔でちらりと竜礼を見た。


竜礼は相変わらずの作り笑顔だけど、内心はやっぱり怒ってるのかな?


豊さんが縁談を避け続けていることには気付いていることだろう。



「死んだ北開と豊に血縁関係はないんでしょ~?」


「い、いえ。どちらも私の従兄弟ですので・・・」


北才は気まずそうだ。



柚子には関係ない話題だけど、もしも、万一、豊さんが結婚することになったら、豊さんの屋敷に紫竜の妻が住むことになるらしい。


牡丹さんとサクさんは嫌がりそうだな。

それで2人が豊さんの元を離れるってなったらどうしよう?



「・・・え!?」



柚子は驚いて声が出てしまった。



なんといつの間にか龍陽たちの背後に、先ほどトイレで遭遇した狼が立っていた。

どうやら紫竜の使用人だったみたいだけど、廊下で見かけた使用人たちとは服装が違うのはなぜ?



「どうした?柚子?」


「あ、いえ、失礼しました。狼の・・・方が入ってきたのに気付いてなくて。」


柚子はあわてて詫びたけど・・・ 



「は?狼?どこに?」


なんと豊さんは気付いていない。

いや、豊さんからも見える位置にいるのになんで!?



「狼?どこにいるの?」


それどころか紫竜の3人も怪訝な顔をしている。



「え?そこに・・・」


柚子が指差したので、紫竜たちは狼の方を振り返った。

というか匂いで分からないの?



狼は紫竜たちが振り返っても微動だにせず、なぜか柚子を見てきた。

柚子は初めて狼と目があった。

灰色の狼の目だけど、なんか変だ。



「え!?きゃ、きゃあ!?」



柚子は今度こそ悲鳴をあげた。



なんと身体が浮き上がったのだ。

なんで!?



柚子の意思に反して浮いた身体は紫竜たちの頭上に向かって動いていく・・・



「柚子!?」


豊さんが手を伸ばしてきたけど、もう柚子の身体には届かなかった。



「や!?な、なんで!?」



柚子はパニックだ。

なんで宙に浮いてるの!?


私の身体はどこに向かって動いてるの!?



「柚子!?何が起きてるの!?」


柚子の腕を龍陽が掴んだ。

龍陽も宙に浮いてるけど、彼は紫竜だから自分で飛べるのだ。


でも柚子は人だから飛べない・・・はずなのになんで!?



と、目の前にあの狼がいた。

なんと狼も宙に浮いている!?


狼は両手を伸ばして柚子の顔に触れた。

なぜか狼から冷たい風が吹いてきて・・・柚子はそこから意識を失った。

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