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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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新年会

~紫竜本家~

1月のある日、柚子は豊さんに連れられて紫竜本家の新年会に来ていた。

紫竜の空飛ぶ馬車が北才の屋敷まで迎えに来て、紫竜本家について馬車を降りると、ワシの執事に案内されて控え室まで来たけど・・・


「・・・」


「大丈夫か?柚子?」



豊さんに問われたけど、柚子はまだ言葉が出ない。



何ここ!?

建物は大きすぎだし、部屋は広すぎだし、装飾品は高価すぎだし、使用人らしき獣人は多すぎだし・・・柚子の想像の10倍いや、もう想像の範囲を超えた世界だ。



「私もまだ圧倒されているよ。」


貴族の北才も呆然としている。

意外なことに、北才も紫竜本家は初めてらしい。



「まあ最初は誰でもそうなるな。だけど、そろそろ2人とも切り替えろよ。ここから先はいつ他の取引先と会うのか分からない。」



豊さんだけは落ち着いた様子だ。

柚子は大きく深呼吸して、用意されていたお茶を飲んだ。


香りのいい紅茶だ。

ちゃんと人が飲める物が用意されている。



「ふ~」


北才も紅茶を飲んで大きく息を吐いている。



貴族は誰も偉そうで、柚子を見下す生き物だと思っていたけど、道中で北才にそんな素振りはなかった。


むしろ、豊さんと打ち解けて話している様子に柚子は驚いた。

豊さんは北才の実の従兄弟とは聞いていたけど、北才は豊さんを見下しているとばかり思ってた。



「私たちは遅い方なのかな?庭にはかなりの数の馬車が止まっていたが・・・」


「たぶんな。取引の時と同じく取引先の序列順に来るなら、俺たちは後ろから3番目だ。」


「なら新年会会場に呼ばれるのもかなり後か?」


「いや、族長家族のいる会場に入れるのは主要取引先のみらしい。それに、会場に呼ばれるのは序列の高い順だろうな。取引の時もそうだった。」


「なるほど。露骨だなぁ。そりゃどこも取引先の序列に拘るわけだ。」


北才はため息をついてまた紅茶を飲んでいる。

柚子は2人の会話を聞きながら、備え付けの姿見で身だしなみを整えていた。



豪華なドレスに、宝石の髪飾り、イヤリング、ブローチに、慣れないヒールの靴だけど、紫竜本家の豪華絢爛さを目の当たりにするとなんとも粗末な格好に見える。


いや、柚子は目立ちすぎない方がいいのだけど、とにかく場違い感がすごい。



「・・・豊さん、ちょっとトイレに行ってきます。」


「ああ、気をつけてな。その札持ってけよ。」


豊さんは赤い札を柚子に渡してくれた。

先ほど案内してきたワシの執事に言われたのだ。

控え室から出るときはこの札を持って行けと。

そうしないと不法侵入者と見なされて命はないらしい。



柚子はそっと控え室を出て、斜め向かいのトイレに向かった。

廊下にいた猫や犬の使用人が柚子を見てきたけど、誰も近寄っては来なかった。



それでも怖い。

単独行動なんてバカだけど、さすがに豊さんにトイレまでついてきてなんて言えないし!




「トイレまで広・・・」


柚子は何事もなくトイレを終えて手を洗いながら呟いた。

誰も入ってこなくてよかった。


早く控え室に戻ろう。



コツン



「ん!?」


足に何か当たった?


見ると、柚子の足下に赤い宝石のついた指輪が落ちている。



『落とし物かな?』



柚子はかがんで指輪を拾った。

後で紫竜の執事に渡せばいいかな?



「わ!?」


立ち上がった柚子は、狼の獣人にぶつかりそうになって声が出た。


いつの間に!?

白いワンピースを着た雌狼の獣人がすぐ近くまで来ているのに気付かないなんて!?


狼は動じていない。というかどこを見ているのだろう?

柚子とぶつかりかけたのに、柚子とは全く違う方向を見ている。



「落としましたか?」


柚子は狼に問いかけていた。

指輪を落とした狼が戻ってきたのかな?




「・・・」


狼は無言で指輪を受け取ると、トイレの奥に歩いていった。



『なんて失礼なやつ!』



柚子はムカついたけど、何も言わずに控え室に戻った。

獣人に礼儀なんて求めても無駄だけど、理不尽に攻撃されなかっただけましだけど、それでもムカつく!




「お!無事に戻ってきたな。」


柚子が戻ると、豊さんと北才は立ち上がっていた。

それに先ほど案内してきたワシの執事がきている。



「ご案内します。」


ワシに言われて控え室を出たので、柚子は狼のことを報告する暇がなかった。




~???~


ワシに連れてこられたのは先ほどの控え室の10倍はある広間のような部屋だ。


5つの丸テーブルが等間隔に置かれており、うち2つには白鳥の獣人たちと象の獣人たちが座っている。


主要取引先のテーブルだとすると、ここはまだ新年会会場ではないようだ。

紫竜の席がないから。



「人族はこちらのテーブルです。」



ワシは真ん中のテーブルに案内すると会場を出ていった。



豊さんの言ったとおりだ。

主要取引先の序列は、熊、狼、人、白鳥、象らしいので、下の序列から先に案内されてきているのだ。



象のテーブルにも3人。一番豪華な着物を着て、宝石のついた冠を被っている雄象が族長だろう。赤い宝石のついたネックレスをしているのは取引担当の補佐官象かな?

その隣には若い雌象だ。豪華なドレスに大きな宝石のついたイヤリングとネックレスをしているけど、顔はすさまじく暗い。

たぶん龍陽の花嫁候補として連れてこられた族長娘だろうに、愛想笑いをしてないどころか、明らかに落ち込んでいる顔だ。



白鳥の方も、族長らしき雄白鳥と雌の補佐官とともに豪華なドレスを着た若い雌白鳥がいる。

こっちの若い白鳥は青い宝石のついたティアラをしてやはり着飾っているけど、白鳥の顔は明らかにかたい。

というか顔色悪すぎない!?



コツコツ



会場入り口の足音に気付いてみると、犬の執事の案内で狼族が入ってきたけど、

金の刺繍が入った豪華な着物を着た狼族長、補佐官の証である腕輪をつけた雌の補佐官と、若い雄狼だ。

たぶん彼が竜冠(りゅうかん)の縁談相手だろうけど、雌補佐官は、さっき柚子がトイレで遭遇した狼とは別人だ。

じゃあトイレの狼は誰?




「どうも北の貴族殿、北豊殿。」


狼族長は席にはつかず、柚子たちのテーブルにやって来た。



「どうも狼族長殿。今日は一段とおきれいですな。」


北才と豊さんがさっと立ち上がり、北才はお世辞を言いながら狼族長と握手をする。

柚子も一瞬遅れて立ち上がり、笑顔を作った。



「ふふ。相変わらずお上手だこと。そちらのお嬢様は初めましてですね。ご息女・・・ではありませんよね?」


まさか狼族長自ら探りにくるとは予想外だ。

しかもどうして北才の娘のことを知っているのだろう?



「ええ。北豊の部下です。男2人では華がないので連れてきました。狼族長に自己紹介なさい。」


「初めまして、ユズキともうします。」


柚子は軽く頭を下げながら偽名を名乗った。

柚子はまだ真名を明かすなと言われている。



「初めまして。可愛いお嬢様さん。素敵な指輪ね。」



狼族長はそう言うと狼族の席に戻って行ったけど、柚子はぞっとした。


なんでわざわざ柚子の指輪だけ?これだけは宝石もついていないのに。



コツコツ



今度は熊族がやって来た。

宝石がちりばめられたドレスを着ている先頭の雌熊が族長だろう。さすがは東の商業大国だ。ドレスの豪華さは会場一だろう。


続く雄熊の補佐官は柚子も知っている。熊族長の夫だ。

さらに豪華な着物を着て、これまた大きな宝石のついたイヤリングをした若い雌熊が、熊族の花嫁候補だろうけど、営業スマイルを浮かべている熊族長夫婦とは対照的に若い熊の表情は暗い。



熊族長たちはまっすぐに熊族のテーブルに向かって行ったけど、夫熊だけは座らずに、まずは狼族のテーブルに行って少し談笑した後、柚子たちのテーブルにやって来た。



「どうも北の貴族殿、北豊殿。」


「どうも補佐官殿。お久しぶりです。」


柚子は今度は豊さんたちと同時に立ち上がり、北才が熊補佐官と挨拶するのを作り笑顔で見ていた。



「北都は雹被害で大変だったと伺いましたが、本日は会えて嬉しゅうございます。北豊殿の部下のお嬢さんもご一緒なのですね。初めてまして。」



柚子は驚いて声が出そうになった。

なんで熊は柚子のことを知ってるの!?



「よくご存知で。彼女はユズキと言います。どうぞお見知りおきを。」


北才が営業スマイルを浮かべたまま答えてくれたので、柚子は喋らずにすんだ。



夫熊は白鳥と象のテーブルをちらりと見ると、そちらには行かずに熊族のテーブルに戻って行った。



白鳥と象とは仲が悪い?

いやそうだとしても5種族しかいないのに、無視はひどくない?


それとも狼も熊も柚子のことを探るためにわざわざ来たのかな?

それはさすがに自惚れすぎ?



だってこの中で柚子だけは紫竜の縁談候補にならないのだから。



「お待たせしました。熊族はこちらに。」



今度はヒョウの執事がやって来て、熊の3人を隣の会場に案内していった。


ここは主要取引先共同の控え室だったみたいだ。

あっちの部屋に龍陽たち紫竜族長家族がいるのかな?



柚子はドキドキしてきた。

紫竜族長家族と直接会える機会なんてそうそうないらしい。


牡丹さんもサクさんも、族長妻である芙蓉とは会ったことがないそうだ。


司令官の友人で、陽助さんの従姉妹で、豊さんが惚れているらしい女性ってどんな人なんだろう?



狼族が呼ばれてから10数分後、ついにヒョウの執事が柚子たちを呼びに来た。


北才と豊さんも営業スマイルが崩れて緊張した表情になっている。

柚子も口から心臓が飛び出そうなくらい緊張してるけど、なんとか床を見ずに前を向いて歩いた。


さっき、若い熊と狼が下を向いたまま隣の会場に入って行くのが見えて、それがとても自信なさげに見えたからだ。



「族長家族はこちらに。」


ヒョウの執事はそう言って扉を開き、中に案内した。



先ほどの控え室と同じくらいの広さの部屋だ。

真ん中あたりに5人立っている。



紫竜族長の顔は龍陽に良く似ている。

あと20年くらいしたら龍陽はこんな顔になるのかな?

でも、雰囲気は龍陽と全く違う。営業スマイルを浮かべているのにものすごく威圧感というか・・・なんか怖い。


そんな族長に肩を抱かれ、お揃いの濃い紫の着物を着ている人の女性が芙蓉さんらしい。

こちらはなんとも優しい笑顔と雰囲気の中年女性だ。

龍陽の優しげな雰囲気は母親似なのだろう。



龍陽は今日はすごくお洒落だ。

先月に会った時から髪を切って、今日は前髪をかきあげている。

おでこまで肌がきれいで、ニキビの一つもない。紫竜にニキビはできないのかな?

豪華な濃い紫の着物と袴がとても似合っている。



隣は初めて見る女の子だけど、龍陽の妹の竜琴(りゅうきん)だろう。

彼女は母親の芙蓉さんによく似ている。


その隣の男の子は先月会った龍風だ。

彼は長めの後ろ髪を一つに結んでいる。こうして並んでいるのを見ると、龍風の顔は母親似だけど、雰囲気は父親似だ。



「人族は初めてだな。」


「紫竜族長、奥様、本日はお招き頂きありがとうございます。」


挨拶した北才はまだ緊張した顔だけど、豊さんは営業スマイルに戻っている。

すごく自然な笑顔に見えるほどに。



「北才さんお久しぶりです。北才さんも、豊さんも昨年末は息子たちがお世話になりました。」


芙蓉さんの喋り方はとても上品だけど、なんというか親しみやすい話し方だ。

それに豊さんのことを北豊ではなく豊さんと呼んでいる。



「とんでもございません。いつでも歓迎でございます。」


「若様方に楽しんで頂けたようでよかったです。」


芙蓉さんと話している時は北才も豊さんも笑顔になっている。



「豊だけじゃなく柚子も一緒に案内してくれたんだよ。」


龍陽がそう言って柚子に微笑みかけてくれたので、柚子はびっくりした。



「まあ!?あなたが柚子ちゃん?龍陽から聞いてるわ。選んでくれた入浴剤がとてもよかったわ。お肌がスベスベになって、柚子湯とは違うお風呂を楽しめたの。」



芙蓉さんは優しい笑顔を柚子にも向けてくれた。



「は、はい。よ、よかったです。」


柚子は緊張でそれしか言えなかった。

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