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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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霊山の神罰

~狼族領 霊山~


北都で青い花びらが見つかってから2日後、龍風は竜縁と再び霊山に来ていた。


昨日の夜遅く、父と龍栄、竜縁が本家から花の欠片を持って北都まで来た。

今朝、父は兄、龍算、竜礼には本家に戻るよう命じ、龍風は父の馬車で、竜縁は龍栄の馬車で霊山の入口までやって来た。



「ダメだ。ここから先、俺たちは進めない。」


父と龍栄は馬車の一角獣たちと同じ場所で立ち止まった。



「行ってくるよ。」


龍風は竜縁とともに霊山に入った。

相変わらず吹雪いていて寒いけど、北都みたいに雹は降っていない。



「どこまで花を返しに行けばいいの?狼たちが捧げ物をする洞窟?」


竜縁は龍風の腕を掴んで不安そうに問いかけてきた。



「霊山の神様!紫竜族の龍風と竜縁です!花をお返しに来ました。」



龍風はまた霊山に向かって叫んでみた。



「・・・!」


またあの花の匂いだ。

同時に龍風たちの周囲だけ吹雪が止んだ。



「龍風!」


竜縁が指差した先には狼の子の死体が立っている。

神の遣いだ。



「あの狼に渡せばいいのかな?」


龍風と竜縁が神の遣いに近づくと、神の遣いは身体ごと右を向き、木が生い茂る方へと浮いたまま動いていく。



「あ!まって!」



龍風たちは後を追うしかない。



「ど、どこ行った!?」


神の遣いは木々の間を縫って進むので、龍風は見失ってしまった。


どの木にも雪が積もっているので視界が悪い。



「・・・こっちだ。」



神の遣いからもあの花の匂いがするのが幸いして、龍風は見失った神の遣いに追い付いたのだが、



「え!?ちょっと!?」



神の遣いはなぜか地面に横たわっている。



「え!?どうしたの?」


竜縁も気付いて戸惑っている。



「あ!!」



目の前に横たわる狼の死体から花の匂いが消えた。



「え?え?持ってきた花はどうしたらいいの?」



竜縁が問いかけてくるけど、龍風にも分からない。

分かるのは、目の前にあるのはもうただの狼の死体だということだ。



なんで?

花はここに置いていけばいいのか?


いや、死体のそばに置くのはダメかな?



「竜縁、一緒に考えて。目の前にあるのはもうただの狼の死体だ。神の遣いは居なくなった。まだ花を返してないのに。」



「え!?そうなの?私にはやっぱり匂いは分かんない。でも神の遣いは死体を置いてどこかに行ったってこと?

なんで!?」



竜縁にも分からないらしい。



「どうしよ?ここに花も置いていく?」


「え!?大丈夫なの?せめて狼たちが捧げ物をする洞窟まで行かない?」


竜縁の言うとおりにした方がいいかな?

でもならなんで神の遣いはこっちに来たんだろう?



龍風はそう思いながらも竜縁と洞窟に向かおうとしたのだが、



「え!?動けない!?」



足が地面にくっついて動けない。


「な、なんで!?」


竜縁は悲鳴をあげている。



「え?ここ?」



龍風は足以外は動くので、リュックから花の欠片を取り出した。


5色の花びら、2枚の葉っぱに茎が1本

白鳥にバラバラにされた花の欠片だ。



「あ!?」



なんと欠片たちが勝手に宙に浮き上がった!?



「わ!?なんで!?」


竜縁は怯えた顔で欠片たちを見ている。



欠片たちは宙をふわふわと漂い、地面の狼の死体の上に来ると、突然光輝いた。



「うわ!?」


「まぶし!?」


強烈な光に龍風は思わず目を瞑ったけど、まぶた越しにも分かるほどの強烈な光だ。



「・・・おさまった?」


どのくらい時間が経ったのだろう?


まぶた越しの光がなくなり、龍風はそっと目を開いた。



「ああ!?」



なんと目の前に横たわっていたはずの狼の死体は消え、代わりに花が1本、雪の積もった地面から生えていた。


バラバラだったはずの花が再生している。



「うそ・・・」


竜縁も両目を開いて驚いている。



「これでいいんだよね?」


「うん。あ!足が動くよ!帰ろ。」


竜縁の言うとおり龍風も今度は歩けた。



「・・・あ!待って!」


龍風は立ち止まって、花の方を向いた。



「霊山の神様!僕たち紫竜一族が花を取り返しました。一族の龍応(りゅうおう)は花の窃盗と関係ありません。花の欠片が知らないうちに家にあっただけなんです!

どうか龍応は助けてください!」



龍風は精一杯叫んだ。

花の欠片を手にした獣人たちは皆死んだらしいけど、龍応は助けてもらいたい。



「・・・」



龍風は期待して待っていたけど、もう二度と神の遣いが現れることはなかった。



~紫竜本家~


翌日、龍風たちは紫竜本家まで帰ってきたけど、竜縁はずっとべそをかいている。



「どうしよ~龍応は?助からないの!?」



父も龍栄も龍風も何も答えられない。

いつもはうざいぐらいに娘を構う龍栄も昨日からずっとおし黙っている。



「ねえね!パパ!」



本家から走ってきたのは・・・



「り、龍応!?」



龍栄と竜縁は驚いた後、2人で龍応に向かって駆け出した。



何ヶ月も寝込んでいた龍応はかなり痩せているけど、自分の足で走っていて、龍栄と竜縁に飛び付いた。



「ひどい!どこいってたの!?」



龍応は何も知らされていないようで、置いていかれたと思ってるみたいだ。



「龍応!よかった!」


「え~ん!よかった~」


龍栄と竜縁は大泣きしながら龍応を抱き締めている。



龍風は父に促されてそっとその場から離れた。



これでようやく紫竜一族は元通りだ。




~北都~


12月の終わり、豊は北才に呼ばれて北才の執務室に来ていた。

北才の息子の北研(ほくけん)と昨日退院した北開もいる。



「紫竜から連絡がきた。2日前に霊山への返還を終えたそうだ。

だが、首都の第二家はその同じ日に前代未聞の雹が屋敷周辺に降り注いで、一族は全滅したらしい。」



北才の話に豊は背筋が冷たくなった。

そんな偶然ありえない。


紫竜たちの言うとおり、霊山の神罰は確かにあるのだ。

そして・・・



「今日もひどい雹が北都に降り続いているのですが・・・これも?」


北研の言うとおり、2日前に霊山に返還を終えたというのに、昨日も今日も異常な雹被害は続いている。

周辺の町や隣の狼族では雹は降っていないらしく、神罰の標的になっているのは北都だけだ。



「やはり俺はしばらく北都を離れます。」



豊は決めた。


豊の実家である第四家はもう10年以上前に滅んだので、豊の祖先と第二家に繋がりがあるのかは調べられない。

だが、首都の貴族間での婚姻は盛んだったので可能性は十分ありうる。


神罰は霊山の欠片を所持した者の親族にまで及ぶらしく、もしも神罰の狙いが豊なら・・・



「待て。その前に北開にききたいことがある。北豊も立ち会え。」


北才は珍しく険しい顔だ。



「ご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありません。なんでしょう?北の貴族殿?」


北開はまだ頭に包帯を巻いているが、元気そうだ。



「貴族の娘が自殺した理由に心当たりはあるか?」


「ございません。」


北開は即答したが、豊はもう想像がついていた。



北開が軟禁されていた娘に夜間に会いに行き、その直後に娘が飛び降り自殺したとなれば・・・



「娘の死体は雪に埋もれて腐らずに残っていた。医者たちに検死させたらすぐに分かったぞ。生前に性的暴行をうけていた。」


北才はもう調べていたらしいが、北研だけが驚いている。



「お前どういうつもりだ!?」


北開に殴り掛かろうとした北研を豊は腕を掴んで止めた。


「離せ、北豊!?てめえ、この野郎!?」


怒りで暴れる10代の北研を抑えるのはかなりキツいが、北才の跡取り息子に怪我をさせるわけにはいかない。



「何をそんなに怒っているのです?お祖父様の代ではよくあったことでしょう?」


北開は平然としている。

バレたらバレたで構わないと思っていたのだろう。




北研の祖父で北才の父親だった先々代北の貴族は、女ぐせの悪さで有名だった。


年老いた庭師たちが黙って娘の死体を隠したのは、慣れていたからだろう。

貴族に暴行され、嘆いて自殺した娘の死体を始末することに。


だから北才は紫竜相手でも娘の死体を隠していた庭師たちを庇ったのだ。


見張りの兵士もおそらく娘が襲われたことに気付いていたはずだが、北才にも報告していなかったようだ。


北才もその息子たちも女ぐせは悪くないどころか、貴族としては潔癖すぎるくらいなので、兵士たちは北開との争いを避けたかったのかもしれない。



「私の代では許していない。」


北才は怖い顔で北開を睨んでいる。


「そんなにお怒りになることですか?首都の貴族がわざわざ未婚の娘を寄越した目的くらいお気づきでしょう?まあ、もう娘の実家は滅亡したようですが。」


「関係ないな。私はお前を許さない。一族の面子と死んだ娘の名誉のために公表はしないが、お前には死んでもらう。」



「は!?北才殿!?ご冗談でしょ?あんな娘のために?」



北開はさすがに顔色が変わっている。



「お前も、私の生まれを知っているだろう?

父は・・・母を無理矢理襲って妊娠させ、そのせいで母はどこにも嫁げなくなり、父の側室になるしかなくなった。

俺は生まれたときからずっと、人生を狂わされた母を見てきたんだ。

俺の代では相手が誰であれ卑劣な暴行は絶対に許さない。息子たちにも極刑だと教えてきたんだ。」



「いやいや!待て、北才!」


北才のあまりの怒りぶりに、豊はさすがに声をあげた。

北開にくぎをさすための演技かと思っていたけど、違う。


北才は本気で北開を殺すつもりだ。



「なんだ、北豊?」


「北開は殺せないだろ?紫竜の縁談がある!俺が北都を離れたらこいつしか・・・」


「紫竜との縁談はまた延期だ。神罰と思われる雹が終わらない限り、紫竜は縁談はごめんだそうだ。

それに最悪、北研を推薦する。」


「はあ!?何言ってんだ!?跡取り息子だろ!?」


豊は今度こそ悲鳴をあげた。


ありえない。

娘を憐れに思う気持ちはあるが、北開を殺すほどとは思えない。

むしろ、北開に紫竜の縁談を受け入れさせる格好の口実なのに!?



「父の息子はほかにもいますから。こいつを生かしておくことなんてできません!」


「北研!?冷静になれよ!?お前は跡取りなんだぞ!人外の妻なんか、紫竜なんか絶対にダメだ!

北開に罰を与えたいなら、紫竜の縁談を飲ませればいいだろ!?

そうしたらもうほかの女には手を出せなくなる!」



「・・・あ!待て!」



なんと北開が逃げ出した。


北研はかなりの力で豊を振りほどいて、北開を追いかけて行く。



「北開を捕えろ!」


北才も北開たちを追いかけながら廊下の兵士たちに命じるので、豊も追いかけるしかない。


兵士たちは戸惑っているがすぐに動いた。

主である北才には忠実な兵士たちだ。



「ぎゃあああ!!!」



豊と北才が屋敷を出る直前、外から北開の悲鳴が聞こえてきた。


まさか北研が殺したのか!?



豊と北才は競うように走って外に出たのだが、


あまりの光景に呆然として立ち止まった。



北開は地面に倒れ・・・なんと大きな氷の塊の下敷きになって死んでいる。


そのすぐそばでは北研が腰を抜かして地面に座り込んでいる。



「ほ、北研!?無事か!?何があった!?」


北才が北研に駆け寄ったけど、豊はまだ動けない。


なんだこの光景は!?



「そ、空から氷の塊が落ちてきて、北開を直撃して・・・」


北研はまだ腰を抜かしたまま呆然とした顔で答えているが、怪我はなさそうだ。



「空から?」


北開を押し潰している氷の塊は直径が1メートル近くある。

こんな物を誰がどこから落とせるんだ!?



豊は呆然としたまま空を見上げた。



ずっと北都上空にある分厚い雲しかない。

まさか超特大の雹が落ちてきた!?


いやまさか。


北開は死んだ娘の家族ではないし、娘を生前に襲ったことを霊山の神様とやらが罰するはずもない。



「え!?」



なんと上空の分厚い雲は霧となって消えた。



「は!?」


「う、嘘だろ!?」


周囲が騒がしくなってきたので、兵士や庭師たちも雲が消えたのが見えたらしい。



「いや、ありえない・・・」



雲は流れていくものだ。

霧となって消えるなんて・・・それもあんな分厚い雲が!?



「やはり雹は霊山の神罰か?あんな雲が一瞬で消えるなんてありえない。」



北才が北研を支えながら豊のそばに歩いてきた。

北研は腰を抜かしたのだろう。顔色も悪い。



「いや、ありえないだろ?北開は娘の家族じゃない。神罰の標的にはならないだろ?」


「私には神様の考えは分からん。だけど、紫竜では肉体関係を結ぶのは夫婦間だけという考えなのだろう?」



北才の仮説に豊はゾッとした。



北開も襲われた娘も婚姻の意思なんてなかった。

誰が見ても娘の同意のない強姦だ。

だが、神にはそんな人の意思も事情も分からないかもしれない。


あの晩、北開がペンダントを持つ娘を襲ったことで、神に夫婦認定されて、北開まで神罰の対象になったのか!?



「ありえないだろ・・・」


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