庭師たち
~北才の屋敷~
「今日も町探し?」
龍風は起きた瞬間から憂うつだ。
寒くてあんまり眠れなかった。
窓を閉め切ってストーブ焚いてるのに、なんでこんなに寒いんだ!?
「当然だ。あと4日くらいで北都を探し尽くせるんだ。」
朝起こしに来た兄はなぜかやる気で、龍風を急かして支度をさせる。
「若様方、おはようございます」
龍風たちが支度を終えるころ、豊と北才がやって来たけど、昨日まで居なかった女の子を連れている。
「あ!柚子、先月ぶり」
兄は知っているようで、女の子に笑顔で挨拶しているけど、龍風は興味ない。
「柚子と申します。」
女の子は龍風に挨拶してきたので、龍風は軽く会釈した。
めんどくさいけど、母の教えだ。
「じゃあ行こうか。」
「いえ、若様。畏れながら先に確認したいことがございまして、北開がまもなく参りますので少しお時間をください。」
北才が引き止める。
「何?また北開?」
「はい。北開が部屋を出る時、娘は死体になっていなかったのかを念のため。」
「え?どういうこと?」
兄は驚いているけど、龍風は期待してしまった。
もしも娘の死体を北開が隠しているなら、もう町に出なくていい。
「念のためです。娘の死体を窓から投げ落とせば、誰にも見られずに隠すことは不可能ではないので・・・」
「き、北の貴族様!?」
ドタドタと男が一人走ってきた。
「なんだ?若様方の御前だぞ!」
「も、申し訳ありません!北開様が!大きな雹が降ってきて倒れ、意識がないそうです!」
「何!?」
「バカ言え。いくら拳大の雹だからって意識を失うことはないだろ?」
豊が否定して、北開が運び込まれた医務室に皆で向かったのだが、
北開は本当に気絶していた。
拳大どころかサッカーボールほどの大きさの雹が降ってきて、気づいた北開は避けたが、足を滑らせて地面で頭を打ったらしい。
雹って日に日に大きくなるものなのかな?
「雷浴びせて起こす?」
龍風は提案したけど、兄と龍算に却下された。
「なんで!?」
「人の身体は弱いんだ!雷浴びせたら死んじゃうよ!起きるのを待つしかない!」
「え!?じゃあそれまでは遊んでていい?」
龍風は思わぬ自由時間にときめいたけど、
「いえ、先に庭師たちに話を聞きます。もしも窓から死体が投げ落とされたなら、死体を運べるのは庭師たちしかいません。」
豊が余計なことを言う。
「庭師たちを呼べ。あの日、雪掻きをしていた者全員だ!
若様方、お手間を増やして申し訳ございません。
応接室に戻りましょう。昨日とは違うお菓子をご用意しました。」
「北才は気がきくね。」
龍風は少しだけ機嫌が直った。
~応接室~
「連れて来ました。」
龍風がお菓子を食べていると、さっきの北才の部下が5人を連れてきた。
彼らが庭師らしい。
床に片ひざをついて北才に向かって頭を垂れた。
「顔を上げろ。貴族の娘を探していることは知っているな?
この中に娘の死体を見た者はいるか?順番に、はいかいいえで答えろ。」
北才の問いかけに庭師たちは明らかに動揺している。
「そちらの女から答えろ。」
北才は一番年寄りの女に問いかける。
「・・・はい。見ました。」
「え!?」
兄は声をあげて驚いているけど、大袈裟すぎない?
「・・・どこでだ?」
「申し訳ございません!娘は失踪などしておりません。あの日の朝、頭から血を流して地面に倒れておりました。
3階の窓が開いており自殺したものと・・・見つけた時には冷たくなっておりました。」
女は頭を床につけて白状した。
「なんで報告しなかった!?」
女に詰め寄ろうとした豊を北才が無言で制した。
「娘の死体はどうした?」
「敷地の外に・・・埋葬はできず雪に埋もれております。」
「案内しろ。」
女の案内で龍風たちは北才の屋敷の門を出て、大きな木の下に来た。
ここも雪が積もっているので、北才の兵たちが20人がかりで雪掻きを始めた。
「あ!匂う!」
雪掻きを始めてから10分ほどすると龍風はあの花の匂いを感じた。
こんなに近くにあったのに、分厚い雪のせいで分からなかった。
「出ました!」
兵士の一人が声をあげ、北才が近寄っていって、
金のペンダントを持って戻ってきた。
ペンダントトップには青い花びらがはまっている。
「やったー!!これで帰れる!」
龍風は歓声をあげたのだが、
「何言ってんだ!?これから霊山に返しに行くんだ。ここからの方が近いだろ!」
兄は嫌なことを言う。
「すぐに本家に連絡だ!ほかの欠片を持ってこさせろ!」
龍算は執事に命じて本家に向かわせ、龍風は今日もここに留まることになった。
~応接室~
「なんで庭師は隠してたの?」
竜礼が問いかける。
「申し訳ございません。私の屋敷で首都の貴族の娘が自殺したと分かれば、首都の貴族との争いになると心配したのだと思います。
庭師たちには娘を探している理由は何も知らせておりませんでしたので、紫竜に迷惑をかけるつもりはなかったのです。
全て私の責任です。」
北才は平謝りだ。
「この件はうちの族長に報告して判断を仰ぐわ~」
竜礼はこの場で北才を始末するつもりはないようだ。
龍風としては庭師たちのせいで寒い中娘探しをさせられたのはムカつくけど、これで北才が取引先からはずされることになると、母が悲しむし、また人族のお菓子が手に入りにくくなるので黙っていることにした。
兄も黙ってジュースを飲んでいる。
「ねえ?本家からの返事は明日になるよね?今日はもう遊んでいい?」
龍算が応接室に戻ってきたので、龍風は問いかけた。
寒いのは嫌だけど、ここに留まるしかないなら屋敷に籠るのは暇だ。
「・・・そうですね。今日はもうやることはなくなりましたので。」
「やったー!じゃあお菓子買いに行く!」
「私どもがご案内致します。」
豊はそう言って部下に馬車の手配を指示している。
「・・・私は寒いので留守番してます~」
「私はお供します。」
竜礼は残り、龍算と兄はついてくるらしい。
~北才の屋敷~
龍風たちが豊たちと町に出掛けるのを見送り、竜礼は応接室に戻ると、北才を呼んだ。
「竜礼様、お待たせしました。」
北才はすぐにやって来て、人払いをした。
「ちょっと気になることがあってね~この間から降ってる雹って、北都でも異常な天気なの?」
「は、はい。冬に雹が降ること自体初めてでございます。しかもあんな大きさの雹は・・・60年近く北都にいる私の母でも経験がないと。」
「そう。雹で死者は出た?」
「いえ怪我人はおりますが、死者の報告はありません。」
「異常な雹は霊山の神罰かと思ったけど、例の娘はとっくに死んでいたならおかしいのよね!?
北都には娘の家族はいないのよね?」
竜礼は北都に来てからずっと胸騒ぎがしている。
神の考えなんて分からないけど、北都が神罰の対象になっているなら、北才の担当である竜礼としては見逃せないし、豊が死ぬようなことがあっても困る。
「おりません。娘の血縁者は誰も北都に嫁いでおりませんし、首都から娘の家族も来ていません。」
北才は断言した。
「神罰なら娘の家族が殺されてるはずだから、やっぱり無関係なのかしら?
あの北開も死にそうなわけではないわよね?」
「はい。医師はそう申しております。ただ、頭をうったせいで意識が戻るのは時間がかかりそうです。」
「豊は首都の貴族の生まれよね?娘とは血縁関係にはないの?」
「豊は第四家の生まれ、娘は第二家の生まれですので全く別の一族です。・・・ただ、過去には第四家と第二家で婚姻が結ばれていたはずです。
北開も南の貴族の生まれですので、第二家と過去に婚姻関係があったのかは、問合せないと分かりません。」
北才は竜礼の懸念を察して答えてくれた。
「明日か明後日には霊山に欠片を返還するわ。それで神罰が終わればいいけど、もしも異常な雹が続くようなら、うちとの縁談は更に延期よ。
縁談でこちらにまで被害が及ぶと困るの。」
竜礼は苦渋の決断だ。
最優先すべきは紫竜一族の安全だから仕方ない。
相手は神だ。もしも豊まで標的にされていたら、竜礼には何もできない。




